光
『光の者』くん、無事に生まれ変わります。次回はケール君に軸を戻して行きます
『光の者』として人生をやり直すって、一体どういうことだよ……
もしかして――
「それって、生き返れる……って、ことか?」
一瞬、オレの中で大きな期待が燃え上がった。死んだ、と理解した今、命の価値が、人生への渇望が、再びオレのことを奮い立たせた。
心の中にはオレを殺したとか言う『キューブ』の主への復讐心もあったかも知れない。
どうだ、おまえの思い通りには行かなかったぞ。ざまあみろ。というだけの、幼稚な敵愾心だ。
だが、そんなオレの期待は、悲しそうに首を振る女神によって虚しく消しさられた。
「その答えは半分正解で、半分はずれだよ。まず、君の死は覆らない。そもそも、運命によって定められていたことを早めたに過ぎないからね、運命そのものに与えられる影響は微々たるものなんだよ。だが、死を覆すとなると話は全く違ってくるんだ。分かりやすく言えばビデオテープを早送りするのか、ありえない筈のコマを無理やり挿入させるかなんだ。与える負荷が大き過ぎる……それこそ『キューブ』の主の思う壺なんだよ」
ゆっくりと、どこか息苦しそうに言うと、女神は目をふせた、だが、それは一瞬のことで、再び見せられた瞳は、見惚れるほど、輝きを増していた。
「だけど、君という、元来の『光の者』の欠落は大きすぎるんだ。君が失われて確実に狂う箇所が現れてくる。でも、それはあの世界だけの話じゃないんだ」
女神は、また少しだけ表情を暗くして言った。
あの世界だけじゃないって、どういうことだよ。
「つまり、『キューブ』の主によって乱された世界は一つだけじゃないんだ、他にもたくさんの世界に小さな綻びが生まれている。既に喪われた存在として、君をそういった世界に送ることは出来ない。でも……これから生まれる存在としてなら、その記憶を保持したままだという事を条件に生まれ変わって貰えるんだ」
そして女神は、これらのことは今まで『キューブ』の主に殺された全ての『光の者』にも言って来ているといった。
でもよ、ソレって……
「なぁ、何で記憶を“保持”することが条件なんだよ。それって、オレに都合がよすぎねーか?」
オレの声は自分でもはっきりと分かるほど訝しげだった。抑揚が抑えられ、いつもより数段低い女神を責めるような棘を持った声だった。
しかし。
「いや、君のような『光の者』達には必ず言っているんだ……ある事をしてもらわなくてはいけないからね、それを忘れられては、わたし達からすれば元も子もないというわけさ」
「ある、事……?」
オレの、呆けたような、恐れたような声に、女神が鷹揚に頷いた。同時に繻子よりも細かい髪の毛がしゃらりと、音をたてて毀れ落ちたが、女神はソレを掻き揚げる事もせずに続けた。
「そう、『生命の源』の流れを正してほしいんだ」
「は、はぁ?!」
オレは、聞こえた言葉の突拍子のなさに思わず叫んでしまった。
なんだよ、それ。
「『生命の源』と言うのはそれぞれの世界に運命から直結する、その名の通り『生命の源』なんだよ」
また『運命』か……ソレを、正す、って事はまた此処にも『キューブ』の主がかかわってきてるって事かよ……
「察しが良いね。その通りだよ……『キューブ』の主は『生命の源』を介してでしか運命に干渉できないんだよ。まず、『生命の源』の乱れに干渉して、その世界に綻びを生むんだ。そして狂いは連鎖していって、やつはそうやって運命の乱れを大きくしていく、そして自らの復活を図っているということさ」
なるほどな……つまりオレがそういう世界へ行って『生命の源』の流れを正しいものにすることでその世界への『キューブ』の主の影響力はなくなるし、連鎖も食
い止めることが出来る。
それに、なにより……
「そいつの力を削ぐことが出来るってわけか……」
オレは自然と空を見上げていた。イヤ、その空に浮かぶ紺碧色の美しい立法体を。
『キューブ』は相変わらず泰然自若として天空の一区画を支配している。
あの中に、居る。顔も知らない、オレの敵が……――。
「なあ――」
オレが腹の底から絞りだした声は、自分でも驚く程冷淡で低く、怒りに満ちていた。
「1つ、聞いていいか?」
「……なんだい」
女神は、とっくにオレの心を読んで、既に言いたいことなどお見通しなのだろうが、律儀に返答を返してきた。
そんな彼女の形式美は長年、地上の日本というちっぽけな国で暮らしてきたオレには非常に馴染みがあり、ありがたかった。
「『キューブ』の主は、今までもオレみたいな奴を――」
――殺してきたのか……?
なぜか、最後の言葉だけが、喉につかえて出てこなかった。もしかしたら、やはり、認めたくないだけなのかもしれない。
だが、やはり、女神はお見通しのようで、目を閉じ、透き通った落ち着きのある声で言った。
「ああ、今までも、そしてこれからもヤツは不毛な殺戮を続けるだろうね、男も女も、老いも若いも関わらずヤツが『キューブ』の中から復活する、その日まで」
そうか……
「そうかよ」
その時、オレの心の中はどこまでも穏やかだった。僅かに白波が立つ程度の全く風の無い海のようだった。
決断は自然と降りてきた。或いはこの下された決断は『運命』の物だったかもしれない。が、オレはその時確かに決断を下した。
「なってやるよ。『運命の調律者』に、『光の物』に!」
一瞬、間があった。長い永い、一瞬の空白だ。
気がついた時
「そうか……ありがとう」
女神は、泣いていた。
「実は、怖かったんだ、わたしは。君に断られるんじゃないかと、或いは……」
女神は目を閉じたまま、静かに清らかな雫が頬を伝っていた。
「……君、これから君が何をしなければ成らないか、分かるかい?」
そこで女神は改めて瞼を開いた。涙に潤んだ目がさっきよりも強く光を放って、余計に美しく見せていた。
オレは女神の言葉に首を振るしかなかった。
「君は、戦士にならなければいけないんだ。向こうの世界には『キューブ』の主が運命を乱すために送り込んだ使途が居る。君はそいつと戦わなくちゃいけない。これはいわば『光の者』とヤツの使途の『生命の源』引いては『運命』を巡ったヤツと神々の代理戦争なんだ……それでも――」
「やる。」
オレは間髪を入れないで答えた。
たとえ、その使途だとか言うやつが相手でも負けるつもりはねえし、ぶん殴ってやれる。それに。
「オレはあんたら神々だとか、運命だとかのためにやるつもりはねえよ」
女神は、黙ったまま答えない。オレに先を言えと無言のまま促してくる。
「オレは、これ以上オレみたいなヤツをだしたくないだけだ」
理不尽な死を、与えない為に。
「オレは、自分自身で、決意した」
「……そうか」
女神の顔色に暗さはなく、それどころか寧ろ晴れ晴れとした清涼感さえ感じられた。
「もう一度言わせてくれ……本当にありがとう」
その言葉がオレの耳に届く事と、オレの視界が光に満ちていく事に気がついたのはほとんど同時だった。
そして、オレが気がついた時、世界は純粋な光でみたされて、そして
オレはその世界から消滅した。
リ「っち、どうやらコチラにくるようですね」
レ「ふむ、ここまで、だいぶ時間が掛かったな、それにしても『生命の源』か……」
リ「こうしちゃ居られませんね早速『バビロン』をつかって情報を探させましょう! さて次回は成長したご主人様が魔術を勉強するのまきです。乞うご期待」