サイは投げられた
このお話でプロローグ終了……のつもりです(長かった
次話からなるべく速い速度で進めて生きたいと思います。あと、どうでもいいですがレオンくんの一人称は「我輩」です。理由? 適当です
仄かな灯りだけが、ぬらぬらと剥き出しの岩肌を照らす。等身大の試験管ともカプセルとも着かない円筒状の物体からは上部と底部からそれぞれ夥しいほどの配線やチューブ、コードが天井や床に伸びている。
コードやチューブはまるで生きているかのように脈打って、カプセル内部に可視、不可視の物質を送り込んで中を満たしている。
カプセルは本来透明であるはずなのに中に満ちる液体のせいで、発光する緑色にも見える。天井や床から伸びるコードたちはカプセルの中にも入り込んでいるが、細いものがいくつか見受けられる程度で、大本ほど大量ではない。
そんな異質な羊水に満ちた異形な子宮でわたしは生まれた。この1年間のうちで急成長した魔道組織『バビロン』による、錬金術師どもの研究の成果と言うわけだ。
生み出された時に子供ほどの大きさも無いライオンのぬいぐるみから渡された獲物を強く握り、大きくふりかぶる。
小気味よく空気を裂く音が聞こえて、一拍遅れてカプセルの表面のガラスが砕けてバイオ液が溢れ出し、足を濡らす。
粉々に砕け散った硝子に一瞬映りこんだのは、紛れも無く憤怒を持ったサルの顔だった。
一般に魔道結社と呼ばれる組織と言うのはこの世界にはごまんとあるらしい。俺の作り上げた『バビロン』もその1つに数えられえる。
どうやらこの『バビロン』、巷ではあまり言い噂をされていないようだった。
まあ、そもそもが〈ギルド連盟〉に属していても、職人肌過ぎたり、マッドなサイエンティスト過ぎたりと〈連盟〉になじんでいなかったらしい連中の集まりだから仕方が無い。
腕はいいが性格に難ありという奴だ。しかし、そんな人格破綻者の巣窟みたいなこの『バビロン』。どうやら、この1年で飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているらしい。
ほかのこの町を中心に活動していた魔道結社を次々にに飲み込んで、今やこの国のなかでも数だけは有数と言う有様だ。
え、資金だとかなんだかは一体どこから出ているのか? 悪いが学生時代の政経は赤点がデフォルトだったんだ。そんな難しいことを言わないでくれ。
いや、さすがにソレは無責任すぎたかも知れないな。
俺の一瞬の懊悩に呼応するように鏡の中で長い髪の毛が傾いた。
日の下に出たこともなさそうな白い腕はいかにもひ弱そうだ。足も同様、殴ったら細枝の如くぽっきり逝きそうだ。
小さな肢体に抱きかかえた赤茶色のライオンのぬいぐるみがやたら大きく見える、アンバランスもいいところだ。
鏡に映ったやつが僅かにまゆをしかめた。同時にまた金色混じりの茶髪がすこし揺れる。
白い木綿のシャツに同じくズボン。両方とも兄ラークのお下がりのためにやや大きい。
顔を顰めたまま、鏡の女の子みたいな奴は目力を込めてきた。鳶色の瞳がやや鋭くなる。だが、それこそ背伸びした幼女が意地を張って睨んでるようなかわいらしさがある。
今まで延々言ってきたけど要するに俺のことだよ! 畜生!
「ん、どうかしたかご主人」
「べつにどうも」
本当は内心あらぶっていたが、俺はそんな事はおくびにも出さなかった。まあ、顔にはガッツリ出てたんだけどな!
腕に抱えられたレオンが相変わらずふてぶてしい態度をとっているがいつまでも慇懃な態度を崩さないリコルよりも俺はこっちのほうが話やすく感じてたりもする。
エア=ケール。ソレが今の俺の名前だ。
そして、これから始まる受難とため息の主の名前であることを、俺は、まだ知らない
。
リ「出番が……無い、だと。そんなことよりも冒頭のおサルさんは何者でしょう」
レ「さぁな、だが次回こそは我輩が活躍するに違いないな」
リ「あ、残念でした。次は新キャラが中心のお話らしいですよ。乞うご期待」