忌まわしき十字
就活と卒論でおもったように時間が取れず時間が空いてしまいました……
よう! おれだ! おれだよおれ! ケールだよ!!!
おれは今、梁の上にいる! 何でかって? それは……
「この話は、絶対にケールには話さないで欲しい」
階下から聞こえたのはラーク兄の声だ。記憶が正しければ他にはグレイプ兄、ローレル、リーフ、オリーブにリィエン、そしてメリルちゃんさらにスイカさんの7人が居るはずだ。これも前世であるならおれのサプライズイベントだと思えるが、ラーク兄のあの深刻な声が絶対にちがうと言っている。
ところで、何故おれが談話室の梁の上でミッションインぽっしぶっているかというと、事の起こりは30分まえ、今日もリィエンの手料理をたべたおれは食後のお散歩に出かけていた。リィエンも隣を歩いてちょっとしたデート気分だった。
……が、そこへ昨日の小火を見てきたらしいローレルたちとなぜかスイカさんもいたので挨拶しに行ったのだ。ちなみに野次馬はいやだねぇ、なんて嫌味はいってないゾ?
しかしどうにも、ローレルや兄ちゃんズの様子はおかしかった。おれが近寄った瞬間に解散しやがったかからな! そのくせローレルのやろうはおれのデート相手のリィエンにアイサインを送っていやがったのだ。
もしおれに前世の記憶がなかったら卑屈になるね。いまでもなってるけど。
と、いうわけでこれは何かあると勘ぐったおれはリィエンを尾行することにしたのだ。だって一番ばれなさそうだからね!!
保険としてリコルをローレルに、レオンをメリルちゃんにつけておいたのだが……成功したのはリコルだけだった……
レオンは一瞬でばれ、おれもリィエンと合流したオリーブに追っ払われた。しかしあの時の蹴りは痛かったなぁ……マジで苛められてるのか疑ったもんな……
さて、なぜリコルが成功したかというと、ラーク兄が、ローレルに対して30分後に談話室という伝言をしていたためだった。それを聞いたリコルはおれの元へ即座に帰ってきたというわけだ。えらいぞ! レオンとは大違いだ! となると、あの時オリーブがやってきたのはその伝言のためだったといことだ。
と、いうわけでおれは談話室にさきまわりして、かつばれない場所として梁の上を選んだのだ。しかし……まぁ、察してはいたがおれには秘密らしい。
「……まず、第一にケールは『大聖堂』に一切関わりはない。だからオレは今後も一切、『バビロン』や政戦に関わらせるつもりはない」
毎度のことだが、ラーク兄の言葉は耳に痛い。なにより、守ってくれようとしているのがなおさら辛い。あの時の……国境の山脈でのマルス君の言葉が耳にこだまする。
――君は……お父さんを、〈火燐のオーク〉を裏切ったのか!――
そう……おれは、今またラーク兄を、家族を裏切っている。いや、俺の存在その物がこの世界の全ての生命への裏切りか……
と、まあおれがナイーブになっている間も話しは進んでいたらしい。再び耳をすます。
「……それに周知の通り『大聖堂』は王党派だし、貴族派につくことは絶対にない。『バビロン』に関しても、大司教睨下は組するつもりはないよ」
今度の声はグレイプ兄だろう。その声はリーフを安心させようとしているのかどこか優しげだ。
「お二人の……『大聖堂』の対場はよく分かりました……全面的に王党派だ……という理解でいいんですね?」
リーフの言葉に小さな衣擦れの音がする。どうやら頷いたようだ。それにしても梁の上に寝そべってるのもつかれたなぁ……埃っぽいし。
「それは……もしかして貴族派に後がないから……ですか?」
リーフの放った一言がどうやら空気を換えたらしい。正直おれも耳を疑った……え、なんて言った?
「貴族派にあとがないって……どういうことだよ、リーフ」
こういうときに分からないことを率先して聞けるのはローレルだろう。いいねその素直さ。才能だと思うよ。
「まず、これを見て欲しい」
今度はばさばさと大量の紙の束の崩れる音がした。え、そんなに荷物持ってたの? しかし、オレの今の状態じゃみられるものも見えないじゃないか……
「これは……」
「そう。オルギオーデの商館にあった、ギルド連盟の書類の、写しです」
へぇ、〈マーラ〉って意外と筆まめだったんだな……なんておれが思った矢先だった。
「そして、これが、彼の日記だ……」
今度はまるで辞書を置くような、どすんという音がおれと彼ら以外いない談話室に轟いた。日記ねぇ……おれは大抵三日坊主だったな……
「この日記……!」
驚いて息を呑んだのはスイカさんだろう。証拠物件みたいなものだから彼が一番にみるのは当然だな。
「そう。23年前の、あの日付からです」
23年前……カテン皇帝がケトケイの民を虐殺するために宣戦布告したといわれる、あの戦争。そして同時に、このイスリアが現在の形になったとっても過言ではない、あの戦争……
もしかしたら、おれの『バビロン』もあの戦争が無ければ生まれ得なかったものかもしれないな。
「この日記によれば、『大聖堂』が王党派であることを宣言したのは、今の大司教睨下に交代してからです。それもどうやら〈火燐〉や〈鬼斬り〉の尽力のためと、オルギオーデは記しています」
たしかに、事実だが、でもそれは公然の秘密という奴だろう。反社会組織の長とは言えおれも知ってたし。そういえば師匠も知ってる様だった。さすが元宮廷魔道師。となるとおれの兄弟子たるスイカさんも知ってる可能性は高いな。
「で……オレとグレイプもオヤジたちの後を継いで大司教付の傭兵になったてことだ……さっきも言ったとおり、オレはこの件にケールを関わらせるつもりは一切ない」
そんな過保護なラーク兄をグレイプ兄がからかう声が聞こえる。あ……目に埃が入って涙が……
「それで……ここのページを見て欲しいんです。オルギオーデの日記は王宮に関することも、『大聖堂』に関することも、ほとんど真実が書かれていることは、今のデお分かりいただけたかと思います。だから……きっと、このページも、真実だと……」
え、まって、なに? なんのページ?
「これって……」
驚きのあまり息を呑むオリーブをはじめ、梁の下では驚きが伝染しているようだった。
「メリル……この事、知ってたか?」
ローレルがメリルちゃんに尋ねる声がする。その声が震えているのは、喜びと恐れのどちらのためだろうか。
「いえ……知りませんでした……たぶん、お父様も……」
メリルちゃんのお父様といえば、マルスくんのお父様、つまり、貴族派の伯爵のはずだ。その伯爵さまが知らないだろう事とは?
いったい、オルギオーデ……〈マーラ〉は何を言っていたんだろう?奴はなにをその日記に記していたんだろう。
たしかに、奴は多くを知っていることだろう。なにせ、『バビロン』が成立するまえからそこそこの財はもっていた男だし、裏社会にも積極的に関わっていたはずだ。おれの世界のロックフェラーよろしく、王宮にも多額の献金をしていたことは疑いがない。
そもそも、『バビロン』が貴族派のパトロンになったのは、〈マーラ〉の財力があったからこそだ。この大陸の財政に大きく関わるオルギオーデだからこそ為しえたはずだ。
いったい何を驚いてるんだろう?
「皆さんもご理解いただけたはずです……かの〈貴族派〉の旗印、王国に反旗を翻した二人目の男、サザーランド侯爵閣下と父上、国王陛下との間には密約があったことを」