決意の真相
よう、最近みんなが構ってくれなくて寂しがっているケールだ。と、言っても今はそんなことなくて心はうきうきだ。
その理由はいうと……
「ケールくん、おいしい?」
と、おれの目の前でカリファの巫女さまがいらっしゃるからだ。そしてなんといっても今おれが食べているのはそのリィエンの手料理というわけだ。すばらしい! なんておいしいんだ! いつぞやに食べた消し炭のエリートたちとはわけが違う。これはちゃんとしたお料理だった。
ラーク兄やローレルたちと食べてるときは大抵オリーブが弁当を作ってくれてたけど……うん、考えるのは良そう。人の善意を比べるというのは良くない、良くない。
そんなことより、リィエンもつくってくれるというのはどういうことなんだろう。最近じゃあ手料理ブームがきてるんだろうか?
「ああ、おいしいよ! ところで……最近ローレルたちがおれの事避けてるみたいなんだけど……なんか知ってるか?」
「えっ!? ええっと……ご、ごめん! わたしはよくしらないなぁ……あはは……」
聞いた瞬間明らかに目が泳ぎだしたリィエン。そうかそうか、知らないのか。
……まぁ、なんとなく察しはついてる。おそらくおれを『バビロン』や政戦に関わらせたくないのだろう。言いだしっぺはラーク兄だな。絶対。
……おれは、後ろめたい気がして少し落ち込んだ。自分で蒔いた種なのに寂しがってるんだから滑稽だ。
そんなおれの自己嫌悪が顔に出ていたのだろうか。リィエンは慌てたような声を出した。
「け、ケールくん! 違うの! 別にローレルくんやリーフ様はケールくんが嫌いになったから避けてるわけじゃあないよ! え~と……その、ほら! 最近物騒だからさ!」
おれは、そんな慌てふためくリィエンに薄く微笑むことで答えた。
それにしても最近物騒か……たしかに、この前大きい火事があったっていうし……まあおれはその時寝てたから全然しらないんだけどね。なんでも天をも焦がすほどの大火だったとか……まぁ、噂っていうのは勝手に大きくなるもんだからどうせ小火だろう。
「はぁ……今日は終わったらフローロにでも行こうかな」
なぜかおれはその跡リィエンに全力で駄目だしをされてしまった……
……
……………
………………………………………
また、水滴が落ちた。ここにつれて来られてから何百と見てきた光景だ。決して清潔とはいえない牢獄には窓もなく、ここが一体どこなのか検討もつかない。
牢獄、それ自体が薄明かりを発する『バビロン』の基地の中で、わたしはここに連れて来られた時のことを反芻していた。
最初は紳士的なお客さんだと思った。この国では自分以外見たことのなかった、赤髪に赤玉のような眼に親近感すら抱いた。その人は無口だったが、目や仕草は落ち着きなくそわそわとしていた。
だからだろうか……なんとなく、その人がかわいく思えてきたのだ。たぶん、歳もわたしと5つも離れていないように思えたし、他にお客さんが居ないことも手伝って、わたしはそのお客さんと長いことしゃべり続けていた。
といっても、私が一方的にしゃべっていただけだったけど。
そんなことを一時間ほど続けていたら、そのお客さんは急に立ち上がって、わたしの手をとった。
「……ハンナ……オレと一緒に来て欲しい」
最初はプロポーズかと思った。けれど違った。その人の目はやはり言葉以上に雄弁に心を語っている。色恋ではない。だが、本気でもある。
わたしは手を振りほどこうと引っ張るが相当に強い力で握られているのかそれはかなわなかった。
「っ……!」
その瞬間、部屋はまるでオーブンの中のように、異様な熱を帯びだした。熱で景色が歪んですら見える。そんな、火がつくかと思うほどの部屋の一角に、強烈な光が生まれた。
最初は小さなプラチナのように見えた光はだんだんと膨らんでいき、ついに等身大の人型にまで大きくなった。
そして、その光は、調律の狂った楽器のように、この世界とは異なる理の言葉で発した。
「ねぇ……〈ドラゴン〉そんなまどろっこしい手をつかわなくてもいいじゃない」
それは世界その物を嘲笑するように笑った。そして、光に慣れてきたわたしはその姿を見た。
「……わ、たし……?」
そう、それは確かに幼いころのわたしの姿をしていた。真鍮のように光り輝く姿はとても人間の様には見えず、また静かに中に浮いている姿もそれを裏付けていた。
だが、それ以上にわたしには聞き逃せないことがあった。
「ドラ……ゴン?」
こいつは……『バビロン』の……!?
そう分かった瞬間、わたしは、わたし地震が驚くほど冷静になった。
頭に浮かんだのは、10年前、行方をくらませ、そして、望まぬ形で再会を果たしたあの少年のことだった。
「……いいわ。あなたについていく……」
そういうと〈ドラゴン〉は明らかに安堵の表情を作っていた。