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第十七話

 ウジャヤナガル国王との謁見を済ませたコヴィリャンとヴァンは、カリカットの街に戻ると、船に乗り込んで北を臨み、港町ゴアを目指した。情報収集したところによると、ゴアの街は、軍馬を取り扱う市場が立つらしい…もし、そうであれば、衝突する危険性の高いホルムズで、武器および軍馬を仕入れてくるよりも、幾分かマシであると踏んだからである。とは言え、この港町はバフマニー王国の支配下なので、輸送先がウジャヤナガル王国であることを隠した上での取り引きになることは、容易に推測できるだろう…

「価格でいけば、まずまずと言ったところか…」

 コヴィリャンが、そう口にすると、

「おそらく、武器も軍馬も船を使って、他の地域から取り寄せて、ここに集積しているのかも知れませんね…それ故に、経費が発生する分、安くならないのではないでしょうか」

 ヴァンは、そう所感を述べた。

「むむむ…と、なると、これらの軍事品の供給元は?」

「ここから、余りにも遠い地域からだと輸送中に馬がへたってしまうと思います…やはり、ホルムズ辺りが供給元の可能性が強いと考えます」

「結局、そこへたどり着くのか…」

 思わず、コヴィリャンは、そうため息を漏らした…その後、彼らは、イスラム教徒の港町ホルムズに渡り、隠密行動での現状確認を行ったのであった。


 そして、1489年には、アラビア半島沿岸からアフリカ大陸東海岸を船で南下し、ソファラに達した。コヴィリャンが、ここを視察地として選んだ理由は、ゴアの豪商から、イスラム教徒が占拠するアフリカ東海岸からインドへ向けて金を運搬する交易ルートがあると情報を得たためであり、それを確認するために、わざわざ遠回りをしたのであった。

「アフリカ大陸の東海岸一帯に、金脈が存在するに違いない…それ故に、イスラム系商人たちが、沿岸部にこぞって拠点を作り、交易していると見た」

 ソファラは、紀元後700年頃から栄え、915年よりアラビア人が沿岸を出入するようになり、イスラム系商人が、それに続いた。1180年代には、キルワ王国の支配下になり、スワヒリ文化圏となった。主に、ジンバブエで採掘した金を海岸まで運ぶためのダウ船が、ソファラ川とサベ川を行き交ったとされている。

「ここまで調べを入れておけば、十分であろう…」

 金脈の在り処をつき止め、アフリカ東海岸とインドを結ぶ交易が行われていることを確信したコリヴァンは、自身の調査するべき内容が全て満たされたことを悟った。こうして、彼らは、パイヴァたちとの合流を図るべく、カイロへと引き返していったのであった…


 長い旅路を経て、カイロに戻ってきたコヴィリャンとヴァンは、そこで衝撃的な事実に直面した。

「パイヴァが死んだだと…」

 彼らよりも早くカイロに戻っていたパイヴァの同行者バルダイアが、重い口を開き、その悲報を告げた…彼が言うには、パイヴァはエチオピア帝国へ入国する直前で病に倒れ、そのまま息を引き取ったらしい…

「我が親友のパイヴァは、敬虔なキリスト教徒であり、今回のプレスター・ジョンの王国についての調査は、とても意欲的だった…それが、目前に控えながら潰えてしまうとは、何と言う無常極まりないことだ…」

 コヴィリャンは、彼の心情を汲み取ると激しく慟哭した。そして、

「パイヴァよ…お前の無念は、この俺が晴らしてみせるぞ」

 亡き親友の成し得なかった大いなる夢を受け継ぎ、誓いを立てたのであった。それを聞いたヴァンが、

「コヴィリャンさん。僭越ながら、僕たちも手伝いますよ」

 バルダイアと共に、コヴィリャンの思いに同調したが、

「それはならん」

 突然、彼はそれを拒否した。

「どう言うことです?」

「これは、親友の敵討ち故、お前たちの手出しは無用だ。エチオピア帝国へは、俺一人で行く」

 その言葉に、

「何故です?」

 思わず、彼が問うと、

「お前たちには、大事な任務がある…それは、母国ポルトガルの同志たちに、今回得た貴重な情報を少しでも早く提供することである」

 コヴィリャンは、力強く主張すると、

「今回の旅で大いに思い知らされたであろう…イスラム、インド、中国は、ヨーロッパ諸国に先駆けて、既に世界の海上貿易のシステムを構築しようとしているのだ…我々は、彼らに対して、大いに遅れを取っており、このままでは世界市場の流れから締め出されるかも知れん…そう、とても危機的な状態にさらされているのだ」

 二人の目をしっかり見据えながら、そう話した。

「しかし…この広い大陸の奥地へ、たった一人で向かうのは、あまりにも危険ではありませんか?」

「心配するな…俺には、亡き親友の加護がある。決して一人ではない」

 彼は、そう言うと、

「さあ、時間が無いのだ。直ちに、母国へ向かえ!」

 次の言葉で、ヴァンたちを促した。

「どうか、道中は十分にお気を付けてください…我々は、母国にて貴殿の帰還をお待ちしております」

 こうして、ヴァンたちは、コヴィリャンの身を案じながらカイロを出発した。そして、彼らの踏みしめる砂の音がだんだん小さくなっていくと、

「行くぞ、パイヴァよ…我らの夢を貫徹するために…」

 彼は、静かに振り返り、その場を去っていったのであった…

 その後、彼との音信は途絶えてしまった…が、それから30年経った1525年にポルトガルの探検家ロドリゴ・デ・リマが、エチオピアを訪れた際、なんとコヴィリャンと遭遇した。彼は、エチオピア王に厚遇されたため、女性まで与えられて平和に暮らしていたのである。だが、彼の願いであった帰国は叶うことなく、彼はエチオピアの地で死んだのであった…


 一方、コヴィリャンと別れたヴァンとバルダイアは、勇み足でアレクサンドリアの港町へ向かっていた…

「祖国のために、今は邁進するのみ…」

 ヴァンは、そう自分に言い聞かせながら、疲れた足を叱咤した。と、その時、

「待ちな、お前ら!」

 ラクダに乗って駆けてきた追剥の集団たちに道を阻まれ、ぐるりと取り囲まれてしまったのだった。

「くそっ…あと少しで、アレクサンドリアの街へたどり着けたのに、なんと運の悪いことだ…」

 彼は、思わず天を仰いだ…と、次の瞬間、バルダイアが所持していた剣を引き抜くと、2名の追剥を鮮やかに瞬殺して、ラクダ2頭を捕らえた。

「最後まで望みを捨てるな、ヴァンよ…早く、このラクダに乗れ!」

 バルダイアに急かされると、すぐさまヴァンは、その背に飛び乗り、

「よし、逃げるぞ!」

 二人は、彼らを操って、その場から逃亡しようとした。だが、

「このまま、逃がしてたまるか!」

 諦めの悪い追剥たちは、それを見て激怒し、追撃してきた。

「くっ…ラクダの扱いは、向こうさんの方が上か…これは、とても振り切れそうにない」

 そう状況を分析し、考えるに至ったバルダイアは、ラクダの首を返すと、

「ヴァン…お前は、このまま逃げろ。俺は、ここで奴らを防ぐ」

 そう叫んだ。

「僕に、仲間であるお前を見捨てろと言うのか」

「お前は、インドへ渡って貴重な情報を獲得し、それが体に染みついている…それに比べて、俺は目的地にすらたどり着けず、途中で引き返した…どちらが、生き残った方が祖国のためになるかなんて、火を見るより明らかな話だ。それに、こんな時こそ、騎士である俺が、その役目を果たさないでどうすることもない…」

 ヴァンの反論に、彼は言い返すと、

「こいつらを片づけたら、すぐに後からお前に追いつくつもりだ…その時は、港町アレクサンドリアで、コーヒーを一杯おごってもらうぞ」

 と、続けた。それを聞いた彼は、

「わかった…必ず、追いついて来いよ」

 と、吐き捨てると、ラクダの腹を蹴とばして走り去った。

「わははは…バカめ、俺たちを相手に一人で立ち向かってくるとは」

「さあ、どこからでもかかって来い…ポルトガルの騎士は、勇敢で義を尊ぶことを、存分に教えてやるぞ」

 嘲り笑いながら襲いかかってくる追剥たちに対して、バルダイアは、騎士道の精神をもって立ち向かった…そして、迫りくる追剥たちを次から次へと斬り捨てていった。

「くそっ…遠巻きにして殺してやる」

 接近戦で勝ち目がないと見た追剥たちは、徐々に彼から距離を置くと、腰に携えていた弓に矢をつがえて、それを一斉に放った。

「ぐはあっ!」

 雨の如き、矢の攻撃を防ぎきれなかったバルダイアは、全身を射抜かれてハリネズミのようになって、ぴたりと静止した。

「よし、勝負ありだぜ…奴の首をかき切って、終わりにしてしまえ」

 頭領の残酷な怒号により、部下たちが彼に接近したが、

「追剥の分際が、出過ぎたことを!」

 さらに、5名が斬り殺された…だが、

「すまんな、ヴァンよ…コーヒーは、またの機会にしてくれ」

 ここで力尽きたバルダイアは、ラクダの背から落下し、砂漠の砂と化したのであった…

「彼は、まさに騎士の鏡だった…」

 この祖国ポルトガルに殉じた一人の騎士の犠牲は、ヴァンにとって生涯忘れられない物となったが、ポルトガルが大きく躍進し、後に世界一の海上帝国を築く礎となったことは言うまでもないだろう…そして、発見のモニュメントの一人となったペロ・デ・コヴィリャンやその友のアフォンソ・デ・パイヴァもまた然りである…


 ペロ・デ・コヴィリャンらが旅立ってから間もなくして、王命を受けたバルトロメウ・ディアス提督は、母国の艦隊と共に大海原へ旅立っていった…

「是が非でも、今回の航海でアフリカの南端をはっきりさせ、インドまでの直接交易ルートを確立してやろうではないか」

 誠実なディアスは、その炎の如く熱く燃える使命感に、その身を委ねたに違いないだろう…だが、彼らの艦隊は、ディオゴ・カンが到達したケープクロスを通過し、さらに南へと目指したところで、不運に遭遇した…類に希を見ない大嵐に遭い、13日間漂流する事態に陥ったのである…

「航路を東に取れ…さすれば、必ずアフリカ大陸へたどり着くはずだ」

 ディアスは、そう命令を出し、艦隊はひたすら東へ航行を続けたが、いつまで経っても大陸は見えて来ない…そんな状況のため、船員たちの苛立ちは、次第にピークまで達したが、ディアスはあくまで冷静沈着に振る舞い、希望の光を捨てることは無かった。

「東に向かっているのに大陸が見えて来ないと言うことは…」

 そう言いかけた時、彼の脳裏にある仮説がひらめいた。

「我が艦隊の位置が、アフリカ南端より南に位置していると言うことではないのか」

 艦隊がアフリカ南端を通り過ぎていることに気付いた彼は、すぐに北上する命令を出した。

「北へ向かうことでアフリカ大陸が見えて来るのであれば、そこがまさにアフリカ大陸の南端であると同時に大西洋とインド洋はつながっていることになる…つまり、船舶にてインドと行き来することが可能であることを証明できる」

 そして、その確信は的中する運びとなり、ついにポルトガル艦隊はアフリカ大陸を北の方角で拝むことに成功した。

 1488年2月、ついに悲願であったアフリカの南端に到達し、同年5月に「喜望峰」を発見したのだった…

 だが、今回の漂流騒ぎで疲労困憊となった船員たちは、このままインドへ向かおうと考えるディアスに対して猛反発したため、彼らの艦隊は止む無く母国へ引き返すことになったのであった…


 その後、ポルトガルとスペイン両国で航海による冒険ブームが過熱し、船団の到達先において、両国間でしばしば争いが勃発した。そこで、抜本的な解決策として、1494年6月7日にスペインとポルトガルの間で条約が結ばれることになる…それが、「トルデシリャス条約」である。

 当時両国が盛んに船団を送り込んでいた「新世界」における紛争を解決するため、教皇アレクサンデル6世の承認によって、ヨーロッパ以外の新領土の分割方式を取り決められた条約で、西アフリカのセネガル沖に浮かぶカーボベルデ諸島の西370リーグ(1770km)の海上において子午線にそった線(西経46度37分)の東側で発見された新領土がポルトガルに、その西側がスペインに属すると定められた。名称の由来は、条約が批准されたカスティーリャのトルデシリャスの地名からとされている。

 後日談とはなるが、マゼランの艦隊が世界一周航海をなしとげて1522年にヨーロッパへ帰還したことにより、地図上に南北に線をひいてスペインとポルトガルの境界を定めても、地球が丸いなら不完全であり、もう一本線をひかなければ分割の意味をなさないのではないかと疑問が起こったため、1529年4月22日に「サラゴサ条約」が新たに締結された。この条約は、モルッカ諸島の東297.5リーグを通る子午線を第二の境界としており、それはニューギニア島中央部を通る。


 そんな情勢の中、ポルトガル王国は、一刻も早くアジア圏の貿易網を確立するため、ある一人の航海士を大抜擢し、その重要な任務を彼に託したのだった…


 この日のリスボンは、風は生暖かくカンカン照りだった…そんな灼熱の日差しに照りつけられる中、立派な体格に見事な髭をたくわえた大男が、サン・ガブリエルと命名されたキャラック船の艦上に、威風堂々と言わんばかりに現れた。

「ついに来るべき日が訪れたな…」

 この日を心待ちしていたヴァスコ・ダ・ガマ提督は、感慨深げに言うと、静かに目を閉じた。そして、深くため息をつき、

「先輩たちの苦労を無にしないためにも、必ずこの航海でインドへの航路を確立させてみせる…母国の繁栄のためにも…」

 かっと見開いて、表情を引き締めると、

「いざ、出航!」

 割れんばかりの大声で、船員たちに命令を下したのだった…


 ポルトガルの海上貿易網は、数多くの先駆者たちが、英知を結集し、血の滲むような努力で築かれていったものである。その中の一人であるヴァスコ・ダ・ガマも、今まさに大きく羽ばたこうとしていた…


 この時、1497年7月8日…

 ヴァスコ・ダ・ガマ提督は、大いなる志を胸に秘めながらリスボンを出発し、インドへと向かったのであった…

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