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第十二話

 カリカットとイスラム系商人の武闘派勢力のポルトガル艦隊への共同襲撃の報は、国内に激震を走らせた…

「まだ、議論が終わっておらぬのに、何と早まったことを仕出かしてくれたものだ…それ以前に、王命すら無い状態で軍隊を動かすなど言語道断の振る舞い…」

 カリカットの穏健派は、その知らせを受けるやいなや激怒し、

「武闘派どもは、先見の明がござらん…確かに、依然として海賊疑惑は残っておるが、本当に欧州からの外交の使者であったら、今回の一件の報復に、さらに数を増やして大艦隊を率いて来るに違いない…そうなれば…」

 圧倒的な武力の差による大敗北を危惧せざるを得なかった。すると、

「穏健派の皆さんがおっしる通りでございますな…それに、このままでは、折角のビジネスチャンスを無に帰すことになりますぞ」

 穏健派の大臣たちと深く結びつきのあるイスラム系の豪商が、傍らから声をあげた。

「ほう…まさか、あなたがポルトガル側を味方する言葉を発するとは思わなんだ」

 彼の話に、穏健派の大臣が目を見張ると、

「我々は、商人でございます。ビジネスの上では、キリスト教もイスラム教も関係ありません。全ての判断基準は、利があるか、害があるかなのです」

 豪商は、淡々と話を続けた。

「では、あなたには、利があると申すのか?」

「はい…そもそも、ビジネスは、時流を読み、その流れにいち早く乗れたものが勝者となり、巨万の富を得られる仕組みなのです。私ならば、ポルトガル艦隊を逆に利用して、懐をさらに温かくさせる方法を考えます」

 この男は、ポルトガル艦隊に欧州の物産を輸送させ、最近インド海域まで足を延ばして交易を図る中国商人たちへ売り込もうと企てているのだ。海路の方が、大量に買い付けができ、関税等のコストも削減できると踏んだのである。

「風が吹けば、桶屋が儲かるとでも言いたいのか?」

 大臣の捻りに対して、

「ここから先は、いくら大臣様といえども企業秘密なので、教えられませんよ。ただ、一つ言えることは、御国においても大きな転換点であり、大きな利益を上げるチャンスであると提言します」

 彼は、涼やかに返した。

「ふむう…お主の利は、未だ分からずじまいだが、我が国の利益が上がることは理解できる。ならば、早急に使者を出し、彼らがここを立ち去る前に彼らとの交易を取り付けるべきだな。その方が、下手な負け戦も回避できるであろう…」

 そう考えた穏健派の大臣は、すぐに使者とその従者となる人物を人選した。そして、ポルトガルへ渡り、詳細に話を詰めるよう命じたのであった。


 一方、ヴァスコ・ダ・ガマは、船員たちに取り囲まれ、絶え間ない訴えの聞き役に徹していた。

「提督…こんな物騒なところは、早くずらかるべきでしょう。インド航路を確立できただけでも大きな功績だ」

「何を臆病風に吹かれている…今回の襲撃に対する報復を無くして、胸を張って母国に帰られるか!」

「馬鹿を申すな。我々の目的は、インドとの交易を確立するためであるぞ。交渉相手と刃を交えてどうする気だ?」

 彼らの愚痴の数々に耐えきれなくなった提督は、

「皆の者、とにかく落ち着け…気になることがあるから、少し時間をくれ」

 そう一蹴した。

「一体、何を気にされているんですか?」

「今回の襲撃は、果たして本当に国としての意向なのだろうか…と言うところだ」

「あんな大集団で攻めてきたのですよ。もはや、どう見ても明白ですよ!」

 と、その時、

「提督、見てください…向こうから、一隻の小船が向かってきます」

 マストの上で監視を続けていた船員が声をあげると、

「また、懲りずにやって来たか…そこまで、徹底的にやりあいたいんだったら、受けて立つぜ!」

 それを聞いた周囲の船員たちが、怒りを頂点にした。だが、

「いや、待て…一隻の小船で何ができる。あれは、カリカットの使者に違いない…」

 提督は、終始冷静に判断すると、すぐに船員をなだめ、

「よくぞ、お越しくださいました…さあ、どうぞ乗船ください」

 丁重にカリカットの使者と従者たちを招き入れた。そして、その使者より、今回の犯行は武闘派の独断であり、国としては交易を望んでいる旨を告げられ、友好の証としてスパイス等の積荷を受け取ると、

「カリカット王の意向、よくわかりました…では、我が国まで、ご案内しましょう」

 提督は、機嫌よく彼らを迎え入れ、ポルトガルへの訪問を許可した。

「提督、我らが間違っておりました…提督の辛抱強さと奥の深い読みには、甚だ脱帽させられましたよ」

 船員たちが、そう大いに心服すると、

「どうやら、俺の目に狂いはなかったようだな…」

彼は、大仕事の達成感を存分に味わったのであった…


 時流を読み、その判断を誤らず…

 それに乗れた者こそが勝者…


 その不思議な夢に、ヴァンはゆっくりと目を覚ますと、


 時流は、風の如し…

 すなわち、風を掴んだ者こそが勝者だ…


 と、続けたのだった…


 そして、出陣の時は訪れた…

「皆様方には、ご不自由をおかけしますが安全のため、セウタの港にて待機されたい…」

 ディオゴ提督が、同乗者だったベハイムたちに話すと、

「全ては、聖戦に勝利を喫するため…我々は、ここで貴艦の吉報をお待ちしましょう…」

 彼らは、次々とポルトガル艦隊の無事を祈願していった。そんな中、

「俺たちは、見習いと言われども航海士だよな…」

 カブラルがヴァンに、ひそひそと話しかけると、

「ああ…間違ってはいないよ…」

 彼は、きっぱりと答えた。それを聞いて、

「やっぱり、俺たちも行くべきだよな…」

 カブラルが続けると、

「その通りだ…」

 ヴァンは大きく深呼吸して、そう答えてから彼と目を合わせた。

「意見は一致したな…ならば、願い出るぞ」

「ラジャー」

 こうして、意を決したヴァンとカブラルは、ディオゴ提督に駆け寄り、すみやかに申し出ると、

「生きて帰れんかもしれんぞ…それでも良いのだな…」

 その脅しに屈することなく、

「我が祖国のため…全ては、覚悟の上で存分に働いて見せます」

 と、堂々と答えて見せた。その若獅子たちの姿を見て、

「よし…乗船を許可する。共に戦おうぞ」

 ディオゴ提督は、満面の笑みを浮かべたのだった…


 一方、自らのアジトである大西洋沖の孤島を出発し、ポルトガル艦隊よりも一足先に出航した海賊王ジャンゴは、船首の先端に立って、前方をじっと凝視していた。

「我らは、裏社会のお偉いさん方たちより支持を受けている身だ…この海域を制し、欧州各国を手玉に取ってこそ、その地位を確立できるのだ。ポルトガルのような田舎国に良いようにやられては、面子が丸つぶれになるってもんだ」

 彼は、心の中で自我の闘争心を高めると、

「この戦…必ずや成功に治め、その後においては、世界の洋上を我らジャンゴ艦隊が統べるのだ」

 己の奥深い場所で眠る野心を剥き出しにした。と、そこへ、

「意欲満々と言ったところですかな…実に、頼もしい…」

 裏社会のボスの一人で丸々と肥え太った男が、ニヤニヤしながら近づいてきた。

「ちょっと、海風に当たりながら考えごとをしたかっただけですよ。ゴンザ殿…」

 この武装集団の筆頭株主とも言えるゴンザの登場に、ジャンゴは躊躇することなく一礼した。すると、

「わははは…そんなにかしこまることは無いぞ。わしは、広い世界の中のたかが一国が誇りと思っている艦隊を徹底的に破壊し、まるで喜劇を見るかのように沈没していく様を見にきたまでだからのう…」

 彼は、皮肉交じりの血の通わぬ言葉を惜しげも無く吐くと、如何にも大金持ちだと言わんばかりの黄金に輝く差し歯たちを見せつけた。

「はい…必ずや、ゴンザ様のご意向に叶うよう、ポルトガル艦隊を殲滅して見せますので、期待してお待ちください」

「あい、わかった…楽しみに待っておるぞ」

 そう言うと、ゴンザは大きく笑いながら、船室へと戻っていった。

「苦手なんだよな…あのお方は…」

 ジャンゴは、そうぼやいたが、

「まあ、あのお方が居てこそ、我々は成り立っているようなものだ…贅沢を言っている場合ではない…」

 思い直すと、再び海洋へと目を移し、

「このまま進めば、我々は風上を取れる…この戦いは、我が手中にある」

 そう心の中で繰り返し呟いた…


 ポルトガル艦隊がセウタを出航してから数時間後のことであった…

「おい、見えてきたぞ…ジャンゴの率いる海賊隊に間違いない」

 乗組員の一人が、そう叫ぶと、

「いよいよ、この時が来たな…」

 ヴァンは、今までにない程の真剣な表情を見せた。それを見て、

「おい、おい…ちょっと顔が怖すぎだぜ、ヴァン…」

 カブラルは、彼の緊張を解してやろうと声をかけたが、

「いや、そうだったな…俺が間違っていたようだぜ」

 その途中で彼の心を悟ったのかのように非を認め、それと同時に己の内に秘める闘争心を高めていった。と、その時、ふいにヴァンは、何かを思い立ったかのように海面を覗き込み、

「若干ではあるが、潮は地中海へと向かっている…」

 そう呟くと、人差し指を少し舐めてから、それを天にかざした。

「そして、生暖かい風が、やはり地中海に向かって吹いているようだ…」

 その分析から、ポルトガル艦隊は海賊船団に対して、位置的に不利な立場にあると考えるに至ったが、

「いや、待てよ…その中で、たまに冷たく感じる時がある。さらに、セウタを出航する時は満潮のピークだった。もしや…」

 何かを悟った彼は、何ふり構わず船長室へと走ったのだった…

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