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第十話

 一方、海賊船に襲われた商船は、無残にも次々と船員たちが彼らの餌食となっていた。

「さあ、船長さんよう…これで、年貢の納め時のようだな」

 ポルトガル商船・船長の眼前で仁王立ちする海賊船の頭領・ユウベルは、低く笑いながら剣を突き付けた。

「むむむ…こんな真似をして、我がポルトガル王国が黙っていると思うなよ」

 船長が、そう返すと、

「あの世に行ってからも、そうほざいて言やがれ!」

 彼は持っていた剣で、彼のとどめを刺そうとした。と、その時、海賊の手下の一人が何かを見つけて、大声を張り上げた。

「大変だ…ポルトガルの艦隊が、こっちへ突っ込んでくるぞ」

「なんだと!」

 その声に、ユウベルが動揺すると、

「援軍が来た…神は我らを見捨てなかったようだな」

 その隙に船長は、腰に携えていた剣を手に取って構えた。そして、

「くっ…」

「さあ、どうした。海賊の親分よ…存分に返り討ちにしてくれるわい」

 彼と激しく睨み合ったのだった。

「よし、今だ。海賊船を目掛けて、船体をぶつけろ!」

 ディオゴ提督の命令に、艦隊は海賊船の横っ腹を目指して、一斉に船首を突き立てた。その大きな衝撃に、

「うわあ!」

 海賊船の甲板上にいた海賊たちは吹き飛ばされて、海へ投げ出されてしまった。

「し、浸水してきた…沈没するぞ!」

 ポルトガル艦隊の体当たりを食らった海賊船は、その船体に大きな穴を開けられたため、次第に海水が船内へと入り込んでいった。そして、大きな音を立てながら、海底へと引きずり込まれていったのであった。それを見て、ユウベルが、

「ぬう…こうなったら、この商船を奪って逃げるぞ!」

 号令を発すると、生き残った海賊たちは、商船に対して執念の攻撃を始めた。それを察知したディアスは、

「そうはさせん!」

 商船と近距離になった場所から鮮やかに飛び移り、迫り来る海賊たちをいとも容易く斬り捨てていった。と、それとほぼ同時に、商船の甲板に乗り移ろうとジャンプしてきたコロンブスは、

「さすがに、やるねえ…ポルトガルの騎士様は…ならば、次はこっちの番だぜ!」

 ずしんっと着地すると同時に、両手に持っていた剣を振りおろし、4人の海賊たちを一気に真っ二つにした。

「よし…俺たちも続くぞ!」

 二人の奮闘ぶりに勇気づけられたポルトガル艦隊の船員たちは、次から次へと商船へと乗り移り、海賊たちとの斬り合いを演じていった。そして、次第に泥沼状態となり、仁義なき乱闘へと発展していったのだった…

「こうなったら、艦長の首を取るまでだぜ!」

 海賊船で随一の勇猛さを誇っていたカザクスと名乗る者が、隙を見計らいながらポルトガル本艦に乗り込み、船長室にたどり着くと、その扉を大きく蹴り開けた。

「この艦隊の提督だな…お命、頂戴する!」

「ぬう…おのれ」

 突然の彼の出現に、ディオゴ提督は持っていた剣を構えた。と、その時、

「この狼藉者めが!」

 パウロが背後から駆けつけて大きく吠えると、受け身を取れなかったカザクスは振り向きざまに彼の攻撃を浴び、斬り捨てられた。そして、彼は、膝から崩れ、口から大量の血を吐き出しながら絶命した。

「おお…パウロよ。見事な剣裁きだったぞ」

 その功績に、船長室で待機していたベハイムとコンゴ王国の特使たちと共にディオゴは、彼を大いに称賛した。それに対し、

「まだ、何があるかわかりません。僭越ながら、ここで提督をお守り致します」

 パウロが、堂々とした態度で答えると、

「うむ…頼もしい限りだ」

 提督は、穏やかな表情で彼を迎えたのであった…


 だが、ポルトガル本艦に乗り込んできたのは、カザクス一人だけではなかった…

 彼の他に数名の海賊たちが潜入を果たしたのだが、ほとんどの者たちは、本艦を守っていた乗組員に見つかって斬り殺されていた。しかし、その中で生き延びた一人の海賊が、火事場泥棒と言わんばかりに宝物を奪おうと倉庫へ向かっていたのだった…


 ところ変わって、ヴァンとカブラルの方だが、倉庫の中に隠れ、その一角にある藁山の中でひっそりと身を潜めていたのだが、あまりにも何事も起こらないことを理由に、次第に緩慢となり、藁の中から出てきては、室内で何やらごそごそと始め出した。

「武器は、まだ余っているようだから、一応持っておこうぜ…丸腰だと、成す術が無いからな」

 カブラルは、余った剣を手に取り、ヴァンに渡すと、

「お…おうよ」

 彼は、ずしりと重く感じる剣を両手でしっかりと掴んだ。

「とにかく、ビビるんじゃねえぞ。心意気で負けたら、それこそ話になら無いからな」

「わかった…」

「ほんとに大丈夫か…手が震えているぞ」

「この剣が、ちょっと重いだけだよ」

 それを見て、カブラルはため息をつくと、

「力の無い奴だな…こんな風に持てないのかっつうの」

 軽々と片手で剣を振り回した。

「危ないな…こんな近くで振り回すなよ!」

「お前が、情けないことばかり、やっているからだろうが!」

「もう言いよ。僕は、そこにある木のモップを使って海賊を倒してやるから!」

「アホか、お前は…そんな物で敵を倒せると思っているのか!」

「こんな扱い難い武器よりは、随分とマシだよ!」

 と、口喧嘩をしている最中、バンっと大きな音と共に扉が開き、海賊と目が合ってしまったのだった…

「あ…こんにちは…」

 あまりのことに、ヴァンが、そう口を開くと、

「挨拶している場合か、このバカ!」

 カブラルは、彼に思い切りつっこみを入れた。それを見た海賊は、大きく高笑いし、

「どうやら、小僧二人だけのようだな…痛い目に合いたくなければ、俺の物色が終わるまで大人しくしているんだな」

 持っていた剣を彼らに突き付けてきた。しかし、

「子どもだと思って、舐めるんじゃねえよ!」

 怯むことなく勇敢にカブラルは突進すると、彼の武器を叩き落とそうと剣を振り降ろした。だが、その海賊は、寄ってくる小ハエを振り払うが如く、その攻撃を払い除け、逆に彼の剣を叩き落としたのだった。

「惜しかったな、坊主…」

「くそっ…」

 負けん気の強いカブラルは、すぐさま剣を拾い上げようと手を伸ばそうとしたが、難なく敵に阻まれ、

「これ以上、妙なことをするんじゃねえぞ」

 ドスの利いた声で脅された。と、その時、

「うわあああ!」

 海賊の隙を突いたヴァンは、大声を上げながらジャンプし、持っていた剣を大きく振り降ろそうとした。しかし、

「このクソガキが!」

 剣の重みで振り降ろすことができなかった彼は、敵のビンタをもろに食らい、床に転がされてしまった。こうして、二人がかりの応戦に、とうとう腹を立てた海賊は、

「気が変わったぜ…やっぱり、お前らは処刑だ!」

 と、言って、床で尻餅をついているヴァンに斬りかかってきた。

「危ない、ヴァン!」

 カブラルが、そう叫ぶと、それに気づいた彼は、さらに転がって敵の攻撃をかわした。

「ちょこまかとうざい小僧どもだ…」

 海賊が鬼のような面をして睨んでくると、

「逃げるが勝ちさ…」

 ヴァンは、それを無視して、そのまま藁の中に隠れてしまった。それを見ていた海賊は、

「この大バカタレが…かくれんぼなんかしても、ムダだ!」

 さらなる追撃をしようと思い、目の前に堆積している藁を鷲掴みにしようとした。と、その時、

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ…俺を忘れてもらったら困るぜ」

 背後からカブラルが、手を叩いて敵を冷やかした。すると、

「おのれ、こいつら…この俺様を愚弄しおって!」

 激怒した海賊は、今度はカブラルの方へと突っかかろうとした。その直後、

「これでも食らえ!」

 ふいに藁の中からヴァンが顔を出し、敵へ目掛けて持っていた藁袋を投げてきた。だが、俊敏に反応した海賊は、

「猪口才な!」

 振り返るやいなや、見事にその藁袋を斬り捨てた。ところが、その斬り裂いた藁袋から大量の小麦粉が巻き散ると、

「ぐわあああ…め、目に入った。何も見えねえ!」

 目つぶし攻撃を受けた敵は、悶えながら混乱した。そのチャンスに、

「床を小麦粉まみれにしたんだったら…」

 カブラルは、傍にあった木のモップを掴むと、

「このモップで、きれいに掃除しろ!」

 背後から海賊の脳天を目掛けて引っ叩き、彼を気絶させたのであった。それを見て、

「やった…小麦粉爆弾作戦、大成功だぜ!」

 ヴァンが、ガッツポーズをした。

「喜んでいる場合じゃないだろ…奴が、目を覚ます前に、縄で縛るぞ」

「あ…そうか。ごめん、ごめん」

 こうして、カブラルに諭された彼は、その海賊をロープでぐるぐる巻きにしたのだった。


 海賊との戦いは、時間が経つごとにポルトガル海軍側が優勢となっていった…そして、ついに豪勇コロンブスが、海賊の副頭領であるネヴィーノと対峙することになったのであった…

「もはや、これまでのようだな…海賊の副頭領さんよ」

 コロンブスが、不敵な笑みを浮かべながらにじり寄ると、

「そう簡単に、このネヴィーノ様がやられると思うなよ…」

 ネヴィーノは、眼帯をしていない方の目で激しく睨み返した。と、その時、

「ははは…そこまでだ、この怪力ギネスバカ。こっちを見ろ!」

 頭領のユウベルが、商船の船長の胸倉を掴みながら、人質として連れてきたのだった。

「この野郎…人質とは、卑怯な真似を!」

 コロンブスは、思わず激怒したが、

「ちょっとでも動いて見ろ…こいつの命の保証は無いぜ!」

 その脅しに、躊躇して動きを止めた。

「奴の言うことなんぞ、聞く必要はない…わしに構わず、こいつらを斬るんじゃ!」

「うるせえ、黙っていろ…このクソじじい!」

 商船の船長の言葉に逆上したユウベルが、胸倉を掴んだ腕の力をさらに強めると、

「ま、待て…お前らの言う通りにするから、そいつを解放しろ」

 コロンブスは、彼らに取引を求めた。それを聞いた海賊のボスは、

「ようし…ならば、まずは持っている武器を捨ててもらおうか」

 彼から武器を奪おうと企んだ。すると、コロンブスは、

「…わかった」

 それに応じ、左手に持っていた剣を海へ投げ捨てた。だが、彼は二刀流の使い手なので、右手には、まだ剣を持っている…その様子に、苛立ったユウベルは、

「何をやっている…もう片方の剣も捨てるんだ!」

 そう怒鳴り声を上げた…と、その時、彼の背後から急にディアスが現れて飛びかかり、自慢の剣を振り降ろしてきた。その攻撃により、一刀両断されたユウベルは、血しぶきを上げながら、あえなく絶命した。

「海賊の頭目・ユウベルは、このディアスが討ち取ったぞ!」

 ディアスの勝ち鬨とその急展開に、

「ああ…おかしら!」

 動揺したネヴィーノが思わず甲高い声を上げると、

「今だ!」

 コロンブスはその隙をつき、右手に持っていた剣で胴払いを食らわせ、彼を真っ二つに斬り裂いたのであった…

「やったぞ…我が軍の勝利だ!」

 海賊との戦いに勝利を治め、歓喜の声で沸く船上で、

「ありがとうございます。おかげ様で、命拾いをしたわい」

 商船の船長が、ディオゴ提督に感謝の意を込めてお礼を申すと、

「同胞たちが敵に襲われているのを、どうして見過ごすことができましょうか。それよりも、貴殿も帰国する途中であったのであろう…我が艦隊もセウタを経由して戻るところゆえ、宜しければ、母国に戻るまで警護致すぞ」

「それは、とても有り難い話じゃ…多くの船員を失ったところでもあるし、ここはお言葉に甘えさせてもらおうかのう」

 深々とお辞儀した…

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