第六話 リリスちゃん2
神谷はノートパソコンの液晶を指でなぞった。
「職場でイベントねぇ」
一人言は虚しく響く。神谷の部屋には誰一人いない。
柏原は一人ベッドへ入ると、リリスの経歴を反芻した。
3年ほどで転勤・・・俺と一緒だな。
仕事は事務仕事・・・漠然としてるな。
給与:悪くない。良くもない。・・・。
まあ、なんというか、”バリバリ仕事してる女性”感はあるが、ヘッドハンティングされるほど目立つ仕事ではない。プライベートは充実していないだろう・・・友達もおらず、趣味もない。お金で暇を潰せるほどお金があるわけでもない。SNSの書き込みや仕事ぶりからは将来への不安が感じられる。
彼氏は現在なし。初任地勤務時に婚約者あり、別れた模様。・・・男性に免疫がないわけではないのか。
何にせよ、あの第一印象だ、何らかの理不尽を感じていることは間違いない。・・・と思う。
職場でイベント・・・。休めないイベント?営業職でもないのに?ひっかかる・・・この”イベント”はリリスにとって何なんだ?
気づいた時には柏原は眠っていた。
夢を見た。リリスが職場で人を殺していた。包丁で職場の同僚を何度も刺し、包丁を引き抜いては次の同僚を刺す。リリスの表情は”顔色確認”の時のまま一向に変化をしない。土気色の虚ろな目で口をもぐもぐさせながら、次次に同僚を刺し殺して行く。
はっっつとして起きた。
今日は月曜だ、会社だが・・・目覚まし時計を見る。5時だ。何時もは7時に起きる。
ー余裕だ。
そう思った。2時間もある。直ぐに携帯を手に取り、神谷へ連絡した。
「遅かったですね。普通に寝てから電話とは。でもやっぱ、さすがです。柏原さん。」
「何言ってんですか。俺が電話かけてくるって気づいてる神谷さんは化け物です。調べて頂きたいことがあります。」
「わかってます。」
「「職場の”イベント”」」
微笑んでしまった。神谷とこうも気が合うのは初めてだ。
「実は、もう調べちゃいました。”イベント”内容はなんと!近隣小学校の職場見学です。」
ー息が詰まった。同時に寒気がした。リリスは来月医師立ち合いでカウンセリングを受ける気はない。
死ぬ気だ。しかも道連れは・・・
「イベントは明日でしたね!?〇〇省の監視立ち合いお願いできますか?」
「了解。手配します。柏原さんも明日は会社休んでくださいよ。”イベント”場所、メールしときます。仕事が終わったら、確認して。必ず来てよ。」
神谷が真剣な声で「必ず来て」と言ったのは意外でドキッとした。明日、会社休まなきゃ。ただそれだけなのに、大変な仕事が降りかかって来ている気がする。興奮が止まらない。自分のビジョンを神谷も見ている、そのビジョンが現実にはならないといいが。アドレナリンが出ていることが自分でもわかった。この覚醒状態では、二度寝はできないな。