第五話 リリスちゃん
腹が立つ
腹が立つ
あの女が悪い
あの女が
アアアアアアアア会社の奴らアアアアアアアア
なんで私が
なんで私ばっかり!
なんで私ばっかり、こんな目に合わなきゃならないのおおおおおおおお
なんで私がこんなところに居るのに、あいつらは家族と幸せに過ごしてんのをををををを
ふざけんなあー、ふざっけんなよ!しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね
しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね
△デパートの近くのカフェで神谷達と合流した。予定より1時間早いが、対象者が予定通りにくるとは限らない、少し早く待ち伏せして、現れなければ今日は解散でも構わないと思った。
知り合いでもない対象者が、なぜ、今日、この△デパートに来るとわかるのか。理由を聞いてつくづく当局のデータベースとコンシェルジュ達が恐ろしいと思った。神谷が集めたデータから、対象者は今日、化粧品を買いにこのデパートに現れる可能性が高いらしい。商品の購入の履歴と、対象者の仕事の休み、行動範囲、利用交通機関、SNSの投稿、等々から神谷が割り出した対象者の行動予測だった。こんなことが可能なら、自分のようなSLAなど必要ないのではないか?コンシェルジュ達だけで事件防げるんじゃないだろうか。
「神谷さん、対象者のことなんですけど・・・」
「しっ!柏原さん!リリス、ですよ!」神谷はわざとらしく口元に人差し指を立てている。
「あー、はい、リリスなんですけど、化粧品フロアに現れるんですよね?俺は男なんで、神谷さんにフロアをはってもらって、携帯で知らせてもらってから行ってもいいでしょうか?」
「それはいけませんねぇ。」
「え?どうしてですか?」
「最初に発見するのはSLAの方がいいと思うんですよ。私は個人的に。」
「それは僕も思います!顔色確認の時は特にね!」
珍しく、木村も神谷に賛同した。
そういうことなら、と、神谷と2人でカップルを装ってフロアをうろつくことにした。一時間ほどうろついて対象に会えなければ帰ればいい。
神谷が限定品のコスメセットを見ているふりをしている時、後ろ側から女は現れた。
ー っ。
声が出そうになった。探していた女だからびっくりしたわけじゃない。女の顔が余りにも印象的だったからだ。
土みたいな色の顔に目の下にクマ、目はやたら上を向いていて、口元は唇を噛んでいるのか常にもぐもぐと動いている。でも間違いない、”リリス”だ。
尋常じゃない。顔色確認は2回目だが、歌の青年とは明らかに違う。赤か黒だ。
「黒。」
カフェにもう一度集まったところで、梶本がすぐに口を開いた。
「黒、だよ。こんなにはっきりと黒だと感じたのは初めてだ。」
梶本でさえそう感じる形相だったらしい。
「俺も黒だと思います。顔色確認はほぼ初めてですけど、取り敢えず、普通じゃないって感じました」
素直に意見を言うと梶本はゆっくり頷いてくれた。
「わかりました。私にはちょっと調子悪いんじゃない?ぐらいにしか感じませんが、さっすがSLAのお二人は違いますねぇ~、OK!では来週あたり、コンタクトを取れるよう手配しておきます。」
「自然に会えるならいいですが、無理そうなら医師立ち合いの元で。何しろ、久しぶりの黒、ですからね。」
神谷は相変わらず飄々とそう告げ、4人を解散させた。まるで、黒の対象者が出たことを喜んでいるように見える。俺は、リリスの顔を思い出すと、背筋が寒くなった。
帰り道、神谷からメールが届いた。
『お疲れ様です。〇〇省登録の医師を通してですが、リリスちゃんと話できそうです。』
『ただ、リリスちゃん、来週は職場でイベントがあるみたいで、来月になりそうなんです。日にち決まったらまた、メールします。 神谷』
一体、どこから手を回してコンタクトをとる手はずを整えているのか、全くもって驚く。
リリスちゃん、と親し気に呼んでいるが、神谷はコンタクトを取るにあたり、リリスと直接連絡を取ってさえもいないはずなのだ。
職場でイベントか・・・。あんなひどい顔してても、ちゃんと会社行って仕事してんのか。まあ、頑張ってんだろうな。リリスも。全く想像できないが。
少し気になって、リリスの仕事の経歴を調べてみた。女性には珍しく単身で転勤している。日本中飛び回ってるようだ。・・・事務仕事中心の仕事内容なのに大変だな。独身、子供なし。彼氏もいない様子だ。
何か、何か気になる。この違和感はなんだ?なぜ転勤してる?2年から3年で職場を引っ越している。それなのに、職場のイベントを理由に〇〇省の医師の面談を断るなんて・・・。仕事、楽しいのか?