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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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37/40

37 ゲボッ!!

 方々が立ち去り、多目的広場にはボクと星華ちゃんの二人だけとなった。


「星華ちゃん。お願いできる?」


「了解。ナンバー6、第三野営基地召喚」


 ボクがそう言うだろうとわかっていたようで、いつの間にか中型のバスを野営用に改造した基地を封印したカードを置いていたようだ。


「お願いしておいてなんだけど、よく持ってたね?」


 野営基地とは言っているが、はっきり言ってレジャーキャンプ用に改造したもの。修行に明け暮れる星華ちゃんには無用の長物である。


「ま、腐るもんじゃないしね、念のために持ってたんだ」


「お気遣いに感謝です」


 感謝の言葉に『ウフフ』と笑い、なにやら軽やかな足取りで基地へと入って行く星華ちゃん。


 ディーゼルエンジンが掛かり、閉じていたカーテンや窓を全て開け、折り畳みのテーブルとデッキチェアを出してきてくれた。


 広げてくれたデッキチェアに崩れ落ち、限界とばかりにテーブルに突っ伏した。


「……まったく、二キロも歩かせたうえに鬼ごっこまでさせやがって。少しは気を使えってんだ……」


「気を使って欲しいなら顔に出す。いやなら魔力供給を制限する」


 向かいに座った星華ちゃんがボクのグチに突っ込んできた。


「……そうだね。そうしようかな……」


 ……。


 …………。


 …………………ん?


 今ボク、なって言った? なにかとんでもないこと言わなかったか?


 恐る恐る顔を上げ、星華ちゃんを見ると、やはりとんでもないことを言ったらしく、目も口も丸くして驚いていた。


 自分がなにを言ったか知りたいが、星華ちゃん以上にボク自身が驚き過ぎて動くことができなかった。


「──兄様!」


 天の助けか、志賀倉の業と言うべきか、焔の声が届いたとたん、体の硬直が解け、驚愕も一瞬で吹き飛んだ。


 直ぐに上半身を起こし、こちらへと駆けてくる妹に笑顔を見せた。


 そんな必死に駆けてくる妹の後ろには、野村さんや海璃ちゃんもいた。


「兄様! 体は大丈夫なんですかっ!?」


 滑り込むようにしゃがみ込み、ボクのズボンをぎゅっとつかんだ。


 そんな愛らしい姿に自然と頬がゆるみ、キラキラ輝く金の髪を優しく撫でてやった。


「ありがとう。心配してくれて」


 ガツンと脛に衝撃が走ったが、兄魂はそんな痛みなど我慢……できないってっ! 折れるってっ! 手加減してよと星華ちゃんに目を向け、光速で目を反らした。


 ……こ、怖ぇーっ! 怖ぇーって! その笑みは反則だよ、星華ちゃん!!


 なるべく星華ちゃんを視界に入れないようにして焔を立たせた。


「ボクの回復力は教えただろう。あのくらいなら一晩眠ればいつもの通りさ」


「で、でも、強制転移は心身な衝撃を与えると聞いてます。現に、半数以上の人が今も目覚めていないと聞きました」


「そうなの?」


 振り向く勇気がないので声だけ送った。


「目に見える強さより目に見えない強さを求めてるまーちゃんと違って、だいたいの人は死と言うものは怖いの。ましてやわたしたちの年代はレベル主義。せっかく稼いだレベルが0になるなんてショック以外なにものではないわ」


「そりゃ悪いことしたね」


「だから、そーゆー優しさからくる言葉は慎む。あと……いえ、いいわ。そのうち嫌でもまーちゃんの常識に塗り替えられるをだから……」


 なにやら自分の中で納得したあと、なぜか嘆息する星華ちゃん。


 よくわらないが、追求するのも野暮ってもの。ここは軽く流しておきましょう。


「まっ、そーゆーことだから大丈夫。心配だけもらっておくよ」


 まだ驚く焔の手をポンポンと叩き、思考停止している野村さんへと目を向けた。


「野村さん、海璃ちゃん。昨日はありがとうね。お陰でボクの大切な幼なじみと妹を守れたよ」


「──え? あ、いや、その、お、お礼を言うのはこっちの方だよ! レベル4になるのにどれほど苦労したか。それが四時間の戦いでレベルが10まで上がっちゃうし、もう志賀倉くんに足を向けて寝られないよ!」


「そうです! 初戦闘でレベル1になるだけでも運がいいと言うのに、まさかレベル5になるなんて、一夜明けた今でも信じられないです!」


 興奮する二人には悪いが、レベルなどどうでもいいボクにはピンとこない。


「まあ、アレで喜んでくれるならなによりだよ。なんせ、昨日の戦いはボクの都合で、二人を巻き込んだようなもの。だからお互い様ってことで収めようよ」


 利用したとは言え、共に戦った仲。なるべく心地好い関係で終わりたいよ。


「お、お互い様って、どう見てもあたしらの方が得にしかなってないよ……」


「そうです。わたしたち、なに一つ失ってないです」


「なら、ラッキーってことでいいんじゃない。ボクは幼なじみと妹を守れてよかったと素直に喜んでるよ」


 星華ちゃんから表現し難い視線が突き刺さるが、全力で無視させてもらいます。


「だからこの話はこれで終わり。焔も心配するのは終わり。ボクはいたって元気だし、昨日のことはこれっぽっちも後悔はしていない。と、まあ、そう言われたところで焔は納得しないだろう。ボクだって大切な人が死ぬだなんて嫌だし、納得できる訳がない。なら、納得できる力を身に付けろ。アレが限界だったボクを追い越し、大切な人を守れる力を身に付けろ。お前の前に立つ男は、家族のためなら笑って死ねるぞ」


 それが志賀倉の心の根源。そして、ボクが絶ちたい志賀倉の業である。


「──強くなりますっ! 兄様より強くなってみせますっ!」


 その力強い宣言に、ボクは確かに聞いたとにっこり笑いながら頷いた。


 ……とは言え、あっさり抜かされては兄としての立場がない。なので、ガンバレ、ボクよ……。


「話がまとまったのならお茶にしましょう」


 いつの間にか席を立ってた星華ちゃんは、基地から椅子を運んできて三人に座るよう促した。


 なので、ボクは予備のカップを並べ、紅茶を注いで三人の前に置いた。


「紅茶が好みじゃなかったらコーヒーも緑茶のもあるから遠慮なくどうぞ」


 優雅な午前と午後が続いたものたがらお茶のセットが豊富なんです。


「そう言えば野村さん、梅勲章を断ったんだってね。どうしてもらわなかったの?」


 あの腐れ女子のことだから野村さんでも勝てるヤツくらい混ぜているはずだ。ましてや野村さんの情報力ならそれが誰だかわかるはず。もったいないんじゃないの?


「冗談じゃないわよ! レベルだけでも襲われそうなのに、梅勲章までもらったら全学年を敵にしちゃうわよ!」


「ふふ。誰かのせいでレベル0が大量に増えたからね、取り返したい者にしたら絶好の標的エサね」


「レベルをもらえたことは感謝してるけど、でもレベル10は重すぎよ。もう卒業まで迷宮に入れないわ」


 なんでも情報科はレベル10以上あればいいんだってさ。


「別に海璃ちゃんと入ればいいじゃないか。二人の行動を見ている限り、なかなかのコンビだったよ。緊張が解けてからの野村さんの命中率は上がってたし、回りにちゃんと目を向けられていた。海璃ちゃんも緊張が解けてからの魔術は見事に尽きる。まあ、経験差はあるけど、最初は守りが高い方がいい。慣れてきたら前衛に戦士系を二人増やして忍系を補佐にしたら最強──とまでは行かないまでも理想的なチームになるんじゃない?」


 あくまでも迷宮内の戦闘ではだけど。


「そうね。あれにはわたしも驚いたわ。特に戸沢さんに。腰を抜かした状態から立ち直った精神力に、栖輪忍群にも負けぬ防御魔術。未来の大魔導師を見ているのかと思ったわ」


 星華ちゃんもそう見えたのなら間違いはない。海璃ちゃん、将来大魔導師になる。星華ちゃんの見る目(男を見る目はないけど)は確かだからね。


「すっ、凄いじゃないの海璃ったら!! 柳生さんが同年代、それも年下を褒めるなんて今までなかったことだよ!」


「まあ、星華ちゃんは辛口だから」


「それはまーちゃんのせいだからね」


 なにやら非難の目を向けてきた。


「なんでそこでボクが出てくるのさ? 人を褒めるのは星華ちゃんの基準でしょうが」


「その基準を厳しくしたのまーちゃんじゃない」


「はあ? ボクは凄いと思ったら凄いって言えるけど」


「わたしだって十回までなら素直に言えたわよ。けど、何百回と非常識を見せられたら感動も薄くなるわ」


「人外の者と戦おうとしたら小技と大技を使うしかないじゃないか。こっちはハンデを背負ってるんだからさ」


「そんなのハンデにもならないでしょうが。戦う度に新しい対抗手段を幾つも用意するんだから」


「その対抗手段を破る人に言われたくありませんっ。対抗手段を用意するのにどれだけの準備と資金が掛かったか。その苦労を語ったら一年は掛かるよ」


「そんな苦労なんてドブに捨ててしまえっ! 毛虫だらけの落とし穴に落とされたり地雷地帯に誘い込まれたり、その苦痛を語るのに十年あっても語り尽くせないわよ! あの刀だって大切にしてたのに硫酸掛けられて廃棄しなくちゃならなかったんだからなっ!」


「真剣で襲い掛かってくるからじゃないか! 用意してなかったら右腕なくなってたよ!」


「なくなってたらなくなってたで悪辣な義手にしてるだけだろう! まーちゃんに情けなんて豚に真珠だ!」


 なんてじゃれあっていると、沢山の気配を感じ、星華ちゃんと一緒にその方向を見た。


「またなの?」


 非難の目を向けると、とても幸せそうに微笑みやがった。


 ……ったく。ぼくっ娘のクセに小悪魔的技を見せやがって……。


 ため息一つ吐き、やってきた聖輪同盟諸君へと体を向けた。


「おはよう」


 挨拶するも同盟諸君からの返しがない。なにやら珍獣でも見るような目でボクを見ていた。


 まあ、どうせ失礼なことを考えているんだからここはスルーしておこう。


「しかしなんだね。皆元気だよね。昨日あれだけ動いたのに筋肉痛一つしてないなんて。いったいどんな体してるの?」


 なんて素直な感想を口にしたら、全員の気配が爆発。続いて濁流のような暴言やら抗議が吐き出された。


 まあ、ボクの耳はとっても高性能。どうでもよい暴言やら抗議は自動的に排除され、必要な情報だけが脳に届くのだ。


 五分以上の暴言と抗議を要約すると、だ。こっちは小さい頃から戦いや訓練に明け暮れ、やっとのことで身に付けたら体であり技であり、外のヤツに負けない自負がある。それが体力も魔力もないボクに活躍され、自爆で大半の敵を排除した。にも関わらず笑顔で登校してくる。いったいどんな環境で育ってきたんだ、この変態野郎、とのことだった。


 同盟諸君の思いが吐き出されたところで、星華ちゃんも感じただろうこの思いに自然とため息が漏れた。


「なるほど。道理で星華ちゃんの口からこの学校のことが出てこない訳だ」


 ボクの呟きに同盟諸君が眉を寄せた。


「確かに皆の力はずば抜けて高く、その技には何度も驚いたよ。けど、その驚きはよくできたアクション映画を見たのと似ている。だからと言って偏った価値観を植え付けられ、戦いの道具として使われる少年少女たちや名前も与えられず人としての尊厳も奪われた生体兵器になれとは言わない。なってもいけない。けど、殺し合いと言う意味をもっと学ぶべきだ。お前になにがわかる、なんて言わないでよ。まあ、どうしても聞きたいのなら言うけど、その場合、いろんな組織から狙われるんでよろしく」


 で、聞きたい? 的な視線を向けると、全員の目が全力で耳を塞ぐ星華ちゃんへと注がれた。


 その行為が正しく伝わったのだろう。同盟諸君が必死に首を振っていた。うん、それが賢い選択ってもんだ。


「ここで質問です。人は死んだらどうなりますか?」


 丁度正面にいた高明に視線を飛ばしたが、突然の問いに訳がわからず、横にいる藤月さんに助けを求めた。


 求められた藤月さんも困惑していたが、誰かに助けを求めることなく、時間を掛けて答えを出した。


「し、死ねばそれまで。なににもならないわ」


「そう。死ねばそれで終わり。どんな思いも強さも消えるだけさ」


 まあ、たまに呪いになったり幽霊になったりはするが、それはそのあとのこと。別次元の理だ。


「じゃあ、ここにいるボクは幻? それとも幽霊かな?」


「いいえ。ここに存在しているわ」


 藤月さんの答えに満足気に頷いた。


「そう。ボクはここにいる。死んだ訳ではない。たんに転移魔術で迷宮の外に排除されたまで。この学校に通うも皆に説くのもバカらしい知識だ。それでなぜショックを受けるの? レベルがなくなるから? 負けたから? どれだけ繊細なんだよ。アホかっ! なくなったのならまた稼げ。負けるのが嫌なら強くなれ。生きていれば人は何度でも立ち向かえる。生きていれば新しい力を身に付けられる。もっと生きることを知れ! もっと死ぬことを知れ! 井の中の蛙どもがっ!」


 なんて十五のボクが言うのもおこがましいが、こっちとら三度の絶望と、四度の無力さに崩れ落ちてんだ、そんなことでショックを受けている軟弱者に構ってられるかよっ!


「ふふ。この幼なじみに勝とうとしたら人間止めなくちゃ相手にもならないわよ。このわたしですら気が狂いそうになったことが何度もあるんだからね」


「……人をバケモノみたいに言わないでくれるかな……」


 非難の目を向けたら鼻で笑われてしまった。


「バケモノ? まーちゃんがそんな可愛いものじゃないでしょうが。変態よ、変態。ううん。変態でも可愛いくらいよ。ん──うん! 腐れよ。腐れ外道がピッタリだわ!」


 幼なじみの言葉が弾丸となってボクの心臓を撃ち抜いた。


 ……ひ、酷い。これまで幾度となく絶望や無力さに崩れ落ちてきたが、こればダントツの衝撃だ。一番心を砕いたぞぉ……!


「ほんと。なんだかんだ言ってまーちゃんはおばさま似なんだから」


 ──ゲボッ!!

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