36 拠点ゲット
ってなことを、校門を通り過ぎたところで言い出した。
心と頭を整理してたら駐車車へと到着。エンジンを切り、ヘルメットを取り、深呼吸を一回。落ち着いたところで星華ちゃんへと振り向いた。
「ボクたち、なにしにきたの?」
「うん。もう直ぐわかると思うよ。昨日、凄く吠えてたから。お、言ってるそばからきたよ」
星華ちゃんが向けた視線の先を見ると、なにやら凄みのある笑顔を浮かべた矢吹さんがこちらへと突進してくる。
「えーと、逃げた方が吉かな?」
なにがなにやらわからないが、この流れがよくないことは理解できた。
「まず間違いなく大凶になるよ」
……そこまで言われるとますます逃げたくなるんだけど……。
「お、おはようございます、矢吹さん。いい朝ですね」
「また、よけいなことを……」
まさしくよけいなことだったようで、凄みのある笑顔が般若に早変わりし、震える拳を振り上げた。
とっさに腕でガードするが、いつまでたっても衝撃がやってこない。恐る恐るガードを解き、矢吹さんを見ると、空中で拳を止めたままなにやら『落ち着けおれ。冷静になれ』など呟き、必死に自分に言って聞かせていた。
「……ま、待っていたよ、クソ野郎がぁっ」
それで落ち着いたかどうかはこめかみの血管の浮かびようと、そのセリフでわかると言うようなものだが、それを突っ込むのは野暮ってもの。冷静になったと酌んでやるのが人としての優しさ。空気を読むと言うこと。まあ、付き合うのが面倒くさいってのが本音だけどね。
「なに用で?」
その言葉か、それとも態度が気に入らないのか、こめかみに浮かぶ血管が激しく脈打っている。
……ヤレヤレ。二児の父親なんだからもうちょっと血の気を押さえた方がいいですよ……。
「だったら心の声を顔に出すな」
心の呟きに木刀で突っ込む幼なじみ。
「爆発する前にとっとと連れて行った方がいいですよ、矢吹さん」
「……ああ、そうだな……」
ボクの言葉では怒るクセに幼なじみの言葉には素直に従う登録課の主任どの。随分な差ですことっ。
「ちょっとこいや腐れ道具使い」
と、首根っこをつかまれ連行された先は、魔境に入る手前にあった広場だった。
数日前に見た案内板《記憶》が確かなら、この広場は第47多目的広場であり、その時点では草ぼうぼうの放置された広場だったのだが、今は疲れた顔の教職員たち冷たい眼差しでこちらを見、その背後には不法投棄現場のようにゴミクズが山積みになっていた。
「これがなにかわかるか?」
「不法投棄ですか?」
そう素直に答えると、教職員たちの気配が殺気立った。え、なぜに?
咄嗟に星華ちゃんがボクの前に立ってくれなければ確実に矢吹さんの拳が襲い掛かってきたことだろう。
……まったく、キレる十代ではあるまいし、もう少し落ち着きなさいよ……。
「だから顔に出すな!」
肩を竦めるボクに、星華ちゃんが木刀で小突いた。
「矢吹さんもいちいち反応しないでください。こんな些細なことで怒っていたらこの先やっていけませんよ」
「……さ、些細って、これがかっ?!」
「確かに皆さんから見たら大きいことでしょうし、納得できないでしょう。ですが、これが志賀倉正光。わたしの横に立つ者です。理解しろとは言いません。認めろとも言いません。ただ、慣れてください。これから先、こんなことは幾らでも起こります。そう言えばそんなことがあったな~と懐かしむくらいにね」
なに気に失礼なことを言う星華ちゃん。もうちょっと言い方があるんじゃない?
「……あの~、そろそろ本題に入ってくれません? 休校なら他にやりたいことがあるんで」
もうなんて思われようと構わないから先に進んでよ。貴重な時間を無駄にさせないでくれ。
ボクの言葉に皆様方の怒気が激しくなったが、そんなもの負けていたら『全世界を敵にしても』なんてセリフを吐く資格はない──とは言うものの、そんな怒られるようなことしましたか?
「なあ、おい、腐れ道具使い」
殺気満面の笑みを浮かべながらボクの肩へと腕を回す矢吹さん。
「お前、説明会での話、聞いたよな?」
「ええ、聞きましたよ」
「じゃあ、携帯武器を登録するときの話も覚えてるよな?」
「もちろん」
「なら、アレはなんだ?」
そう指指す先には不法投棄の山。アレとその話がどう繋がるワケ?
意味がよくわかりません的な視線を矢吹さんに送るが、怒りを必死に抑えている人には伝わらない。なので呆れ果てる幼なじみに説明を求めた。
「まーちゃん、アレがなんの成の果てかはわかるよね?」
「え? あ、うん。昨日の戦いの成の果てだね」
「──それでなんでトボけやがるっ!!」
矢吹さんの腕に力が入る前に星華ちゃんが襟首をつかんで助けてくれた。
「矢吹さん。それと皆様方。幼なじみの名誉のために言っておきますが、別に皆様方を怒らすためにしている訳でもなければ惚けている訳でもありません。この幼なじみは、ちゃんと学校の法に従っているからこの状況が理解できないのですよ」
「な、なに?」
訝しむ皆様方。そちらだけでわかってないでこちらにもわかるように言ってくれませんかね?
「自身が携帯使用する武器または防具、ならびに道具類は申請すること。はい、まーちゃん。あなたは昨日の大会で自身が登録した武器または防具、ならびに道具以外のものは使いましたか?」
「いや、登録したもの以外は使ってないよ」
嫌だったけど、虎の子も登録したさ、白い目に堪えながらも魔球も自爆用の核熱弾も登録した。もう手の内をさらしすぎて今後どうしようかと悩んでいるところだ。
「──ちょっと待てっ! おもいっきり使ってるだろうがッ!」
ビシっと不法投棄の山を指差した。
「確かにアレは幼なじみのもので幼なじみが出しました。ですがアレは"所有する建造物"であり"付属する武器"です。使用する武器または防具、ならびに道具ではありません──」
「そんなの屁理屈だろうがっ!」
「そうですね。わたしもそう思います。ですがそれを屁理屈と認めたら、自身が携帯使用する武器または防具、ならびに道具は自身が登録する事項に引っ掛かります。まーちゃん。所有する建造物及び付属する武器は、あなた自身の武器ですか?」
「いや、ボク以外の人に使わせるためのものだよ」
いつでもどこでも瞬時に出せなければ武器として意味がないし、あらゆる状況を想像して封印してある。ましてや地下迷宮などと言う不可解なところに潜るのだ、真っ先に身を守るものを登録するのは当然である……が、やっと話が見えてきたよ。
「つまり、ボクが悪かったってことですね」
訝る星華ちゃんを笑顔で黙らした。
「いや、登録のとき、登録してない武器はなくなってもこちらは責任持たないぞと言われたから勝手に処分されると勘違いするは、生き残り戦と言われたからルール無用と勘違いするは、登録がこんでるから後にしようとするは、いやはや、どう謝っていいかわかりませんが、本当にすみませんでした」
誠心誠意皆様方に謝罪した。
「……いや、まあ、なんだ、と、とにかく、このクズ山をなんとかしろ」
「わかりました。直ぐに知り合いの業者に連絡して片付けます」
携帯電話を取り出して知り合いの産廃業者に掛けようとしたら携帯電話を矢吹さんに奪い取られてしまった。
「アホか、お前は! ここは国防省より重要機密があるところだぞ! どことも知れない業者を簡単に入れられるかっ! カードから出したらカードに戻せッ!」
「そのカードはどこですか?」
「な、なに?」
「だからカードですよ。カードから出したものは出したカードでしか封印できないんです。だからカードを返してもらわないと片付けできないんです」
返してくださいと手を出すが、矢吹さんは狼狽えるばかり。他の教職員さん方々に目をさ迷わせて戸惑っていた。
どうしましたと言った表情で方々を見回した。
だが、いつまで経っても方々は目をさ迷わせるだけ。まっ、出てくる訳もないんだけどね。なんたって基地類は使い捨て。出したと同時にカードが破壊されるようになっているんだもぉ~~ん。
「……ないんですか。じゃあ、家に連絡して新しいカードを造ってもらいます」
方々の表情が喜びに変わった。
「ただし、新しいカードの製作には、半年掛かるのでそれまでは待ってもらいますがね」
唖然となったのも一瞬、また激怒に染まる矢吹さん。瞬間湯沸し器も真っ青だね……。
「──そんなに待てるか、このアホんだらっ!」
「そうですか。なら、虎の子四号で片付けますよ」
タクティカル・メッセンジャー・バックの底に仕込んであったナンバーXのカードを取り出した。
「できるんなら最初からやりやがれってんだぁっ!」
撃てば響くような矢吹さん。なんだか楽しくなってきたよ。
「こちらが悪いとは言え、大事な虎の子なんですよ。そう簡単に使うる訳ないじゃないですか」
口を尖らせ、子供っぽく反論した。
「まったく、どこまでも腐りやがって。いいか、今日中に片付けろよ。あと反省として広場の草でも刈りやがれ!」
「はいはい、仰せのままに」
怒りが収まらない矢吹さんがぶつぶつ言いながら上司とおもしき人のところに行き、らしき人が撤収の指示を方々に出した。
方々の苦情を右から左に聞き流しながら多目的広場の広さを確認していると、横にいた星華ちゃんがため息をついた。
「……まったく、今の今でどうして引っ掛かるのよ……」
そんな小さな呟きに方々がピタリと停止。一斉にこちらを向いた。
耳がよろしいことと呆れながら方々の動揺やら視線など一切無視して多目的広場の中心に向けて歩き出した。
「縦が七十メートル。横が百メートルってところか。ちょっと狭いが、まあ、草も刈れとのことだ、文句のつけようのないくらい"綺麗"に仕上げますか」
と、矢吹さんが跳び掛かってきた──が、ヒラリと回避。地面とキスする矢吹さんに構わず先へと進む。
「──や、止めろッ! バカなことをするなっ!!」
方々が叫び、跳び掛かってくるが、父さん直伝の服部流柳の型、木の葉舞いはそんなに甘くはない。星華ちゃんとの本気の鬼ごっこでも二分は逃げ切ったのだからな。
「ナンバーX、核熱弾──」
「──志賀倉くん。登録課副主任の権限と拾得物回収班班長の権限でこれからやろうとすることの停止を命じます!」
その役職がなんなのかも、どれほどの権限があるのかも知らないが、適切で納得できる命令なので、これからやろうとしたことを停止した。
「解釈の自由を広めるのは危険。けど、狭めるのはもっと危険。納得できる命令には素直に従うが、理不尽な命令には悪辣に背く、か。柳生さんから忠告されていながらこの失態。しかもあれだけのことを見せられながらまったく気が付かない体たらく。なに一つ君は悪くない。見抜けず、気が付かつかず、考えもしなかったこちらの責任。登録課を代表して謝罪します。ごめんなさい」
うわべだけのボクの謝罪とは違い、これこそ謝罪と言う姿に、なにも言えなくなってしまった。
……方々が力で押してくる中、一人だけ知恵で覆す。まさに敵にしたら厄介な人のよい見本だな……。
「では、お互い様と言うことで」
ニッコリ笑いながら双方丸く収まる提案を提示すると、ほっとした顔になり、直ぐに満面の笑みを見せた。
「……ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」
「でも、核熱弾がダメと言うのならカード製作を待つか業者に引き取ってもらうしかありませんからね」
敵にしたくないとは言え、釘だくはさしておく。
「ええ、わかってるわ。部長」
と、ここで一番偉いだろう人へと向かって行った。
二、三話すと、部長さんが「わかった」と頷いた。
「そう言うことだから半年は待ちます。必ずその期間で片付けること」
「わかりました。あと、その間ここを利用できる許可をください。カードに封印すると言ってもなんでもかんでも封印できる訳ではありません。縦や横、幅や重さ、封印の角度を決めなければなりません。あと、業者にと言いましたが、爆発で粉々になった基地や空薬莢を混ぜて出したら学校の秘密が外に漏れることになります。そうならないためにも残骸の選別、空薬莢のプレス、危険物の排除等々やりたいと思います。まあ、しなくてよいと言うのならそのまま業者に出しますが?」
そんな理由に、しばし吉永さんが黙考する。
まあ、この人ならボクの考えなど見透かしているだろうが、ダメならダメで構わない。そのまま出していいと言うのなら手間が省けるし、業者は知り合い。うちで出している空薬莢を処分してもらってるところだしね。
「……いいでしょう。利用許可を出します。ただし、多目的広場内の利用に限ります。もし、多目的広場を出るような悪質な利用だったら即停止。残骸はこちらで処分し、その費用は志賀倉くんに支払ってもらいますからね」
そのくらいの制約なでないも同然。即、了承した。




