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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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34/40

34 終結

 掃射のお陰で観客席には迷宮獣はおらず、観客席と闘技場を隔てる壁もないので難なく闘技場へと到達できた。


 そのまま円柱に進みたかったが、そう簡単に行かせてくれるほど鈴子ねえさんの罠は甘くはない。前方に砂の山が現れたと思ったら、間髪を入れずに砂の槍が襲い掛かってきた。


 慌てず騒がず体重を右に傾け回避。体勢を整えてから腰のポーチにしまったカードを取り出して砂塵坊の上空へと投げ飛ばした。


「ナンバー18、水嚢一番召喚!」


 上空五メートルのところで八百リットルの水嚢を召喚。そのまま自由落下で砂塵坊へと激突した。


 ……ウム。最近の化学繊維は丈夫だな。まったく破裂しないよ……。


 後輪のブレーキを掛け、砂の上を滑る反動を利用して方向転換。右脇のホルスターから拳銃を抜き放ち、水嚢に向けて引き金を引いた。


 二度三度と引き金を引き、水嚢が破裂──なんて漫画みたいなことにはならず、6箇所の穴から勢いよく水が噴き出した。


 まるで水に猛毒が混ざっているかのように、水に浸食された砂塵坊がのた打ち回り、そして濡れた砂となって闘技場の一部となった。


「──うわっと!」


 視界の隅に砂の槍が映り、フルスロットルで回避した。


 一輪走行になるデザートイーグル号を操り、同盟諸君の前に陣取る砂塵坊へと走らせた。


 こちらに気が付いた数匹の砂塵坊が攻撃を止め、その巨体をこちらに向けてきた。


「遅い!」


 水嚢が封印されたカードを群れの中に投げ飛ばして回避し、合計八枚のカードから水嚢を召喚した。


 知能があるなら先程の攻撃でなんらかの対処をしようものだが、召喚された水嚢に構わず砂の槍を放ってくる。


 確かに砂の槍は強力で防御力がある砂塵坊だが、学ぶ知能もなければ弱点を知っている敵に負けるほど道具使いとしてのスキルは弱くはない。ましてやバイクは八歳の頃から跨がり、いろんな車種、いろんなフィールドで走ってきた。体力がない自分にも操れるように練習してきたのだ、負ける要素はなにもない。


「六霊山の三年水だ、しっかり味わいやがれっ!」


 水嚢へと弾丸を放った。


 弾丸が尽きる頃には完全に海辺の砂浜と化した。


 砂塵坊どもから円柱へと目を向ける。


 鈴子ねえさんが指揮しているのか、迷宮獣同士で連係しているのかはわからないが、あれだけいた軍隊蜘蛛や軍隊蟻が円柱の周りに集結し、まるで基地を守るかのような布陣を見せていた。


「ふふん。それは願ったり叶ったりの布陣だよ」


 ポーチから虎の子一号を取り出した。


「ナンバー0、氷の魔球召喚」


 ゴルフボール大の氷の魔球を召喚。回天術により強化された肉体で氷の魔球を円柱に向けて投げ放った。


 大リーガーでも打てない速度で飛んで行き、軍隊蜘蛛の中に消えた──ところで大事なことを思い出した。


 ──って、なに至近で投げてんだ、ボクったら! 六つある中でこれが最強だから最後まで残ったんじゃないかよっ!!


 なんて叫んだところで後の雪祭り。氷の魔球が発動さそ、鈴子ねえさん最大×3にも負けないアイスハザードが荒れ狂った。


 全身蒼白になりながらもデザートイーグル号を反転。波紋のように広がるアイスハザードからフルスロットルで逃げ出した。


 だが、最終決戦兵器は伊達ではない。フルスロットルに負けないくらいの速さでアイスハザードが迫ってくるのが嫌でもわかった。


 ──クソッ! 逃げられんっ!!


 すまないとデザートイーグル号に謝罪し、自爆スイッチを押して車体を崩し、倒れる前に飛び下り地面を転がりながら体勢を起こして猛ダッシュ。十二数えて地面へと滑り込んだ。


 背後で起こる大爆発の熱と地面から伝わる衝撃に耐えること数分。ゆっくり起き上がりゆっくり振り返った。


「……………」


 まさに間一髪で、奇蹟としか言いようがない。デザートイーグル号の自爆地点からアイスハザードが左右へと裂かれていた。


 しばし呆然としていたが、急激な眩みで我を取り戻した。


 そのまま深淵と落ちて行きそうな意識に活を入れ、腕時計に意識を向けた。


 ……十一時二十八分か。同盟を結んだとは言えよく生き残ったものだ……。


 安堵のため息をついたとたん、左右から刀が現れ、喉元へと当てられた。


「さすがの志賀倉も限界のようだな」


「これで反撃されたら忍としての誇りがズタズタだぜ」


 感覚が鈍くなっているからはっきりとはわからないが、背後に相当な数の気配がいるのは感じ取れた。


「……さすが名の知れた忍だね。あの距離をこんな短時間で詰め寄るとは……」


 駆けてくるその脚にも驚きだが、あのアイスハザードを恐れずにくるなんて凄すぎるぞ。


「……それで、なにがしたいの?」


「言わなきゃわからんのか?」


 右側に立つ男子が冷淡にそう言った。


「いや、言いたいこともやりたいこともわかる。でも、万が一と言うこともあるしね、教えてくれると助かるかな」


 ボクの想像を上回る答えならここで負けても惜しくはないよ。


 だが、左右の忍は答えない。首筋の刃も動かない。


 正面を見詰めたままでいると、右側からアホが現れた。


「卑怯だったかな?」


 勝ち誇ったような顔でアホなことを言うアホに、侮蔑を籠めて鼻で笑ってやった。


「おや、なにか卑怯なことされましたっけ? 全然気が付かなかったよ」


「……な、なに?」


 アホがアホらしく訝しむ。まったくアホなのも大概にしろよな。


「そう仕掛けておいてなんだが、勇がいないだけでどうしてそこまでアホになれるんだ? この大会が始まる前に勇はなにも注意しなかったのか? ボクが一人で出たとき勇は止めなかったのか? なぜこれだけ優秀な仲間がいて誰一人勇の言葉に耳を傾けなかった? 玉砕趣味にもほどがあるだろう。それともこの追い詰められた状況を覆せるだけの手でもあるのか?」


「……まるで、罠にはめたかのような口振りだな……」


 右側に立つ男子が冷たいが怒りの混じった声で言った。


「別にお前たちが恥じ入ることはない。それぞれの事情もあるだろう。計算もあるだろう。なにより主従関係の奴らを責めてもしかたがない。それどころか同情でいっぱいだよ」


 宮使いの辛さ。想像するだけで涙が出てくるよ。


「責められるべきは己の感情を御し得なかった無能なこいつとその無能を御しできなかった勇の二人だ。いや、このアホを親友とぬかし、御しできなかった勇が一番悪い。こいつが無能なアホだと知りながらそれに相応する対策を講じるべきだったし、伊賀か甲賀のどちらかになんらかの指示を与えておくべきだった」


 こんなことボクに言われるまでもなく勇にはわかっていたことだろう。なにか思惑があってのことだろうと想像できる。だが、そんな思惑などボクには関係ない。付き合ってやる義理もない。こちらはこちらの理由で動くまでだ。


「……ど、どう言う意味だ……?」


「どう言う意味もないだろう。ボクが知る勇なら絶対に言ったはずだぞ。『この大会は危険すぎる。生き残ることに全力を注ぐべきだ。志賀倉には構うな』と」


 それを証明するかのように左右にいる忍の刀が微かに揺れた。


「にも関わらずこのアホは己の感情を抑えることもしない。ボクの行動の意味も考えない。唯一の対抗手段を持つ勇の言葉も聞かない。これで自分一人が決着させるとか、どちらか一人を差し向けるならまだ指揮官として認められるのに、こうして大人数でやってきて『卑怯かな?』なんて抜かしやがる。こうして話しているのにまだわからないでいる」


 左右の二人にはわかったらしく、首筋に当てていた刃を引き、その身も引いた。


「……お前はいったいなにをしている? 武田の名があり、勇が側にいて、伊賀や甲賀を味方に付けているのに、どうしてそれを活かさない。ボクに言わせれば勝利を横から奪い取られる方が悪い。そんなバカなどそこで死ねだ!」


 状況も読めず、真の敵も見抜けず、目の前の勝利に拘る。そんなバカに将たる資格なしだ!


「悔しいか? まあ、そうだろうな。これだけコケにされて怒るなと言う方が悪い。だが、これが柳生星華の横に立つ男の力だ。こんなイカれた男が相手──」


「──知ってるっ!」


 ボクの言葉を遮り、アホが叫んだ。


「なにを知っているって?」


「……本当の星華ちゃんを知ってる……」


 アホの絞り出すような言葉に体が勝手に反応し、両腰の鞭を抜いて左右の二人に放った。


「このアホに免じてチャンスをやる。逃げろっ!」


 両手の鞭を放り投げ、アホを見る。


「──クッ! 皆、退くぞ! 急げっ!」


 理解力のあるヤツがそう叫び、さすが忍と思わせる速さで遠ざかって行くが、何人か残った気配があった。まあ、このアホの仲間だろう。なんとも律儀なこった。


「……別に秘密にしている訳じゃないが、そう言うプライベートなことはボクの前でも言うな。あの姿を見せるかどうかは星華ちゃんが決めることだ」


 なぜ猫を被っているかなんて知らないし、知るつもりもないが、星華ちゃんがそう決めたのならそれを快く応援するのが幼なじみってもんだ。


「お前が見た星華ちゃんの姿はさぞや輝いていたことだろう。魅了されたことだろう。だが、ボクはそれを本当の姿だとは思わない。魅了もされない、本当の星華ちゃんはとても優しくて笑顔がとても似合う、人を愛し、人に愛される女の子だ」


 その気持ちは小さい頃から変わってはいない。何度鬼を見ようが覆ることはない。ボクは星華ちゃんの笑顔に魅了されたのだから。


「鬼のような顔ではなく、血を求めるのではなく、人としての心を持ち、温かな笑顔で一生を終えてくれることをボクは切に願う。もし、その願いを受け継いでくれ、万が一血に飢える人生になったとしても人の心を繋ぎ止めてくれる男がいるのなら、ボクは喜んで星華ちゃんの横から外れよう。この身が朽ち果てるまで、ボクは二人の祝福を願おうじゃないか」


 いいかアホ野郎。これが最後だ。二度は言わない。あの姿を見てまだ星華ちゃんを好きでいるアホに免じてこれまでの減点は消してやる。


「お前が本当に星華ちゃんを好きだと言うのなら忘れるな。星華ちゃんの横に立つ男はいずれ狂愛の一族を束ねると誓った男だ。並の悪意や愛情で負かせる男じゃない。そんな軟弱な覚悟で揺らぐ男でもない。どかしたければ全力を以上の力を出して掛かってこいッ!」


「──絶対にお前に勝ってやるっ!!」


 お互い、力の限り叫び、そして、世界が真っ白となった。

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