33 最後の戦いへ
砂の槍──いや、砂の砲弾が次々と放たれる。
栖輪忍群の三人による風神の盾で防がれてはいるとは言え、破られるのも時間の問題だろう。
「砂塵坊って、あんなにデカいのか?」
「……いや、あんなにデカいとは聞いてない……」
敏捷性はないが、その攻撃力は下手な速射砲より威力がある。
……砂塵坊よりそれを防いでいる三人の方にびっくりだよ……。
「──温子! なんとかしろっ! こんなの防ぎ切れんッ!」
主は太一くんなのか、その顔には大量の汗が浮かんでいた。
「栖輪五人衆が泣きごと言うな、みっともない! 根性見せろ!」
「っざけんなッ! 根性でどうにかできるレベルじゅねー!」
「温子、また砂塵坊が出てきたわよ!」
美津子さんが指差す方向に新たな砂塵坊が形成されて行くところだった。
「お、おい。あっちにも砂塵坊が出てきたぞ……」
高明の震える声に振り向くと、五体もの砂塵坊が形成されて行くところだった。
「……メ、メチャクチャだな、おい。なに考えてんだ、愛原鈴子は……」
「頭がおかしいんじゃねーか、あの女は!?」
「ど、どうする正光?!」
全員の目がボクに集中する。
そんな「なんとかしろよ!」的な目を向けられても困る──が、なんとかしなければ負けるだけ。あのアホを喜ばすだけ。なによりあの腐れ女子の思い通りになってしまう。
それだけは我慢ならない。これだけの道具を出し、二時間近くも頑張ってきたのだ、プライドが薄いボクでも傷つくと言うもの。なんとかしろ、正光!
「十分。いや、五分でいい。ボクに時間をくれ!」
皆を見回しお願いする。
「……わかりましたわ。第二特攻隊はそのまま待機。他は温子さんの指示に従ってください。温子さん、お願いしますわ」
さすが藤月さん。誰よりも決断が早く、これっぽっちも動揺を見せない。一学年では間違いなくこの人が一番のリーダーだ。
「ったく、わかったわよ! 太一、霞、伊吹は正面にだけ集中。前衛一番から五番までは右翼に。六番から十番は左翼に移動。支援は全体をカバーしなさい。五分よ! 栖輪の名に賭けて五分は守って見せるわよ!」
「任せた!」
そう言ってその場にしゃがみこみ、全てのポケットからカードケースを出して床に並べた。
さとどうする? どうすればこの状況を引っくり返せる? 敵は姉さんが十五分も掛けなければ倒せない強さ。しかも数十匹もいる。核を潰せば倒せるらしいから一匹一匹集中射撃で倒す──は無理か。魔闘術のように砂が守っているし、一匹に集中していたら他のにやられるだけだ。しかも、それをするには壁が
……壁、か。壁ならある。戦車の砲弾にも耐える壁が。だが、あの壁は、高さが五メートル。幅が十メートル。厚さ二メートルのL字形。とてもこの通路の幅と高さ、そして観客席の角度では召喚できない。いや、召喚の角度、への字にすればいか。よし、守りはこれでいこう。
サバイバルケースから三枚取り出し、右に置く。
攻撃は考えなくてもいいのがある。カードを作る前に試作で作った"攻撃魔術球"だ。
威力がありすぎるのが欠点と言うものだが、まあ、あの壁と栖輪忍群の防御があれば大丈夫だろう。
アイテムケースBからナンバー0を一枚取り出し、左に置く。
防御と攻撃はこれでいい。いいんだが、それをやろうとしたらやっぱり砂塵坊をなんとかしなければならないんだよな……。
そこで思考が停止してしまった。
クソ! 考えろ、バカ正光! これまであらゆる状況を想像し、対処するイメージトレーニングをやってきたんだろう。その成果を見せろってんだ!
焦る自分を落ち着かせ、呼吸を整えようとするが、一秒毎に緊迫して行く栖輪さんの声に煽られて思考が散漫───いやいや、そんな責任転嫁している場合じゃないだろう。もっと気合いを入れて考えろ!
そんな落ちては行く思考を盛り上げては落ちて行くと言った出口のない悪循環に捕らわれてしまい、なにも考えられないままに時間が過ぎて行った。
腕時計を見れば十一時二分。任せたと言ったときから四分経過した。
プレッシャーに押し潰されそうな理性が最後の力を使って水を飲んで落ち着けと囁いてくれ、その忠告にありがたく従い近くに置いたペットボトルに手を伸ばした──が、知らずに手が震えていたためつかみそこねて倒してしまった。
と、流れ出る水がなにかを流すのが視界に映った。
……え? なに? 砂──っ!!
慌てて闘技場を見、直ぐに上を見ると、太一くんらが展開した風に流され砂が陣地に降り落ちてくるのが見えた。それもよく見なければわからないほど微量に、だ。
ぞっわっとした。
生まれて初めて戦場に立ったときのように全身に戦慄が駆け巡った。
「──き、基地を放棄するっ!! 全員二十秒で移動の準備をしろッ! 栖輪さん、右翼側の迷宮獣をできるだけ排除してくれ! あと、水を持っている者は床に撒け! 砂塵坊が侵入──そうか、水か! クソ! なんでこんな簡単なことに気が付かないんだ、アホ正光がッ!」
時間があったら壁に頭を打ち付けているところだ、畜生めッ!
「ナンバー15、水その十召喚!」
サバイバルケースCから大容量のクーラーボックスを召喚。中に詰め込んだ二リットル入りのペットボトルを取り出して皆に配った。
「その水は新しい防御拠点を築いたら使え! それで砂塵坊の形成を阻止できる! 第二特攻隊は解散。藤月さん、島田くん、矢沢くん、きてくれ!」
あとは高明に任せ、迅速に集まってきた三人をしゃがませる。
「島田くんと矢沢くんは新しい拠点を築いて欲しい」
そんな唐突な指示にも関わらず、二人は了解と頷いた。
「なるべく遠くに。最低でもここから百メートルは離れて欲しい。まず右翼側にこのカードをこう言う方向で魔法陣を上にして通路の真ん中に置く。ナンバーなになにに、防壁A召喚と言うと、高さ五メートル。幅十メートル。厚さ二メートルのL字型の鉄筋入りの強化コンクリート製の壁が浮かんでくる。続いてこのカードを正面に同じように置いてナンバーなになにに、防壁B召喚だ。大きさと角度に十文気を付けて召喚すること。タイミングと指揮は藤月さんに任せる」
藤月さんも了解と頷いた。
「全員が移ったらナンバーなになにに、防壁C召喚で左翼側を閉じる。そしたらナンバーなになにに、土嚢B召喚で隙間を埋めること。あと水を撒くのを忘れないで。砂が回天術のように動いているのなら不純物を混ぜてやれば維持を阻害してやれりはずだ。もしダメなら冷気を掛けてやれば動けなくなる。皆が最優先すべきことは時間まで陣地を守ること。そして、ボクの動きを把握してそれに対処すること。以上だ」
三人が了解と頷き、島田くんは防壁のカードを。矢沢くんは土嚢のカードをつかみ、各自、仲間たちの指示に動いた。
「栖輪さんには無理な注文を押し付けるけど、殿をお願い」
防衛をしながら近付いてきた栖輪さんに言った。
「もとよりそのつもりよ。気にしないで」
これっぽっちの動揺もなければ微塵の隙もない。さすが皆から認められるだけはあるよ。
「と言うことだから太一、伊吹、霞、美津子、春海、俊介。栖輪忍群の力、しっかりと見せ付けるわよ!」
「ったく。やる方の身にもなれよな」
「ほんとだぜ。あんなメチャクチャな攻撃に耐えるの大変なんだぞ」
「ラ・レムルのデラックスストロベリーパフェをおごりなさいよね」
「あ、ならぼくはビッグモンブランがいいです」
「わたしはデラックス生キャラメルパフェでお願いします」
「まあ、温子のおごりってことで。皆、やるぞ!」
おー! と、リーダーを抜かす栖輪忍群が一致団結して叫んだ。
「──ちょ、ちょっと、なに勝手に決めてんのよ! これは栖輪忍群の誇りを賭けた戦いじゃない! ねえ、聞いてる? あたし換金して剣を買ったばっかりなんだよ! お小遣いだってそんなにないんだよ! ねぇぇぇっ!」
リーダーの抗議など誰も聞いちゃいない。栖輪忍群の仕込みがよいのか、リーダーの指示がなくともそれぞれの役割を心得ているかのように防衛をしている。
「もー! 指揮官はあたし! 勝手に動くなっ! ほら、二階の支援、いつまでもそこにいるの。とっとと下に降りなさい! さおり、銃は持てるだけ持っていきなさいよ。太一、そんな無駄に強力な盾を出さない。払うだけでいいのよ──」
見た目通りのかわいい叫びをしながら見た目からは想像できないほど的確な指示を飛ばしている。
……なんと言うか、栖輪忍群っておもしろいよね……。
心の中でクスっと笑い、置いたカードケースをしまい、手甲カードを入れ替え、アイテムケースBから虎の子十号──電動式多連装機関銃を召喚した。
本体とマガジンタンクで百キロ近くはあると言う、本当に携帯するものとして造られたのか謎の兵器だが、回天術で肉体を強化している今なら携帯………すると三分で力尽きるのでマガジンタンクは床に置き、銃身に取り付けてあるベルトを肩に掛けて構えた。
外観に損傷なし。バッテリーよし。スイッチオンで動作不良なし。うん、オッケーだ。
準備よしと頷き、周りに目を向ける。
さすがと言うかなんと言うか、何度感心しても飽き足らないほど皆様の動きたるやアッパレとしか言いようがない。虎の子十号を召喚して装備するまで一分の間に島田くんたちは新拠点まで駆け抜け、今前衛側に防壁を召喚した。それに合わせるかのように藤月さんの指揮で先発の十人と盾役の伊吹くんが駆け出し、次の集団が援護する。それを繰り返し、ほとんどの者が移動したところで左翼側に防壁を召喚した。
砂塵坊の攻撃もあちらが主体となり、ボクと栖輪さん、そして高明が率いる五人だけとなった基地には軍隊蜘蛛が囲んでいた。
「志賀倉くん、準備はいい?」
「いつでもいいよ!」
ボクの装備を見てボクのすることを理解して作戦を考案しただろう栖輪さんに応えた。
「太一が盾を解いたら左翼側から右翼側に向けて軍隊蜘蛛を薙ぎ払う。その間姫騎士団が右翼側をカバーしながら志賀倉くんの動きに合わせて。んじゃ、用意!」
栖輪さんの声に電動式多連装機関銃を起動。銃身が勢いよく回転し始めた。
「──撃てぇぇぇっ!」
引き金を引くと、まるでロケットを逆に持ったかのような衝撃が襲ってきた。
直ぐに魔力を制御して衝撃を押さえ込み、栖輪さんの指示通りに左翼から右翼へと銃身をゆっくりスイングした。
……まさにこれぞ薙ぎ払う、だな……。
高速で撃ち出される弾丸が風船を破裂させるより簡単に軍隊蜘蛛を葬って行く。
……やっぱりスゴいな、これは。無理して強──じゃなくて、捨てられていたものを拾ってよかったぜい……。
「余力があるなら闘技場にも撃ってっ!」
栖輪さんの指示で闘技場に向け、残りを吐き出した。
あっと言う間に三千発が尽き果て、闘技場を占めていた迷宮獣は……まあ、尽きる訳もないが、円柱までの道はできた。
そのまま駆け出したいが、この虎の子十号を捨てるのはもったいないのでマガジンタンクは捨てて銃身だけを封印した。
「じゃあ、栖輪さん。あとは好きにして」
中の装備を使い果たした基地などタダの小屋にも劣る。持っていてもしょうがないので有効に利用した方が有意義ってなもの。まあ、その判断は栖輪さんに任せるよ的な意味を含めてウインクした。
「了~解! 好きにさせてもらうわ」
正しく理解してくれたみたいで親指を立てて無邪気に笑った。
「ナンバー6、デザートイーグル号召喚」
アイテムケースBから一枚取り出し、戦闘用モトクロスバイクを召喚した。
いろいろ装備したデザートイーグル号に跨がり、エンジンを掛けた。
「では、最後の戦いと行きますか」
アクセル全開。観客席を駆け下りた。




