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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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32 砂塵坊襲来

「剣連会、用意よし! いつでもどうぞ!」


 第一特攻隊七名が前衛に集合し、リーダーの芹沢くんが気合いの入った声を挙げた。


 他の仲間たちもその気合に応え、高々と剣を掲げた。


「魔術組もよろしいですわよ」


 剣連会の後ろに集まった魔術組を指揮する藤月さんが続いた。


「四人って、ちょっと少なくないか?」


 横に立つ高明に尋ねる。


「四人とも一級魔術士の称号持ちだ。問題ない」


 なるほど。戦いに慣れた海璃ちゃんが四人いるようなものか。そりゃ問題ないわ。


「攻撃組もいいぞ」


 右翼側に集まった物理攻撃組を指揮する矢沢くんが声を挙げる。


 こちらは六人と多く、全員が忍服からして陽炎忍群で組織されていた。


「悪い、遅れた」


 やや遅れて銃撃組を指揮する島田くんたちが左翼側についた。


 こちらも六人の組で、C基地に備え付けていたタクティカル・アーマーに着替えていた。


「……なんと言うか、あんな言葉少ない指示でよくここまで理解できるな……」


 正直言ってなんとなく指示していたし、まあ、だいたいそんな感じになればいいかなって軽い気持ちでいた。なのに、文句のつけようがないくらいの陣を短時間で構えるとは夢にも思わなかったよ。


「この学年は小等部の頃から戦い漬け訓練漬けの毎日なんだ、指揮するのもされるのも慣れている。要点さえわかれば細かい指示などいらないよ」


「どいつもこいつも人間兵器だな」


「それはお前だ。一般人のクセに戦いに恐怖しないわ、雪姫先輩の罠に対抗するわ、次々と武器を召喚するわ、それを使いこなすわ、もうどこから突っ込んでいいかわからんよ。しかも、特A級の精霊獣を宿して体力も魔力もないに等しいのに見事に戦い、おれの知らない回天術まで使ってやがる。こんな状況じゃなかったら胸ぐらつかんで問い詰めているところだ」


「なるほど。回天術にもいろいろあるのですね」


「っうことは、服部姫子も知らないってことだ」


 ボクと高明の会話を聞いていた藤月さんと芹沢くんが鋭い目を向けてきた。


 ……青春に浸りながらも本来の目的を忘れない。そんな奴らに嫉妬されるって理不尽じゃない……?


「まあ、うちはいろんな経歴を持つ者が多いからな、習っていると混ざったり別の技になっちゃったりするんだよ。そんなことより合図と標的の位置を頼むぞ」


 言ってアンチ・マテリアル・ライフルを構えた。もちろん、闘技場に向けてだ。


「了解」


 数秒前まで呆れていた気配がなくなり、姉さんほど流麗ではないが、服部の名に恥じぬだけの魔を纏い始めた。


「いいぞ、栖輪」


 一階のコンテナの上で拡声器を持つ栖輪さんに叫んだ。


「了解! 前衛はマガジン交換。両翼は敵を中央に移動させるように撃て! 二階支援は全方位に注意!」


 その指示に前衛が射撃を止めマガジンを交換。その間に両翼がこちらに向かってくる軍隊蜘蛛を射撃し、二階支援は全方位に弾丸を放った。


「両翼、支援、止め! 前衛、一点集中攻撃用意……撃てっ!」


 各チームの寄せ集めなのに、全員が一つとなって一点に集中射撃を開始。闘技場まで一本の道をつくって行った。


「第一特攻隊、行けっ!」


「──突貫!」


 芹沢くんの号令一下、素晴らしい跳躍で火の壁を跳び越え、射られた矢のように駆け出した。


 だが、十人程度の射撃で数百もの軍隊蜘蛛を払うことはできず、半分も行かないうちに道は閉ざされ、津波のように剣連会に襲い掛かってきた。


 援護をと心の中で叫んだが、栖輪さんの指示は飛ばない。剣連会の突貫も止まらない。どうするんだと見ていると、先頭を走る芹沢くんの持つ剣に炎が生まれた。


 ……さすが天下の魔導学校。魔法剣士までいやがったよ……。


「──炎の大蛇ッ!」


 斜め下から斜め上に一閃。正面にいた数十匹の軍隊蜘蛛を一飲みにした。


 その魔法剣と言い、その威力と言い、強豪ひしめく学年でリーダーをやっているだけはある。もう天才と断言しても反論されないだろうよ。


 そのまま剣連会の戦いを観戦していたいが、鈴子ねえさん相手によそ見はできない。この機会を逃したら勝率が大幅に降下する。これまでの努力が無駄になる。集中しろ、正光!


「──正面右側、距離二メートル。灰色の忍服に皮鎧。左手に刀を持った男が階原だ」


 闘技場に向けていた銃口と感覚を、高明が指示した方向に向けた。


 スコープの十字に標的──伊賀の階原くんとやらが映ったのと同時に引き金を引いた。


 第一勢力から警戒されるだけあってボクの殺気に気が付いた──が、五十口径の威力と速度に勝てるのは鬼になった星華ちゃんくらいなもの。弾丸が直撃したと同時に迷宮から排除された。


「正面左側、距離三メートル、二段下、黒鉢巻きをしたのが真田一党だ」


 歓喜に浸る暇なく直ぐに銃口をその地点に向け、適当な人物へと向けて引き金を引く。更に隣にいた人物に。不意をついてその上にいた人物──には外れてしまった。


「正面左側、距離四メートル。甲賀の奴らが動揺している」


 高明の指示で引き金を引いて行き、装弾数十発で七人を排除できた。


「言うほど悪くないじゃないか」


「ああ。自分でも驚いた。練習では三発当てればいい方だったのに」


 やはり標的が人なのがいいのかな? 気配のない的では感覚が働かないから。


「牽制を頼む」


 アンチ・マテリアル・ライフルと予備のマガジンを召喚して高明に渡し、闘技場に目を向けると、ちょうど芹沢くんらが闘技場に飛び込むところだった。


 まるで黒い海と表現したいくらいのところになんの躊躇もなく飛び込める精神力も呆れるが、一刀で数匹も斬り裂くその腕には言葉もでなかった。


 ……平常時の星華ちゃんと対等に戦えそうだな、芹沢くんは……。


「……なにも起こらないな?」


 剣連会が闘技場に飛び込んで十七秒経過するが、これと言った変化がないことに矢沢くんが訝しげに呟いた。


 確かにボクの目にも変化は見て取れない。相変わらず迷宮獣に覆われ、剣連会が暴れ回っている。敵はこちらの攻撃を恐れて円柱の陰に移動……ん? なんだ、あれ?


 円柱の側面に開いた小さな穴からなにやら細かいものがサラサラと流れ落ちていた。


 高明に渡したアンチ・マテリアル・ライフルを奪い取り、スコープを円柱に向けた。


 穴は一箇所だけではなく、いたるところにあり、よく見なければわからないほどの粒子の細かい砂──だと思うものが流れ落ちていた。


 確認してくれと高明にアンチ・マテリアル・ライフルを返した。


「……多分、サジンボウだと思う」


 苦々しく言ったあと、アンチ・マテリアル・ライフルを藤月さんに渡した。


「わたくしもサジンボウだと思いますわ」


「なんなんだ、そのサジンボウって?」


「砂の塵の坊主と書いて砂塵坊。まあ、簡単に言えば砂のゴーレムだ」


「わたくしも先輩方から聞いただけで実物は見たことはありません。ですが、この地下迷宮で砂の迷宮獣は砂塵坊しかおりませんわ」


「おれも姫ねえたちに連れられて地下十五階まで何度も行ったが、砂塵坊は見たことはない。結構レアな迷宮獣で特定の砂でないと体を形成できないそうだ」


「あの鈴子ねえさんが出してきたんだから弱い訳がないか……」


「ああ強い。その体内にある核を潰せば倒せるんだが、その核は常に移動し、砂は回天術のように回って体を強化している。姫ねえですら倒すのに十五分も費やしたそうだ」


 あの人間兵器が十五分ですか。それはもうボクたちに向けていい迷宮獣ではないでしょう。ったく、本気になるのも大概にしろよ、この腐れ女子がっ!


「──まずい! 剣連会、逃げなさいッ! 温子、砂が正面に砂が集まってるわ!」


 突然、栖輪美津子さんが叫んだ。


太一たいち、お願い!」


「任された!」


 なにがなにやらわからないが、防衛に長けた栖輪忍群にはわかったらしく、二階のコンテナの上で仁王立ちしていた男子が前衛組の前に跳び下りた。


「風神の盾!」


 なにか印のようなもを結び叫ぶと、海璃ちゃん以上の風壁が展開された──その直後、闘技場から砂の槍が襲い掛かってきた。


 まともに受けたら確実に挽き肉になりそうな砂の槍を弾き返す風神の盾。まさに名に恥じぬ威力であった。


「いつもながら栖輪太一の風神の盾は凄いな。砂塵坊の攻撃をも防ぐか……」


 長年競ってきた高明の言葉につられて栖輪太一くんへと目を向けると、なぜかギョッとした顔になった。


かすみ! 伊吹いぶき! 太一の援護!」


 太一くんの驚きを誰よりも早く読み取った栖輪さんが叫ぶと、左翼と右翼にいた栖輪忍群の忍服を纏った男女が飛び出し、太一くんの横に付くと、印を結んで風神の盾を拡大させた──またその直後、今度は五つもの砂の槍が同時に激突した。


「なっ!?」


 光よりも速く闘技場へと目を向け絶句する。一体だと思っていた砂塵坊が五体も生まれ出ていた。しかもそのサイズと言ったらダンプカーにも負けてない。もえはや戦車であった。

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