31 聖輪同盟
「さて。話を戻そう。第一特攻隊──」
「──それは自分ら剣連会に任せてもらいます」
今度は剣連会の芹沢くんが手を挙げてきた。
「先程は不覚を取りましたが、一番槍は武人の誉れ。他に譲る訳にはいきません」
武家の出は皆こうなのかね? 星華ちゃんも似たようなこと言ってたが。
「では芹沢くんらに任せる。ただし、あの鈴子ねえさんのことだから罠を仕掛けているのは必至。だから無理はしないこと。その罠は第二特攻隊が破る。なので、第二特攻隊は、魔術組、物理組、銃組を組織して罠に対応して出すことにする」
「なら、第二はわたくしが指揮しますわ」
と、紅薔薇団の藤月さんが名乗りを揚げた。
「いや、第二はボクが指揮をする」
そう言いながら闘技場に背を向けた。
「皆、なに気ない顔をしながら円陣を組んでしゃがんでくれ」
ボクの言葉に表情を変えることなく指示に従ってくれた。
「皆にはそう見えないだろうけど、ボクの体力は一割くらいしかない。このままなにをしなくても一時間で動けなくなるだろう。だから動けなくなる前に少しでも鈴子ねえさんの罠を削ぎ落として勝率を上げておきたい。だから藤月さんにはボクのあとを引き継いで欲しい」
当然と言うべきか、意味がわからず疑問の目を向けてきた。
「正直、鈴子ねえさんの計画がどう言うものかはわからない。が、闘技場に一つと反対側にいる集団は罠だと断言できる。現にあっちの集団から鋭い視線を感じる。多分、ボクらの口の動きを読んでいるんだろう。だから口はなるべく見せない。でも、ひそひそ話はダメ。表情の動きも自然に。勇も上から見て、なんらかの方法で下に伝えてるはずだから」
迷宮獣の撃退に意識を捕らわれていてあいつらの動きを見ることはできなかったが、ああも素早く対処でき、同盟を組めるなどあり得ない。ましてや 勇が指示を出せるのが決定的だ。鈴子ねえさんが意図的に流した情報をつかまされたんだろうよ。
……そうでないとこれまでの苦労が報われないよ……。
「後半のは賛成だ。一年の武田組は幕田で持っているようなものだからな。でも、前半はどう言う理由でだ?」
そう島田くんが問う。
「闘技場、と言うよりはあの"円柱"から溢れ出す迷宮獣をどうにかするにはあそこまで行かなくてはならない。なら、そこに罠を仕掛けるのが道理でしょう」
納得と島田くんが頷いた。
「しかし、幕田のやつ、いったいどんな方法で伝えてるんだ? オレ、雪姫先輩が名を読み上げているとき、武田組を見張っていたが、呼ばれたとき幕田は驚いていたぞ」
「自分も見てました。あれはどう見ても演技ではありませんでした」
矢沢くんと芹沢くんが疑問を口にする。
「鈴子ねえさんがどんな風に漏らしたかは知らないが、勇ならいくつか対応を用意しておくさ」
対応力と悪辣さはボクが勝っているが、頭の回転と先読みに関しては勇が勝っている。何度となく将棋やオセロで戦ったが、一度も勝てなかったものだ。
「それで、その罠をどう破るんだ?」
「もちろん、力づくでさ」
高明の問いにニヤリと答えると、皆が眉をしかめた。
勇が相手とは言え、その場にいないのなら怖くはない。ましてやあのアホが相手なら負けるなどあり得ない。ボクの悪辣ぷりを見せてやるよ。
「第一特攻隊の役目は罠を出現させること。無理はせず、罠に飲み込まれる前に左翼側に撤退。栖輪さんは剣連会の動きに合わせて逃げ道をつくってあげてくれ」
栖輪さんに目を向けると、了解と頷いた。
「第二特攻隊は言った通り、魔術組、物理組、銃組を組織して前衛に待機させるけど、各組には島田くんに矢沢くんに藤月さんも混ざって欲しい」
第一勢力と第三勢力の高明と藤月さんにはわかったらしく、目を大きくしてアンチ・マテリアル・ライフルを見、わからない四人はどう言う意味かと目で問うてきた。
「あちらが仕掛けてくる前にこちらから仕掛ける。そこで聞きたい。あっちの集団で残しておくと厄介なのは誰?」
第一勢力と第三勢力に尋ねる。
「伊賀の皆原夏と甲賀の大賀真白だな」
「それと、真田の由井明斗に宇島組の宇島幸之助ですわね」
「……四人もいるのか。ちっとキツいな……」
「ちょっと、三人でわかってないで説明してよ!」
栖輪さんの叫びに残り三人が頷いた。
「第二特攻隊を囮にボクがこれで敵を撃つ──んだけど、ボク、あんまり狙撃って得意じゃないんだよね。正直、この距離でその四人を狙撃する自信はない。不意の一発とか反応の遅いヤツなら狙撃できるんだけど、ダメ、かな?」
「いいんじゃないか? 不意の一発は伊賀の皆原。あとは狙えるヤツで」
「そうですわね。それで防御に徹してもらえれば助かりますし、もし、反撃されてもこちらには栖輪さんがいます。むしろ、第二特攻隊に仕掛けてくる確率の方が高いと思いますわ」
「それこそ願ったり叶ったりだね」
「お、おい。ちょっと待てよ。やると言うなら反対はしないが、第二の前ってマズくないか? タダでさえあの数を相手にしなくちゃならないのに、肝心なときに横っ腹を突かれたら第二は全滅するぜ」
「ああ。伊賀も甲賀も特攻に優れてるぞ」
島田くんと矢沢くんか声を挟んできた。
「ぜひとも襲ってきてもらいたいね。一気に殲滅できる」
ボクの不敵な発言に、第一勢力と第三勢力以外は意味かわからず首を傾げた。
「栖輪さん。これを」
ポケットからB基地の金庫から取り出したスイッチを渡した。
「なにこれ?」
「基地の自爆スイッチ」
ぎょっとする栖輪さん。
「一回押せば二十秒後に。二回押せば十秒後に。三回押せば直ぐに爆発するから間違えないでね」
悪戯っぽく笑って見せた。
「藤月さんにも自爆スイッチを渡しておくよ」
なんのとは言わず、タクティカル・アイテム・スーツにつけていたバッチを外して藤月さんに渡した。
「使い方は簡単。そのバッチに魔力を送れば起動するから」
藤月さんにはニッコリ笑って見せた。
「……ったく。姫ねえが志賀倉を嫌う訳だ。イカれてやがる……」
「……同感ですわ……」
そう吐き捨てる第一勢力と第三勢力さん。よくわかってらっしゃる。
「まあ、せっかくあるルールなら利用しない手はないでしょう」
「そう言えるのはお前だけだ」
「レベル上げに苦労している方々が聞いたら暴動ものですわね」
まあ、目指すものが違うんだからしょうがないか。
「だからお前らだけでわかるなよ。説明しろよ」
「まったくです。どう言うことなんですか?」
島田くんと芹沢くんが抗議の声を挙げ、栖輪さんと矢沢くんが同意の頷きをした。
「第二特攻隊の真の目的は闘技場の罠を破ることではなく、あいつらを闘技場に招き寄せるためのエサってことさ。多分多分で申し訳ないけど、あいつらは、ボクらが罠を破った直後に襲い掛かってくる計画だと思う。いくら皆が強いとは言え、闘技場の罠を破るには相当の体力を消耗するだろう。下手したら何人かは排除されるだろう。突く方にしたら当然で適切な判断だ。けど、それに付き合ってやる必要はない。ボクが狙いならそれを利用してやるまでだ。もっともこないと言うのならそれも構わない。こちらには鉄壁の栖輪さんがいて名将の藤月さんがいる、前衛は芹沢くんたち。右翼左翼には矢沢くんに島田くんらを置けば理想的な陣形で理想的な戦いができる。なに一つ負ける要素はない」
そう断言すると、全員の視線がボクから外れた。なに?
「……まったく、志賀倉ってのはよくそんな恥ずかしいことが言えるよな……」
「こっちが恥ずかしくなるぜ」
「ほんとよ。でもまあ、志賀倉くんにそう言われるのも悪くはないわね」
「ええ。悪くはないですね」
小集団の四人は照れた顔を見せてるが、嫌でも認められる第一と第三は呆れ顔。自分たちには言えないよと、その目が語っていた。
「ま、それはボクの読みが正しかった場合であり、皆の努力次第なんだけどね」
ボクの軽いシメに皆の表情が引き締まった。
「では、作戦──」
「──あ、ちょっとよろしいかしら」
と、藤月さんが突然割り込んできた。
「なにか問題でも?」
「いえ、そうではありませんわ。この同盟の名前、聖なる輪と書いて"聖輪同盟"と言うのはどうかしら?」
藤月さんの言葉に、全員の頭の上に疑問符の花が咲いた。
「……わ、悪い、藤月。言ってる意味がわからんのだが……?」
真っ先に疑問符の花を枯らした島田くんが問うた。
「だから、この同盟の名前を聖輪同盟にしましょうと言ってますの」
「あ、いや、うん、いい名前だとは思うけど、どう言うこと?」
ボクも疑問符の花を枯らして藤月さんに問うた。
「こうして七つもの勢力が集まって同じ目的に向かって進むんですもの、名前があった方が素敵じゃありませんか」
なんとも子供っぽい理由にボク以外の者が目を点にする。
「いいね、それ。賛成に一票」
「フフ。志賀倉くんなら賛同してくれると思ってましたわ」
歌劇団のような凛とした藤月さんだが、今見せている笑いは悪戯小僧そのもの。なにやら藤月さんから同じ匂いがしてきたよ。
「でも、どうして聖輪なの?」
「最初に思ったのは円陣同盟と七陣同盟でしたが、それだと響きがよろしくありませんし、いまいち感があります。かと言って全員の名を入れるのも無理があります。なので、七陣を修正して聖輪にしましたの」
「まあ、名前があった方が締まりはあるし、団結心も生まれるか」
「そうですね。ちょっと恥ずかしい名前ではありますが」
「だが、自ら聖を付けるのは痛くね?」
「だから聖を付けるんですわ。裏切りを見抜けなかった自分に対してと、裏切った者を罰するために」
なるほどね。そう言う理由も兼ねているのか。さすが第三勢力。脱帽です。
「まあ、そう言った理由ならいっか。オレも賛成に一票だ」
「わたしも賛成に一票よ。これで勝てばうちの株は上昇するし、記録にも残るしね」
「自分も賛成です。梅学史上最悪の大会で生き残って名前がないのも情けない話ですし、こう言うのも嫌いではありません」
「そうだな。強さで名を上げるのもいいが、こーゆー洒落たこともできると示していた方が陽炎のためにもなる。おれも賛成た」
なかなか先を見る目と話がわかる方々のようで藤月さんの案に賛同した。
……フフ。なんだろうな、この不思議な高揚感は? なにか、とっても懐かしいさが涌き出てくるよ……。
そのまま心を爆発させたいが、そうしたら多分、冷静な判断ができなくなる。感情のままに突っ走ることだろう。なによりあとで星華ちゃんに殺される。
あえて無視していたが、姫騎士団と同盟を組んだ辺りから星華ちゃんの嫉妬の眼差しが降り注ぎ、リーダーたちと円陣を組んだ辺りから殺気を含んだ眼差しになってきた。
……不可抗力とは言え、二度も星華ちゃんを仲間外れにしてしまうとは。こりゃ、今度の金土日も迷宮に入らないとならないな……。
それで許してはくれないだろうが、星華ちゃんの中にいる鬼を静めるためには戦いが一番。まあ、斬られる迷宮獣には悪いけどさ。
「正光?」
おっといかんいかん。星華ちゃんの機嫌取りはこれが終わってからだ、バカ正光!
「すまない。ちょっと気が抜けた」
ぶんぶんと頭を振り、邪念を追い出した。
「では、第一特攻隊は準備を。各リーダーは、第二特攻隊の選抜と配置を。防衛組は迷宮獣の排除を続けながらあいつらの反撃に備えて。高明はボクの護衛と補佐を頼む」
皆を見回し、甲を上に右手を突き出した。
その行為を真っ先に理解した藤月さんがボクの右手に自分の右手を乗せた。
「ほら、なにグズグスしてますの」
「ったく、青春しすぎた」
そう文句を言いながらも島田も右手を乗せた。
「でもまあ、こーゆー青春も悪くはないな」
続いて矢沢くんも右手を乗せた。
「そーね。毎日が戦いで毎日が修行ってのもなんだか悲しい人生だし、こーゆー青春もしておかないと将来悲しい大人になっちゃいそーだしね」
クスクス笑いながら栖輪さんも右手を乗せた。
「確かに潤いがない人生は悲しいですね」
芹沢くんも笑いながら右手を乗せた。
「銃弾が飛び交うところで青春もどうかと思うが、まあ、梅学らしいと言えばらしいか」
最後に高明が右手を乗せた。
もう一度リーダーたちを見回し、ニヤリと笑う。
「では、聖輪同盟諸君。作戦開始だ」




