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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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30/40

30 カードを譲る条件として

 指示をと言われてもこの状況では指示もへったくれもない。


 とにかく今は闘技場を埋め尽くすほどの迷宮獣──梅学では軍隊蜘蛛、軍隊蟻、軍隊蜂と言うそうだ──を駆逐し、近づけさせないようにするのが最優先事項なのである。


「十時方向、距離四十。指揮官蜘蛛発見!」


 栖輪忍群の女子が基地の上に立ち、何千匹もいる中から軍隊蜘蛛の指揮官を選別して叫んだ。


「前衛一番から四番の銃士、撃てっ!」


 栖輪さんの指示で前衛に配置された一番から四番の銃の持ち手──ちなみに銃士と栖輪さんに命名された銃士は前衛六人。左右に四人ずつの計十四人です──が十時方向、距離四十のところに向けて弾丸を放った。


 ボクには判別不可能だが、そこら辺の軍隊蜘蛛が駆逐されるのと同時に、表現はおかしいとは思うが、迷子の子供のようにオロオロし始めた。


「……凄いな、あの。どーゆー理屈で見抜いてるんだ……?」


 栖輪すわ美津子みつこさんと言う栖輪忍群の虚ろ目娘は、だいたい六秒間隔で指揮官蜘蛛を発見しているのだ。


「心眼でだよ」


 と、高明が言った。


「心眼って、あの心の眼で見る心眼のことか?」


「いや、それとは違うらしい。瞬間記憶術と観察力と迷宮獣のデータを組み合わせたものじゃないかと姫ねえは言ってたな。まあ、本人の能力が大きいから誰も真似できないんでな、皆"心眼"って呼んでるんだよ」


 確かにあんなもの努力でできたら世の中に才能って言葉はない。凡人は凡人らしく努力して、それで得た力で満足しているのが賢い生き方ってもんだ。


「服部と言い、栖輪と言い、忍ってのはバケモンばっかりだな。先祖に魔族の血が混ざってんじゃないか?」


 一千年前にいたとされる魔に長けた種族は、変な能力を持っていたとされているのだ。


「忍の者からしたら血も掟もない一族が忍以上の結束力と戦闘能力を志賀倉の方がバケモンだと思うがな。なにか秘訣でもあるのか?」


「強くなりたい思い。そして、努力だな」


 じいちゃんに生きる術をいろいろ学んだが、戦いは父さんだったり星華ちゃんだったりと、様々な人から学んできた。


 他の家族も似たようなものだし、これと言った訓練方法もない。ボクも焔を強くしようとは思うが、魔闘術や道具使いとしての術を教える気はない。それはボクに適した力であり、そうなろうと努力してきたものだからだ。


 どう強くなりたいかは焔が決めることであり、そうなるために力を貸すことがボクの役目である。


「それより、だ」


 と言って、周りにいるリーダーたちに目を向けた。


「今のうちに特攻隊を二組つくりたい。この中から第一特攻隊のリーダーを選びたい。志願する人?」


「おれがやる」


 まるでボクがそう言うことを知っていたかのような即答だった。


 各リーダーとボクの訝しむ視線を一身に浴びながらも高明は揺るがない。真っ直ぐボクを見返していた。


「……姉さんの指示か?」


 ボクの問いに高明は沈黙で答えたが、それがもうそうだと答えているようなもの。余程ボクに借りをつくらせたいらしいな、あのアホ姉は……。


「まったく、何枚潰したかは知らないが、このカードは志賀倉の特級秘密事項なんだぞ。そうそう他に譲れるかってんだ」


 左脚の甲に装着したアイテム・カードを外し、うちわのように振って見せた。


「ま、それで諦める姉さんじゃないか」


 番号を上に、魔法陣を下に向ける。


「ナンバー8、アンチ・マテリアル・ライフル召喚」


 魔法陣が輝き、五十口径の大型狙撃銃がストックの方から落ちてきた。


 落ちてくる速度に合わせてカードを持ち上げ、アンチ・マテリアル・ライフルを召喚。爪先で受け止め銃口をつかんだ。


「今言った通り、このカードは志賀倉の特級秘密事項だ。カードを守るためにこれでもかと言うくらい面倒な造りになっている。その一環としてほボクは製造権を放棄した。だからボクは決まった数しか支給されない」


 なにやら残念そうな顔をするリーダーたちへと視線を動かし、ニヤリと笑う。


「とは言え、譲ってはならないと言う決まりはない。このカードは手軽に使えるが、その仕組みは複雑怪奇。複製も不可能。特級魔術師や魔導師では絶対に解読はできない。なにしろ、これを造ったのは大魔導師にして伝説の魔導道具師、ラルク・ロットだからな。それでも欲しいと言うのなら譲っても、構わない───」


 皆が歓喜に染まる前に『ただし』と釘を差す。


「譲ると言ってもタダでは無理だ。このカードを一枚造るのに魔石やら希少金属やら特殊技術やらがこれでもかってくらい使われている。それを造る工房にも百六十億も注ぎ込んである。いくら家族のためとは言え役員会は納得しない。それでなくても"マジック・カード計画"はコスト高で限界使用回数が四十五回ときている。封印に一回。召喚に一回ってな。はっきり言って使い捨てだ。それでもいいと言うのなら、一枚八十五万。譲れる枚数は七十四枚。それが今のボクにできる最大限の譲歩。どう──」


「──買うっ!」


「買ったぁー!」


「頂くわっ!」


「買わしてください!」


「買う買う、ぜひとも買わしてくれ!」


 高明を抜かす全員(栖輪さんもなぜかいた)がボクへと迫ってきた。


 色めき立つ皆を押し静め、なにも言わない高明を見る。


「高明には、と言うか、姫騎士団には中コンテナが封印できるサバイバル・カードを四枚に好きなアイテム・カード五枚を優先して回す。その代わりこん大会は武田組──星華ちゃんと焔をモデルにしたいと言うバカどもを排除することに専念して欲しい。成功した暁には更にアイテム・カードかサバイバル・カードを五枚譲る」


 そう高明に言い、栖輪さんを見る。


「栖輪忍群には小コンテナが封印できるサバイバル・カードを三枚。同じく好きなアイテム・カードを五枚渡す。ただし、野村静香さんと戸沢海璃ちゃんを大会が終わるまで守って欲しい。それこそその身を犠牲にしてもだ。そして、約束を果たしてくれたのなら更にアイテム・カードかサバイバル・カードを三枚渡す。どうかな?」


 高明と栖輪さんに問うた。


「守る守るっ! レベルが0になろうとも守って見せるわ!」


 瞳をキラキラさせながらガッツポーズをとる栖輪さん。


「ぐふふ。補給さえしっかりしていればレベルなんて直ぐに稼げるわ。見てなさい。栖輪忍群の強さをっ!」


 なにやら脳内で都合のよい夢を見る栖輪さんから無表情──と思っているのは高明本人だけ。額の汗が苦悩していることを証明していた。


 ……姉さんの言葉が強すぎるのか、ボクの譲歩に決断できないでねかな……?


「姉さんのことなら心配するな。あとでボクが話をつける。お前に責任が行くようなことはしない。だからお前は条件を飲め」


 ボクの言葉に安心したかはわからないが、深いため息のあと表情が引き締まった。


「……わかった。姫騎士団の名に賭けて柳生と蜂蜜姫を狙う者を排除する」


 ボクはうんと笑顔で頷いた。

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