表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/40

22 志賀倉の無節操

 お昼のチャイムが鳴り、昼食を取りにきた生徒がちらほらとやってきた。


 テーブルの上に出した雑誌やパソコンを片付け、手作り弁当出していると、先週約束した──って、そう言えば自己紹介してなかったな。


「ごめん。待った?」


 今更名前を聞ける空気ではないので、とりあえず笑顔で誤魔化した。


「ううん。午前中はずっとここにいたからね、待っていた感覚なんてないよ」


「そ、そうなんだ。え、えーと、これ、約束のものだよ」


 なにやら戸惑いながらもアタッシュ・ケースを差し出した。


 ありがとうと受け取り、テーブルに置いて開いた。


 中には大型拳銃大のSFちっくな魔導銃と各種パーツが収納されていた。


「名は刹那せつな。お父さんが作った中でも最高の魔導銃だよ。最高級の魔石を使うなら千発は余裕で撃てるわ。附属のパーツを組み合わせれば魔力剣にもなるしサブ・マシンガンにもなるわ」


 アタッシュ・ケースから刹那を取り出して感触を確かめる。


「……なにか意思と言うか息吹きと言うか、不思議な力が伝わってくるんだけど、君のお父さんって魔導師か人間国宝かなにかなの……?」


 なにやら星華ちゃんが持っている魔剣を手にしたときのような感じに似ているぞ。


「そんな大袈裟だよ。至って普通……ううん。もう極度の魔導銃バカ。最高の魔導銃を作るためなら労力もお金も惜しまない。なにより売ることを全然考えない。お陰で最高過ぎて誰も魔導銃扱えなければ高額過ぎて誰も買えない。ほんと、迷惑なおやじなんだから!」


 自慢の父親を褒められてまんざらじゃない顔をしながらも文句をたれるなんとかさん。フフ。この娘、かなりのファザコンだな。


「だからこそ持ち手はそれに応えなければならない。真の持ち手になるために。生涯の友に恥じぬように。なにより、作り手の誇りを汚さぬために」


 父さんが言っていた。我が魂と誇りを宿せる武器に出会えるのは奇蹟に近い。もし、奇蹟的に出会えたのならその幸運に感謝し、最高の喜びを贈れと。


「刹那。まだボクにはお前を持つ資格がない。だが、必ずお前に恥じぬ持ち手になる。だからそれまで待っていてくれ、生涯の友よ」


 生涯の友をアタッシュ・ケースに戻し、出会わせてくれた人へと向いた。


「君にも誓う。刹那に相応しい持ち手になると」


 今日からこの手に馴染むように心掛けるよ。


「……志賀倉くんは──」


 と、なにかを言い掛けて言葉を飲み込んでしまった。


「──ううん! なんでもないっ! あ、えっと、あ、あたし、友達と約束してるから行くね。刹那のことでわからないことがあったら購買部にきてね。いつもじゃないけど、だいたいはそこにいるからさ!」


「うん、ありがとうね」


 慌てて去って行くなんとかさんの背に感謝の言葉を贈った。


 さてと。気持ちを切り替えて昼食にしようかと弁当の包みを開いていると、向かいの席に誰かが座った。


 なに? と顔を上げると、なにやら嘆息する星華ちゃんだった。


「……なんなの、きて早々……」


「志賀倉の無節操ぷりに呆れてるんだよ」


 無節操? なに言ってるの?


「忍相手に無節操しようが鬼畜なろうが構わないけど、一般の娘相手に無節操は止めなよ。可哀想じゃないか」


「……え、えーと、ボク、誠心誠意で対応しましたが……」


 あんないい娘に酷いことしたら人間失格だよ。


「それが無節操だって言ってるの。ただでさえ志賀倉の接し方は人を魅了するのに、あんな心に訴えるような言い方したらなんの訓練もしていない女の子なら一発で恋しちゃうだろうが。相原あいはらさん、まーちゃんに興味を持っちゃったよ……」


 ほぉう。相原さんって言うのか。あとで調べておかなくちゃ。


「まったく、女の中で育ったくせに女心がわかんないんだから、まーちゃんは。泣かすこっちの身にもなれよな」


 なにやら注意と言うよりは言いがかりを付けられているような気がするんですけど……。


「……まだ、ご機嫌は直りませんでしょうか……?」


「直りません」


 きっぱりと言い切り、ボクの弁当に手を伸ばしてパクつき始めた。


 迷宮に誘わなかったボクが百パー悪いので、低頭で弁当を差し出し、紙コップを出して紅茶を注いでそっと付け置いた。


 長い付き合いなので星華ちゃんが本気で怒っているかどうかぐらいわかるし、怒らせたのなら素直に謝れば許してもらえる仲である。んだが、今回は怒らせるより仲間外れにして拗ねらしてしまったのが不味かった。


 こうして同じ学校に通えるようになったとは言え、科が違うのでなかなか時間が合わない。特殊技能科と違って戦術科は国防のなら要を育てるところであり、忍や武家の一族子弟が集まるところでもあるため、勉強する科目が多いのだ。なのでちょっとの油断が一族の明暗を分け、一族の名を貶める、そーだ。


 ボクには無関係で他人事だが、没落寸前の星華ちゃんにしたら死活問題。ここで名を挙げ、盛り立てなければ明日の柳生はない。人一倍、いや、二倍も三倍も頑張らなければならない。


 そんな勉強に修行に明け暮れる星華ちゃんと過ごせるのは朝の登校と迷宮に入れる金土日くらい。そんな現状を知りながら誘わなかったのだから謝罪の言葉も出ない。もう星華ちゃんの気が済むようにしてくださいである。


 とは言うもののぶつぶつ文句を言ったり罵倒する星華ちゃんではない。不機嫌そうにしていてもこうして時間をつくって会いにきてくれる。ほんと、こんな幼なじみがいるボクは幸せ者だよ。


「……なんなのさ、にやけたりして。ぼくは怒ってるんだからな!」


 おっと。いかんいかん、反省中だった。


 慌てて反省の顔をするが、こうして星華ちゃんの顔を見てると、どうにもこうにも顔がにやけてしまう。


「……そうやってなんでもかんでも笑顔で解決させようとするから卑怯だよ」


 そう文句を言いながらも星華ちゃんの顔から不機嫌が消えて行く。


「フフ。笑顔で解決でき──」


「──黙れ、卑怯者が!」


 持っていたおにぎりを口の中に突っ込まされてしまった。


 そんなことでボクの笑顔は消えることはない。それどころかそんな可愛いことをする星華ちゃんが愛らしく、益々笑顔になってしまった。


 いつも星華ちゃんと会うときはだいたい修行だ。こんな悪ふざけやじゃれ合いなどまったくないとは言えないが、二人っきりでやるのは久しぶりだ。ましてや学校でなどこれが初めて。浮かれるのも当然。笑顔になるなと言う方が悪いぞ。


「それで、明後日はどうしるの?」


 笑顔を無理矢理消し、憮然と聞いてきた。


「出る、と言うよりは出ざるをえなくなった」


「だね。鈴子ねーちゃん、散々春の大会は不要だと言ってたのに、今は誰よりも進んで大会の準備をしてるって話だし」


 あの腐女子が趣味以外で張り切るなどこの世の終わりとしか思えんな……。


「対策は?」


「ん~。いつもの通り、出たとこ勝負かな?」


 昨日の迷宮入りでせっかく貯めた弾を一万発以上消費してしまったが、火器以外にも道具はある───と言うか、もはや道具収集家と断言しても言いくらい道具を持っている。余程の不測でもない限り負けはしないだろう。


「出たとこ勝負ね。こんな悪魔のような男を相手にしようって言うんだから鈴子ねーちゃんも本気になるわな」


「あんな腐女子と一緒にしないでくれるかな……」


 悪戯っ子のように笑う星華ちゃんに憮然と抗議した。


 母親と同一視されるのも吐き気がするが、鈴子姉さんと同一視されるのも吐き気がするぞ!


「ウフフ。明後日が楽しみだよ。久しぶりにまーちゃんと暴れられる」


 星華ちゃんの信奉者には見せられないほど鋭利な笑みを浮かべた。


「……やれやれ。人斬りの血のなんて怖いことか……」


「ふふ。そーだぞ。人斬りの血は怖いんだぞっ」


 優しい笑顔の裏にある強靭(狂人)な魂に呆れてしまう。


 これまで志賀倉に触れていればどんな悪党でも志賀倉に飲み込まれてしまうのに、いつも最後の一線で我を取り戻し、固い信念と柳生の誇りで踏み止まる。まったく、どうすれば人斬りの血を飲み込むことができるんだろうな……。


「さて。そろそろ午後の準備をしないと。ごちそうさま。美味しかったよ」


「どういたしまして」


 いつもの優しい笑顔で立ち上がった星華ちゃんに、ボクも優しい笑顔で見送った。


 休憩室を出て行くまで見送り、もう戻ってこないだろうと思うまでドアを見続けてから意識を魔法瓶へと向け、マグカップに紅茶を注いだ。


「さてと。優雅な午後でも始めるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ