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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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21/40

21 相棒

「随分と優雅な一時を送ってますこと」


 週の始まり月曜日。今日も今日とて自由時間。なのでホームルームが終わったら月堂苑横の休憩室にやってきてティータイムをしていると、野村さんがやってきた。


 返事をするのも億劫なのでカップを掲げてその皮肉を受け流した。


「まったく、こっちは勉強にレベル上げに大変だって言うのに」


「屈したくないのなら抵抗すればいい。我慢できるのなら大人しくしていればいい。どちらを選ぶのも本人次第。ボクの責任じゃないよ」


「……淡白ね。もうちょっとフランクに言い返せないの?」


「只今疲労度五十五パーセント。とても会話を楽しむ余裕はありません」


 だから話し掛けるなと態度に出したのだが、それを快く受け入れる優しさなんてあったら忍失格。ボクの拒絶をあっさり無視して向かいの席に座ってしまった。


 ……まったく、あなたは忍の鏡だよ……。


「ねえねえ、迷宮に入ったんだって? どこまで下りたの?」


 ボクの非難の目などお構いなし。満面の笑みを浮かべていた。


「地下六階」


 うるさいので答えてやった。


「──はぁ!? 地下六階ですって?! 本当なの?!」


 ボクが読んでいた雑誌をつかんで放り投げ、バンと両手でテーブルを叩いた。


 ……もうちょっと感情制御を教えた方がいいんじゃないか、木陰よ……。


「本当だよ。証拠はないけど」


「じゃ、じゃあ、レベルは幾つよ?」


 なんぼだっけと胸ポケットに入れていた戦闘記録カードを出し──たら奪われてしまった。


「レベル8ですって!? どうすればこんなふざけた数字が出てくるのよっ?! なんで地下六階に行けるのよっ?! 納得が行く説明を要求するわっ!」


 鈴子姉さんから渡された皮手帳に地下六階までの地図が記されていたから、とは言えない。言えば多分、鈴子姉さんの立場が悪くなる。そして、ボクの立場はもっと悪くなるはずだ。ここは聞かれるまで黙っているのが吉である。


「たんに運が悪かっただけだろう」


「なにが運が悪いのよ! これってないくらい運がいいじゃないのよ! 凡人がレベル1上げるのにどれだけ苦労してるかわかる? レベル3からレベル4になるのに二十回は入ってやっと上がったんだからねっ!」


「別に留年したからって三年すれば自動的に上がるんだから無理することないじゃない」


「そんなことしたら三十過ぎちゃうわよ!」


「授業料は国持ち。卒業したって国が面倒見てくれる。暮らしに困っている人にしたら羨ましい人生だよ」


 まあ、ボクは暮らしに困ってないので羨ましくないけどね。


「──っ! ……はぁ~」


 なにやら心の中で止めてくれるなにかがあったらしく、ため息を吐きながら椅子に腰を下ろした。


「……本当にどう言うことなの……?」


「どうもこうも運が悪かっただけ。それ以外になにもないよ」


「じゃあ、どう運が悪かったのよ?」


「地下二階でどこかのチームが付けた目印があったからそれに従って進んだら四時間半で地下四階まで行けた。そこで止めておけばよかったんだけど、二時間ちょっと地下五階へ下りる階段を発見してしまった。見つけた以上、下りなきゃ損とばかりに進むと、それが罠だったらしく、着いたとたんに床がぱっくり。強制的に地下六階に落とされたよ。まあ、咄嗟に焔の風龍を出してくれたから怪我なく下りられたけど……」


 そのときの光景が蘇り、全身に鳥肌が立った。


 ったく、あの冷蔵子め。そこまでの道順を描くならなにがいるかも書けよ。あれは人生最高の鳥肌だったぞ。


「……けど、なによ?」


「けど、そこには数千匹もの巨大蜘蛛が犇めく階だったよ……」


 大型犬ほどの蜘蛛が三百六十度全て犇めく光景ってのは、なかなか壮絶なもんだったよ。


「とにもかくにも撃って撃って撃ちまくって、手榴弾に焼夷弾をばら蒔いて、なんとか通路に出たもののそこから抜け出すには落とされたところしか戻れない造りになっていた。お陰で虎の子の一つを出すはめになったよ」


 それ以上に悔いるのは、説明会での話を理解してなかったことだ。


「矢吹さんのアホたれが! ああなることを知ってたら言えよ。一万発も撃っちゃったじゃないか!」


 登録した武器は迷宮で落としても返ってくるって言うから固定式ファランクスを出したのに、戻ってきたのは撃ったあとのゴミ屑ばかり。んなもん戻ってきても使い物にならんて言うの! 


 迷宮獣を倒して六百万円ほど賞金が出たが、使用した弾や爆弾の合計金額はその六倍。青ざめるくらいの出費である。


「明日の大会、サボろうかな~」


 弾を失ったことが思いの外ショック過ぎて体力回復に専念できないよ。


「それは止めた方がいいよ。なにしろ今回の大会は雪姫先輩が仕切ってるって話だからさ」


「……そ、それは、最悪としか言いようがないな……」


 胃がキリキリしてきたよ。


「ええ。一学年の皆は戦々恐々。流れてくる情報では今回の大会は梅学史上、歴史に残る大会にするって息巻いていたらしいわ。しかも、サボった者には人生でもっと思い出したくない罰を与えるって話だし」


 あの腐女子の考えた罰ならそうなって当然だろう。いや、むしろ殺してくれと言いかねない罰になることだろうよ……。


「どっちを選んでも最悪か……」


「それを聞いた武田組や紅薔薇団なんて臨戦態勢を敷くし、強い人らは連合組んじゃうし、あたしみたいなレベルが低い者は真っ先に狩られちゃうわ」


「木陰ならどこにでも入れるんじゃないの?」


 戦闘能力は二十四忍群中最下位だが、情報収集能力は二十四忍群中最上位。どこでも特別待遇で受け入れられるでしょう。


「……入れるなら苦労しないわ……」


 なにやら苦いものを吐き出すように言う野村さん。どーゆーこと?


「情報収集が得意な木陰を中にいれるなんて情報漏洩してくれって言ってるようなもの。例え下忍でも木陰を入れようとはしないわ」


 なんとも殺伐とした話だな。忍の家系に生まれ──いや、生まれたけど、志賀倉に引き取られて助かったよ。それだけは母上様に感謝だな。


「なら、ボクと組まない?」


「えっ!? ど、どう言うこと?」


 戸惑いの目を見せる野村さん。


「まあ、嫌なら断ってくれていいよ。ボクと組んでも美味しいことはないしね」


 それどころか不都合なことばかりかもしれない。なんせ、あのクソ野郎とは敵対関係なんだからな。


「それこそあたしと組んでも美味しいことなんてないよ。これと言った武器は使えないし、魔術も初級だし、なにより上から命令されたら志賀倉のことしゃべっちゃうよ」


 木を隠すなら森の中。真実を隠すなら真実の中。本当に隠したいことはより多くの真実の中に隠せばいい。うちは誠心誠意が武器。親切信頼が防具。世の中の悪意に対抗する最強の武具はそれである。


「……あたしが言うのもなんだけど、人がいいのにもほどがあるんじゃないの……」


「それこそボク言うのもなんだけど、うちは引き込むのが得意な一族だよ。もし、ボクを利用したいのなら常に疑心と悪意を抱いていた方がいい。じゃないとボクが野村さんの心を奪うよ」


 ボクは男だからそれほど巧くはないが、志賀倉の女性は男の心を射止める術は尋常じゃない。ウブな男なら一秒で落ちるだろう。敵だったおじさんが一日で美尋おばさんに落とされたんだからな……。


「なーんてね。そんな警戒しなくても大丈夫だよ」


「女の子を利用するのはボクの趣味じゃないし、今回は生き残るための共闘。大会が終われば今まで通り──って、まあ、それほど深い関係になってる訳じゃないけど、会えばおしゃべりする仲に戻ればいいさ」


 どうかなと言った感じの眼差しを送る。


「……う、うん。そう言うことならいいけどさ……」


 うんと頷き、食糧バックから紙コップを取り出し、魔法瓶に入れた紅茶を注いで野村さんに渡した。


「よろしく、相棒さん」

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