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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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20 いざ、迷宮へ

「……これが迷宮への入口か。なんともごっいな……」


 高さ五メートル。幅八メートル。左右に開閉する重厚な金属の扉にはナンバー3と刻まれていた。


 なにやら秘密基地っぽくて心踊るものがあるのだが、ちょっと右に視線をずらすと丸太小屋と売店が雰囲気を台無しにしていた。


 ……なぜに売店がある……?


 観光地にありそうな売店には軽く食事できそうなフードコーナーがあり、多用な自販機が並んでいた。


 ま、まあ、二十四時間体制の食堂がある学校だし、深く考えるのは止めておこう。


 とりあえず説明会で言われた通りに丸太小屋──受付所に向かった。


「いらっしゃい」


 受付所に入ると、カウンターに五十前後のおばちゃんがいた。


「あ、あの、扉閉まってますが、入れますか?」


「ええ、大丈夫よ。じゃあ、これに名前と科を記入して。あと、カードね」


 と、言うので胸に付けた学生証兼戦闘記録カードを外しておばちゃんに渡した。


 この高度な魔導具は、死に至る怪我や精神崩壊になるような衝撃を受けると、強制的に迷宮の外に転移させる機能があったり、迷宮獣を倒して得た賞金を換金できるキャッシュカードだったりするのだ。


「二人で入るのかい?」


 記入した用紙を見ておばちゃんが訝しんだ。


「なにか不味いんですか?」


「いや、不味いと言うか、あんたらレベル0で迷宮初挑戦なんだろう? しかも君は精霊獣を宿して魔力0とか。まあ、道具使いとしては優秀とは聞いているけど、この迷宮はそんなに甘くないよ。入るならどこかに属するかあと三人は集めた方がいいと思うよ」


「五人、ですか? なにか意味があるんですか?」


「話は聞いているとは思うけど、この迷宮は四十五日過ぎると配置が変わる。そうすると地下へと下りる場所も変わりまた最初からやり直さなければならない。まあ、地下三階までならそう難しくないし、小等部の子でも半日で行けるから最低限の装備で行けるよ。けど、レベルを上げようとしたら地下四階からになり、探索範囲が急激に広がり、迷宮獣の出現率もが高くなる。下りれば下りるほど難易度は高くなり、装備も増えてくる。せっかくレベルを上げたのに食糧はなくなり、体は疲弊して戦うことも戻るけともできなくなる。で、強制転移でレベルや賞金は0になる。そんな失敗と挫折を繰り返した結果、調査組、拠点組、輸送組、戦闘組、と言うものができた訳よ」


「……なるほど。数は力とはよく言ったものだな……」


「さすが特殊技能科の子は言うことが違うね。まあ、そんな訳だから無茶はしないこと。自分の実力を知るのも勉強だからね」


 そんな有難い忠告を胸に仕舞い、開く扉へと向かった。


 ……って言うか、なぜにそんなに頑丈使用になっているんだ、この迷宮の扉は……?


 中はコンクリートで造られていて、ちょっと昔のトンネルのような雰囲気を醸し出していた。


 ……秘密基地と言うよりは防空壕って感じだな……。


「そう言えば、地下一階に入ったって言ってくれるたが、一人で入ったのか?」


「いえ、中等部でも高等部でも毎年春に行われる大会は地下一階の大闘技場か大回廊で開催されるんです」


「ああ、朝のホームルームのとき言ってたな。その大会ってなにやるんだ?」


 各学年ごとにやるらしいが、マラソンでもやるのか?


「それが春の大会行事は生徒会が主催なので、なにをやるかは当日になるまでわからないのです。ちなみに去年の一学年の大会は、三時間、魔術使用禁止の生き残り戦でした」


 ……なるほど。道理で梅学の話を聞かない訳だよ。こんな人権無視が外に漏れたら日本帝国は世界から総すかんを食らうぞ……。


「最期まで立ってた奴が優勝なのか?」


「基本的にはそうですが、実質、集団戦になります。姫騎士団や武田組、紅薔薇団と言った集団に属する者が固まり、弱い者から狩って行きます。あらかた狩り尽くしたら守りに入り時間切れを狙うんです」


「その大会に棄権とかできるのか?」


「はい。レベル0の方や低い方は最初から参加する気はありませんから開始と同時に棄権して外に出ます。参加すれば単位はもらえますから


「それじゃ大会にならないだろう」


「はい。それぞれの一族も最後まで生き残った実績が目的だから無理はしません。無理したところで賞品は好きな施設を一年間自由にできると言うものです。知っての通り梅学には施設が沢山あります。三十人以上で合計レベルが百以上であれば高い一族から使用できます。無理して戦っても得られるのは自己満足。下手をすれば多方面から攻め立てられる恐れがあります。余程の自信家か追い込まれなければ戦おうとは思えません」


「そんな大会止めたらいいじゃないか。学校はなに考えてんだ?」


「そう言う声も上がってはいるのですが、なぜか大会がなくなることはありません。生徒会長が何度も廃止を訴えているんですが、学校側は伝統だからと受付ないんです」


 まっ、続けてなんぼの伝統である。そうそう止められないのだろう。それに付き合わされる生徒はたまらないがな。


「施設を利用できるのは魅力だが、何十人も相手できる兵力もなければ力もない。弱者は弱者なりにがんばればいいさ。そう言う大会なら早々に棄権させてもらおじゃないか」


 銃の練習なら地下一階でバンバン撃てるし、バイクの練習なら公道を走ればいい。こっちはなにもレベルアップやら進級が命題ではない。星華ちゃんや焔を支えるのが命題である。自分の弱さに崩れたとき、立ち上がるまで時間を稼ぐのが幼なじみとして、兄としての役目である。


「さて、行くとするか」


 肩に掛けていたアサルト・カービンの安全装置を解除。レバーを引いて銃口を迷宮に向けた。


 遅れて焔もサブ・マサンガンの安全装置を解除。レバーを引いて銃口を迷宮に向けたが、銃口が微かに揺れていた。


「緊張するのは当然。怖じ気付くのも当然。戦場に正義も悪もない。生き残った者が勝者。それが戦い。それが弱肉強食。それが世界のルールだ」


「……はい……」


「ってな。そんな弱者の言い訳などクソ食らえだ!」


 ボクは大声を出した。


「真の強者はそんなことは言わない。己の意志と責任で行動し、決して後悔はしない。どんな悲劇に見舞われようと人を愛することは止めず、生を愛おしみ、死を敬う者こそ真の強者だ」


 こちらを見る焔に優しく微笑んでやる。


「いいか焔。人なら、いや、人として生まれたのなら意志を持て。誇りを持て。正義だ悪だなど繊細な生き方に縛られるな。弱肉強食などに縛られるな。そんなものはドブに捨ててしまえ。もし、負けそうになったらボクを見ろ。あらゆる手段を用いてボクが支えてやる。大丈夫だと笑ってやる。この笑顔が無敵なのを教えてやる!」


「はい、兄様!」


 笑顔で応える焔。


「よし行くぞ!」


「はい!」


 胸に付けた戦闘記録カードのレベル表示は0だが、心のレベルは99。魔王だろうが邪神だろうがなんぼのもんじゃい。ボクたちが幸せになるための礎としてくれるわっ!




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