17 購買部でバイトする魔銃士
ちょっと一休みするか。
パソコンの電源を切り、大きく伸びをした。
コキコキと首をほぐしながら辺りへと目を向けた。
高等部にある月堂苑の横にある休憩室(それとも談話室か?、ここは)にいるのはボクだけ。閑散としていた。
選択科目が少ないため、梅学生活二日目はほぼ、と言うか、ホームルームが終わってから自由時間であった。
他の科の生徒は一般高校と同じで一般科目があり午前は普通に教室で勉強だ。午後にならないと月堂苑やココにはこないだろう。まあ、混んだら混んだでうっとおしいんだが、ある程度人がいないとなんだか監禁されてる気分で落ち着かないよな。
特殊技能科の館にあるサロンとか自由勉強している子とかいたんだが、どう言う訳かあの館、ガスは通っているのに電気が通っていないのだよ。
まったく、ガス灯にガス暖炉ってなに時代だよ。意味わからんわっ!
「……そのうち姉さんに言って電気通してもらうか……」
あのアホ姉に頭を下げるのは癪だが、電気がないとパソコンや電気製品が起動できない。ボクの道具使いとしての能力が三割も低下してしまうのだよ。
ぐぅ~と、腹の虫が鳴いた。
朝食を食べて四時間。途中、お菓子やら栄養補助食品をつまんだが、午前の栄養消費率が高いので直ぐにお腹が空くのだ。
パソコンに『触るな危険』の札を貼り、改造トランクには『死にたくなければ触るな』の札を貼ってから席を立って隣の月堂苑へと向かった。
「……ん? 意外と混んでるじゃないか」
防音性に優れた休憩室(談話室)だったらしく、二百人は入れる月堂苑には、四、五十人ほどの生徒が食事をしていた。
皮の鎧を着た奴、学生服をカスタムした奴、迷彩服を着た奴、忍服を着た奴、ドアを潜ったら異世界だった──って冗談言いたくなるくらい現代日本とは思えないシュールな光景だった。
……さすが地下迷宮がある学校だ。いろいろ飛び抜けてるな……。
表情や姿からして迷宮に入る前の腹ごしらえってトコかな?
集団と集団との間に距離があるところを見ると、それぞれ違う集団のようだな。まあ、装備に統一感がないんでなんの集団かはわからんがな。
腹は減ってはいるが、なんだかコスプレ会場に迷い混んだ感じがして落ち着かないな……。
ぐぅ~と、また腹の虫が鳴いた。
「購買部でなんか買うか」
月堂苑の前にある購買部──と、言っていいのかわからんが、梅学の購買部ってのはちょっとしたホームセンターくらいの広さがあった。
ノートやシャーペンと言った文房具は当然として、奥には加工食品や武具類やらが混沌のように積み重なり、レジ横には初めて見る魔道具や帝国正式採用されている銃が展示され、壁には多種多様な刀剣類がぶら下がっていた。中には誰が使うんだと問い質したいくらいの戦斧まであった。
……なんだろうな。ファンタジーの意味がわからなくなってくるところだな、ここは……。
「──あ、いらっしゃい」
と、レジ奥のバックルームからメガネとエプロンを掛けた女の子が出てきた。
赤いスカーフからしてこの娘も一年生か。襟元のバッチは一般普通科か。
「ごめんね、気が付かなくて。なにか探しもの?」
「あ、いや、食べるものを買いにきたんだけど、売り切れ?」
ゴンビニにある惣菜棚のようなところにはなにも陳列されていなかった。
「あ、ちょっと待ってて。今出すから」
バックルームへと戻り、直ぐに菓子パンが詰まった箱を七段も積んだ台車を押してきた。
「凄い量だね」
コンビニどころかスーパー並の量である。
「まーね。ここの皆はよく食べるから一日三回は入れないと間に合わないんだ。あ、おにぎりやお弁当もあるから」
またバックルームへと戻り、菓子パン以上の量を出してきた。
「好きなのがあったら適当に取ってね」
そう言うと、なんとも手慣れた感じで陳列して行った。
スピーディーで的確な品出しを見ながら菓子パンやおにぎりを選び取り、冷蔵庫棚からお茶や牛乳コーヒーを、レジ横にあるお菓子を適当に選んでレジ台に置いた。
「千四百四十円ね」
それが品物の値段と言うことに気が付くのに三秒ほど掛かった。
「……暗算何級なの……?」
「何級も持ってないよ。ただ、小等部からやってるから速いだけだよ」
へーと言いながらお金を払った。
「他に人がいないけど、一人でやってるの?」
「ううん。通常は三人体制だよ。職員の人は法事で休みでもう一人は授業で外してるだけだよ」
「三人でも大変じゃないの、この品数では?」
「本当に大変なときはあたしらバイト部隊に応援要請が入るし、小等部からやってるから大変じゃないわ」
「登録課の人らはここの卒業生って聞いたけど、やっぱり購買部の職員もここの卒業生なの?」
「そーだよ」
「ここの卒業生じゃないと就職できない決まりでもあるの?」
「別に決まりがある訳じゃないけど、でも、卒業生が優先かな? ここって外に出せない秘密がいっぱいあるでしょう。外の人を雇おうとしたらその人の身元調査やら試験をやったりと手間も時間も掛かるから梅学の職員になりたい人から埋めて行くんだ」
そんなに給料はよくないみたいだけどね~と、またバックルームへと戻って行った。
ウエストポーチからエコバックを取り出して品を詰めてると、レジ台に置いてあった伝票が視界に入った。
「……銃弾の伝票……」
あ、そう言えば矢吹さんが銃弾は購買部に注文しろと言ってたな。
あらためて銃を展示するケースを覗いて見た。
「…………」
いかんな。目が霞んでるのか値段がよく見えないや。
ゴシゴシと目を擦ってもう一度確認する──が、やはり見間違いではなく、あり得ない値段で売られていた。
これだけ安いのかと他のも見ればやはりあり得ない値段で売られていた。
………新品の十六式自動拳銃が五千九百円ってなんだよ。どこぞの闇市より安いじゃねーかよ……。
しかも、弾丸一発が五十円とかあり得ねーよ! ナメてるよ! 価格破壊にもほどがあるぞ、梅学っ!
「ん?」
ケースの端までくると、今度はやたらと高額な銃が展示されていた。
……見たことがないが、なにやらSFちっくな銃だな……?
「あ、それ魔導銃だよ」
不思議そうに見ていたボクに気が付いたようで、そう教えてくれた。
「魔導銃? これが?」
ボクが見てきた中にはないタイプである。
「それは術式弾使用型だけどね」
「他にもあるの?」
「うん、あるよ。魔石を使用して魔弾を撃つものや術を放つものが。と、言っても今ここにあるのはそれだけだけどね」
「どうして?」
「高価だからだよ。まあ、魔導銃もピンキリだけど、それなりの威力と性能を求めたら四千万は掛かるわね。ちなみにその魔導銃は五千万円ね。で、術式弾は一発二万円よ。そんなコスト高な武器を使うくらいなら通常の銃を使った方が経済的だし、魔術攻撃の方が使い勝手がいいわ。まあ 、携帯武器として登録してるのはあたしくらいかしらね」
と、エプロンの下から手のひらサイズの魔導銃を取り出した。
「そんな小さい魔導銃もあるんだ」
「うん。自分の魔力を弾丸とする魔導銃は小型化できるんだ。まあ、護身用ってとこね。主戦闘の際には魔石使用のエンゼントル・ジェーガー──アサルト・ライフルタイプのや拳銃タイプのを装備するけどね。他にもサブ・マシンガンタイプや狙撃銃ってのもあるんだよ。もっとも魔石が高額な上に消費量も高いから長期戦には不向きだけ──あ、ごめんね。変な方向に話がズレちゃって」
「……いや、凄くいい話を聞かせてもらったよ。エンゼントル・ジェーガーなんて言葉が聞けるとは夢にも思わなかったし、それを使う"銃魔士"がここにいるなんて、感動のあまり失神しそうだよ」
暗黒期前、エンゼルト大帝国第三騎士団を祖とし、世界戦国時代ではアルド十字兵団、世界大戦では英国銃騎士と呼ばれ、世界から魔が消失しても最強の騎士として名を轟かせていた。しかし、大戦で魔を持つ者が多く死に、魔導は科学技術に、魔導銃は火薬式銃に、銃騎士は銃兵ににとあがらい切れない物量と言う波に飲み込まれ、最近では歴史の教科書でも載らなくなった。
……それが目の前に現れてくれるなんて、エンゼルト大帝国好きには感涙ものだよ……。
「そ、そんな、魔銃士なんて呼べるほど立派なものじゃないよ! あたしの腕なんでお父さんに遠く及ばないし、レベルもたった4だもん、全然だよ」
「それでも銃魔士の証したるエンゼントル・ジェーガーを持つなら立派な銃魔士。腕うんぬん、レベルうんぬんじゃない。エンゼントル・ジェーガーを受け継いだと言う誇りがあるかどうかだ。違う?」
「う、ううん。そう、だよ」
「なら、君は立派な銃魔士だ。誰が認めなくともボクは君を銃魔士と認める」
暗黒期で消えた技の多いこと。それがこうして受け継がれている。それのなんて価値があることやら。この価値をわからない奴は幼護園からやり直せだ。
「……へへ。そんなこと言われたの初めてだよ。なんか嬉しいや……」
恥ずかしそうに、でも誇らしそうに微笑んだ。
「ところで、魔石使用の魔導銃って頼めば買えるの?」
「え、うん。買えるけど、受注生産だから結構時間は掛かるよ」
「そっか、時間が掛かるのか……」
別に取り急ぎ必要と言う訳ではないが、時間が掛かるとなると購買意欲が湧いてこないな。
「どうしても欲しいなら譲ろうか? うちのお父さん、銃技師でもあったからいくつか魔導銃があるんだ」
「ぜひ! って、高額だったんだっけ……」
さすがに母親のサイフで買える値段ではないな。
「いいよ、タダで」
どこのサイフから出すか悩んでいると、あっさりした声が返ってきた。
「タダって、高額なんでしょう?」
「銃魔士を知っていて、認めてくれる人からお金なんてもらえないよ。それに、魔導銃を使ってくれる人──って、あれ? 志賀倉くん、魔力がないんじゃなかったっけ? 魔石使用タイプでもいくばくかの魔力が必要だよ」
「え、なぜボクの名を?」
魔力は高そうだが、権力闘争に明け暮れる気配ではない。一般人の娘がなぜにボクを知っているんだ?
「なに言ってるのよ。この梅学で志賀倉を知らない生徒なんて一人もいないよ。噂にうといあたしでも合格した次の日には耳にしたよ」
「……そんなに速く情報が行き渡るの……?」
「そりゃそうだよ。木陰だけが情報通なワケじゃないわ。どの一族一派でも情報収集班がいて、いろんなところに目や耳を飛ばしてるよ」
……お、恐るべし梅学。ちょっとナメてたよ……。
と、なるとだ。いつまでも隠し通せることはできないな。ましてやあのアホ姉はボクの秘密に薄々は感ずいてる節がある。なにか対策案を考えないとマズな……。
魔導銃を来週受け取ることを約束して休憩室(談話室)へと戻り、置いてある荷物を片付けて教室(館)に撤収した。




