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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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15/40

15 神様に願いを

 予想通り、お泊まり会は大宴会と化した。


 嵐先生がくるまでは藤乃おばさんの手伝いをしながら昔話や梅学での話をしながら和気あいあいとしていたのだが、一人増え、二人増えと、母さん一派が集まるにつれ、酒と料理の消費量も増え行った。


 まあ、あの酔っぱらいの中で見世物パンダになるくらいなら専属料理人をやっている方がマシと言うものだ。


 作っては出し、片付けては作りを繰り返し。ボクはいったいなにしにきたんだとわからなくなった頃、死屍累々と言った感じで母さん一派が酔い潰れた。


「……やっと終わってくれたか……」


 酔い潰れた大人たちを避けながら皿や空瓶を下げ、作り残った料理を皿に集め、明日に残せないものを残せるように作り変え、缶は缶。瓶は瓶に分別し、最後に布巾を浸け置きにした。


「まるで美尋ちゃんみたいね」


 一緒に片付けていた藤乃おばさんが感嘆と呟いた。


「そりゃまあ、美尋おばさんを見て育ってきましたからね」


 あの母親を見て育ってたらと思うと吐き気がしてくるよ……。


「美姫ちゃんだってちゃんと正光くんを育てていたわよ」


 そんなボクの心情を知ってか知らずか、酔い潰れている母親をホローしてきた。


「……余り、育ててもらった記憶がないんですがね……」


 ない方が幸せに思えるのは気のせいだろうか?


「にしても、なんであんなダメ母親があんなに慕われるんです? どの人も重要なポストにいるような人たちばかりじゃないですか」


 軍服を着た人、弁護士バッチを付けた人、ブランドもののスーツを着た人、拳銃を持った人、いろいろ。共通すると言ったら母さんとの再会に心から喜んでいるってくらい。たぶん、人一倍"お願い"された人たちなんだろうよ……。


「美姫ちゃん、人を纏めるのと人の弱点を突くのがとても上手でね、派閥に関係なく仲好くなっちゃうの。梅学始まって以来、全生徒の半分を味方にして生徒会長になったのよ」


 あの母親なら可能と思えるのが腹立つな……!


 宴会場へと行き、死屍累々どもを見下ろした。


「……人生を誤った人たちの成れの果てか。ああはなりたくないものだね……」


「ふふ。皆、後悔はしてないと思うけどね」


 ボクは後悔の連続ですヨ……。


「片付けは終わったのか?」


 死屍累々に混ざっているかと思った冬馬おじさんが毛布を抱えて隣の部屋から現れた。


「冬馬おじさんは飲まなかったの?」


「家主が潰れたら悪いだろう。それに、主役は……美姫になっちまったが、まあ、久しぶりの再会だ、皆には楽しく酔って欲しかったからな」


 そう言いながら死屍累々どもに毛布を掛けて行く。


 ほんと、藤乃おばさんも冬馬おじさんも人がよすぎるよ。そんなんだから腐れババアに利用されるんだからね。自覚してもらいたいよ、まったく。


「星華ちゃんと焔は大丈夫?」


 あの酔い払いども、星華ちゃんだけではなく焔にまで飲ませやがって。社会人なら止めろってんだ。


 ……まあ、生け贄に差し出したボクが言っていいセリフじゃないがな……。


「ああ、お前んとこの薬を飲ましておいたから大丈夫だろう」


 ばあちゃん特製の薬はよく効くからな、明日に残ることはないだろうよ。


「それよりお前たちは食べたのか?」


「味見しながら食べてたよ。おじさんは食べたの?」


「いや、酒を注ぐのであんま食べれなかったよ。なんかあるか?」


「ちょっと待ってて。正光くんが作ったマグロの揚げ物とつまみがあるから。お酒はどうする?」


「熱燗を頼む」


 お任せあれと台所に戻ろうとしたら藤乃おばさんに止められてしまった。


「あとはわたしがやるからゆっくりしてなさい」


「おばさんの方が忙しく動いていたじゃない……」


「平気よ。本当なら正光くんが主役だったのに最初から最後まで手伝わせちゃったんだから」


「ああ。あとは藤乃に任せてゆっくりしろ」


 冬馬おじさんに襟首をつかまれ、無理矢理縁側へと引っ張って行かれた。


 観念して縁側に座り、少し朽ち果てた庭園を眺めた。


 前にこの家にきたのは星華ちゃんのじいちゃんが死んだとくだから、四年ぶりになるか。その四年であの見事な庭園がここまで酷くなるとはな……。


 池の水は渇れ果て、あの見事な錦鯉はもういない。道筋にあった灯籠にも光はなく、部屋からの光だけで照らされた庭園はもはやたんなる雑木林。ワビもサビもあったもんじゃなかった。


「なにがあったの?」


「借金の保証人になった」


 なんでもないと言われるかと思ったら、あっさり口を割ってくれた。


「お前にウソ言ったところで直ぐにバレるからな」


 ……なんつーか、人斬り柳生と恐れられた一族の者と末裔かよ、本当に……?


「いくら?」


「確か、三十億くらいだったはずだ」


 ざっとな答えにざっと頭の中でソロバンを叩いた。


 更地になった幼護園に本道場。本庄町にある別邸(確か民俗博物館になってたはず)。あと、山が三つあったからそれらを売り払えば十五億は行くはず。二つの蔵には古美術品に歴史ある刀剣類が詰まっていたな。あれだけあれば安く見積もっても四、五億にはなるだろうて。


「……残り、約十億か……」


「おいおい、なんでうちの懐事情を言い当てる?」


「土地資産の勉強をしたとき柳生家を使わせてもらいました」


 うちはいろいろ擬装やら隠蔽があるので税金対策やら資金運用やら勉強しないとやってけないのだよ。


「ほんと、恐ろしい一族だな、志賀倉ってのは」


「そんなことより残りはどうしたの?」


「この家を担保に銀行から借りたよ」


 主要道路に面した幼護園ならともかく住宅地の奥にあるこの家が十億もする訳がない。いいところ六億が精々だろうて。


「……もしかして、その銀行って、武田関連の銀行なの?」


「……そこまでわかるのかよ……」


 あの星華ちゃんの顔を見たあとなら嫌でもわかるってもんだ。


「なにを要求されたの?」


 事と次第によっちゃあ、ボクは鬼でも悪魔にでもなるよ……。


「おいおい、そんな殺気出すな。皆が起きるだろうが。大丈夫。なにも要求されてないよ。お前んところで抱えてもらってるお陰で毎月払えているし、一般弟子も減ってはいない。美姫のコネで道場も安く借りられているからそれほど以前と変わらんよ」


「じゃあ、あの星華ちゃんの態度はなに? なんであんなクソ野郎に愛想笑いしなくちゃならないの? おかしいじゃないか……」


 いや、おかしいことなどない。それがどう言う意味かわからないほど純粋ではない。なにも要求しないと言いながらこちらの罪悪感を利用して大事なものを出させる手法など珍しくもない。ましてや人のいい親子だ。なにもいらないよと言われたところで気にしないでいられる訳がない。


「……お前が星華と結ばれてくれると助かるんだがな……」


「お嫁にくれるって言うのなら十億だろうが百億だろうが持参金を用意するけど、そんなこと星華ちゃんは望んでないでしょう」


 ボクは星華ちゃんが大好きだ。愛してもいる。もし、九年前にボクがここに預けていられたらボクはなんのためらいもなく柳生の名を継いでいたし、こんな状況にはさすなかっただろう。だが、ボクはばあちゃんやじいちゃんのもとに預けられ、そこで志賀倉の血に目覚め、志賀倉の生き方を愛してしまった。


 それは星華ちゃんだって同じだ。


 柳生の名に誇りを持ち、先祖が受け継いできた技に敬信した。


 今更ボクも星華ちゃんも一緒にはなれない。もしなったところで志賀倉が柳生を飲み込むだけ。良くも悪くも志賀倉の侵食力は絶大なのだからな……。


「……すまんな……」


「ありがとう。星華を大切にしてくれて……」


 いつの間にか藤乃おばさんが後ろに現れ、ボクの頭を優しく撫でてきた。


 ……なんて言うか、もうなにも言えなくなったじゃないかよ……。


「わかった。なにも言わない。星華ちゃんには星華ちゃんの思いがあって誇りがあるからね。だから星華ちゃんの意思に任せるよ」


 それが幼なじみとしての礼儀である。


「だけど、ボクにもボクの思いがある。誓いがある。それは、誰にも触れさせないからね……」


 ボクの誇りと誓いで動くならこれはボクだけのもの。誰に言われる筋合いはない。


「まったく、おれたちがお前を利用するためにしゃべったとは思わないのかよ?」


「三十億もの保証人になるおじさんに騙されるのは小学生以下までだよ」


 事実過ぎて笑えないのがツライとこだけどさぁ。


「言ってくれるじゃねーか、この野郎!」


 ヘッドロックを仕掛けてきた。


「な、ちょっ、止めてよっ!」


 忘れているようだけど、ボクの体力は小学校低学年並なんだよ。長時間働いてて低下してるんだよ。死ぬよ。ほんのちょっとの力で死んじゃうんだからねっ!


「ふふ。こんなことなら無理矢理でも美姫ちゃんから正光を奪っておくんだったわね」


「そうだな。あの二人が消えてから奪うんだったよ」


「だったら奪いにきてよ! 引き取ってよ! そしたら二人の子──ごふっ!!」


 言葉途中で横っ腹に衝撃が生まれ、生命数値がレッドゾーンまで減ってしまった。


「や~ん! だぁめぇ~ん! まちゃみちゅはわたしのぉ~! わたちのなのぉ~! 誰にもわたしゃないんだからァァ~ん!」


 ふざけんじゃねー! と叫びたいが叫べない。もはやボクの生命数値は風前の灯火。目の前が霞んできた。


 ……死ぬ。マジで死ぬ。お願いだから腕の力を抜いてくださいましぃ……!


「わたちぃのカワいぃまちゃみちゅく~ん♪ まーちゃんまーくんまちゃみちゅく~ん♪ そーだァ~! いっちょっにお風呂にはいりまちょぉねぇ~!」


 なっ、ちょっ、な、なに言っちゃってくれてんの!? イヤっ! 止めっ! 許してっ! だ、誰か、助けてっ! おじさんおばさん助けてよぉぉっ!!


 必死に目で助けを求めるが、おばさんもおばさんも優しい目で微笑むばかり。んな、心温まる風景じゃないでしょうがッッ!!


「じゅふふ。ママが洗ってあげまちゅからねぇ~~!」


 ……か、神様。一生に一度のお願いです。二度とは願いません。だから、お願いします。今直ぐボクを殺してくれぇぇぇぇぇっ!!

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