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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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14/40

14 その男ら、宿敵なり

 なんかムカついたのでドーリュ55をテカニカル・メッセンジャー・バックから抜いて引き金を引いた。


 標的──爽やか野郎の胸に特殊ゴム弾が着弾する寸前、見えない壁に弾かれた。


 暴徒鎮圧用とは言え、標的を無力化──はっきり言っちゃえば半殺しにするために改造してある。もはや立派な武器であり、通常拳銃並に射速がある。それを見えない壁を作った奴が標的を守るように壁となる。


 ふふん。なかなかの実力者じゃないの。それに、残りの連中もなかなかだ。


 槍を持つ野郎はその場に留まったが、残る二人は直ぐに自分の役目を理解して左右に散った。


 腰のホルスターから自動拳銃を抜き放ち、左から襲いくる男へと発射。ドーリュ55を右から襲いくる男に発射──するもあっさりと回避されてしまい、一メートルまで詰め寄られてしまった。


 梅学の奴らが凄いのか、それともこいつらが凄いのかは知らないが、拳銃なんてものを出して躊躇なく撃ったんだからビビれよ。隙を見せろよ。奥の手なんて出させるなよ、まったく!


 両手の拳銃を捨て、右手首にした腕時計の突起を押した──その瞬間、両肩に仕込んだ閃光器が発動した。


 もちろん、ボクは瞼を閉じたので閃光の影響はないが、まともに見た奴は悶絶すること間違いなし。父さんの部隊で実験済みです。


 一、二と数を数えて瞼を開くと、目の前に槍を持っていた男が小太刀を突いてくるところだった。


 慌てず騒がず左に回避。通り抜け様にポケットから取り出した催涙スプレーを噴射。はい、残り二人。


 テカニカル・メッセンジャー・バックからタクティカル・ナイフを抜き放つ。


 やはりと言うか当然と言うか、標的と横にいるメガネ野郎は、フラッシュ攻撃を防いだようで小太刀を抜いていた。


 久しぶりに感じる緊張感。全神経を相手に向けたときに起こる静寂。そして、相手と同調した瞬間、ボクとメガネ野郎の間に、口許に白ヒゲを生やした用務員のじいちゃ──って、統括総長(梅学で一番偉い人)じゃないかよっ!?


「はい、そこまでじゃ。双方とも武器を収めなさい」


 統括総長の言葉に従い、ボクもメガネ野郎も武器を収めた。


「決闘がしたいなら申請して迷宮で行うものじゃよ」


「これはたんなる挨拶ですよ。久しぶりに会った幼なじみにね。なぁ、ゆうくん」


 メガネ野郎──幕原まくはらゆうに微笑みを送る。


「ええ。正光くんの言う通りです。総長先生」


 勇も薄い笑みをボクに送ってきた。


「……やれやれ。もうちょっと心温まる挨拶をしてもらいたいもんじゃて。そっかくの花壇がメチャクチャじゃよ」


 おっと。集中し過ぎで周りが見えなかったよ。


「すみません。直ぐに直します」


「申し訳ありません、総長先生。直ぐに直します」


「ええよ。また挨拶の続きをされたらかなわんからのぉ」


 もう一度すみませんと謝り、放り投げた武器や空薬莢を回収してから星華ちゃんと焔のところに移動した。


「ごめんね、待たせちゃって」


 なにもなかったかのように二人に笑顔を見せた。


「……はぁ~」


 なにか言い掛けた言葉を無理矢理飲み込んだ星華ちゃんが深いため息を吐いた。


「まったく、総長先生が止めなかったら大怪我してたわよ」


「え、誰が?」


「あなたたちよっ! 勇くんも道博みちひろくんも一学年ではトップクラスの実力者なんだから」


「おや。だったらサブマシンガンでも出すんだったよ」


「アハハ! 星華ちゃんの幼なじみくんはおもしろいね。さすが服部姫子の弟だよ」


 爽やかに笑う道博くんとやら。


 ここにくるまでに会っていたら正当で冷静な評価を下せたんだろうが、あの場面──楽しくおしゃべりする姿を見たあとではもう無理。色眼鏡の上に決め付けで見ている。どんなに爽やかに笑おうとも、ボクの中ではこいつの評価はマイナス五十点。今後のこいつの行動次第では更にマイナス評価になるんであしからず。


「ほら、挨拶。わたしの同級生なんだから」


 無理矢理体を動かされ、見たくもない顔を見せられた。


「初めまして。ぼくは、戦術科の武田道博。よろしく」


 チラっと爽やかくんが持つ槍に視線を動かした。


「それと同じ紋所の槍を持つ三年生と会ったが、身内か?」


「ああ、兄さんだよ」


「似てないな」


「君のところもね」


「ああ、神様に大感謝だ」


 言って勇を見る。


「しかし、お前が誰かに仕えるなんて夢にも思わなかったよ」


 神童と呼ばれたこいつの幼護園時代は、とにかく人と交わることを拒絶していた。ボクや星華ちゃんが何度も話し掛けても無視するし、低脳な猿としか見てなかった。


「別に仕えている訳じゃない。道博は親友だ」


 その言葉に心臓が止まるかと思った。


「……な、なんの、策略だ、それは……?」


 ボクの当然な問いに勇は顔をしかめた。


「人をろくでなしみたいに言わないでもらいたいな」


「ろくでなしより悪いだろう、お前は。……なにかに取り憑かれたのか?」


 それなら納得するぞ。


「……確かに昔のおれは頭がいいことを鼻に掛けていたが、ここではおれ以上の天才はいくらでもいる。現にそこの蜂蜜姫なんて聖龍を四匹も宿し、滅多なことでは入れない特殊技能科に入っている。まさに井の中の蛙。つくづく己が凡人なんだと教えられたよ」


 な、なんと言うか、変われば変わるものだな、人ってのは。こいつがそんなことを言うなんて。偽っているならそれも凄いし、本心ならより凄い。自分以外の人を受け入れるようになっているんだからな……。


「そう言うお前は全然変わってないな。いつまでも甘ったるい夢ばかり見ている」


「ああ。とっても気持ちよくてな、なかなか抜け出せないよ」


 睨み合うボクと勇。やっぱ、こいつとは仲良くなんてなれん!


「わたしから言わしてもらえばどっちもどっちよ。変わるどころかますます酷くなってるわ」


 と、今度は星華ちゃんがボクの間に入ってきた。


「ごめんね、道博くん。わたしたちこれから用があるの。話はまた今度にしてくれる?」


「いや、こちらこそごめんね。長々と引き留めちゃって。勇、行こうか」


 吐き気がするほど爽やかな笑顔を残して去って行った。


「……二度とくるな、クソがッ!」


「こら、下品なこと言うな!」


 ポカリと頭を叩かれた。


「まったく、まーちゃんのメチャクチャには慣れてるけど、いきなり撃つなんてなに考えてんのさ! 相手が避けなかったらどうするつもりだったのさ?」


「そのときはそのとき。結果を恐れていたら先には進めないって、昔の誰かが言ってたじゃないか」


「誰かって誰よ?」


「浦島太郎──って、ウソウソ! 反省してます! 心の底からごめんなさいっ! だから木刀を抜くのは止めようねっ。さっきので武器は切らしちゃったから対抗できないって! 死ぬって!」


 木刀を上段に構える星華ちゃんから逃げ出し、焔を盾にする。


「妹を盾にするなんて志賀倉も地に落ちたわね」


「生きるためなら妹でも盾にするのがボクです!」


 怒った星華ちゃんはとっても怖い。助かるためなら妹の一人や二人、犠牲にしたって惜しくはないのだ。


 妹を盾に逃げ回っていると、突然、焔が吹き出した。


「……焔……?」


「すっ、すみません、笑ったりして。くふっ。あ、す、すみません……」


 育ちが邪魔をしているのか、それとも悪いと思っているのか、必死に笑いを堪えているのだが、それが返って笑いを誘うらしく、顔を真っ赤にして悶絶していた。


「……蜂蜜姫って、結構笑い上戸だったんだね……」


「そう言えばなんなの、蜂蜜姫って?」


 焔が公女なのは秘密にしてあるし、こう言うときのために戸籍も用意してある。まあ、この外見で日本名にするのは強引だが、それでも正式な戸籍だ。どこをどう調べようが焔は志賀倉一族である。


「この子のあだ名だよ。この蜂蜜色髪と上品な振る舞い。愛くるしい笑顔で梅学のアイドル。中等部では親衛隊なんてもんができてるそうだよ。フフ。中等部区に行くときは気を付けてね、油断してたら嫉妬に狂った子に襲われちゃうからね、兄様」


「……まったく、男ってのはしょうがない生き物だよ……」


 いやまあ、ボクもしょうがない男だけど、見た目に騙されるほどバカではない。って、いや、別に焔が見た目と違うと言っている訳ではなくて、女の子を神聖化するならまだしも自分の都合のよい解釈をしてしまうことを言っているのだ。


 人間、綺麗なところもあれば汚いところもある。その人の一面だけ見て他を見ようとしない。見たら見たで悪女とか裏切り者扱い。その人が本当に好きなら全てを受け入れろ。そんな都合のいい女が

好きなら脳内世界で遠慮なく愛を育めってんだ。


「ふふ。高等部でも気を付けて下さいね。先程の武田先輩ではありませんが、柳生先輩に心を奪われている殿方は多いですからね」


 やっと笑いが収まったのか、凛とした姿で上品よく微笑んでいた。


「へー。星華ちゃんってモテるんだ。意外……」


「そんな失礼ですよ。柳生先輩は、梅学で一、二を争うくらいの美少女で、情報科主催のアンケートで花嫁にしたい女の子ナンバー1なんですから」


 いや、星華ちゃんが美少女なのはよく知っている。幼護園時代から人気はあったし、うちで経営しているペンション村でスカウト騒ぎがあったくらいだ。なので星華ちゃんに恋するのもわからないではない。が、星華ちゃんは柳生直系の者。そして、ここはいろんな一族の子弟門弟が集う地である。そんなところで他一族同士の交際は大変で難しいものだ。それで一族同士の戦いになったり、断絶したりで不幸話はうんざりするほどある。ほんと、保守的な国だよな、ここは。


「ま、まあ、ぼくの演技が上手いからさ。それより早く行こう! おかあさんがまーちゃんがくるのを楽しみにしてるんだからさ」


 ハイハイと背中を押されてバイクへと押され、焔をひょいと持ち上げサイドカーに放り込んだ。


「はい、妹ちゃん。まーちゃんのはぼくね」


 予備のヘルメットを焔に。ボクのヘルメットを星華ちゃんがかぶってしまった。


 強引なんだからと愚痴りながらも星華ちゃんの好きなようにさせ、改造トランクスをキャリーに取り付け、テカニカル・メッセンジャー・バックから防塵、対光仕様のゴーグルを取り出して装着する。


「兄様のバックは四次元ポケットですね」


 焔の可愛い冗談に、ボクは肩を竦めた。


「本当に四次元ポケットを持っている人と比べられるのは光栄だが、いつもの装備品がたまたま役に立っただけさ」


「……人? 猫ではなくて……?」


「人だろう。なんで猫なんだ?」


「え? あ、そ、そうなんですか……」


 戸惑いの目を星華ちゃんに向けるが、星華ちゃんも「猫?」と言って首を傾げていた。


「……あ、あの、その、わたしの勘違いだったみたいです。すみません……」


 別に謝ることでもないのだが、これ以上言うのもなんなのでそっとしておくことにした。


 愛車に跨がりエンジンを掛け、ちょっと暖気してから発進させた。


 ボクらがメチャクチャにした花壇を直す統括総長先生の横を通り過ぎようとしたとき、ボクたちに気が付いた統括総長先生が顔を上げてにっこり笑った。


 その瞬間、なにか懐かしい感情が沸きだし、なにかとっても大切な、なにかを浮かび上がらせた。


「まだダメじゃよ」


 統括総長先生の言葉が心に突き刺さると、浮かび上がってきたなにかを霧散させてしまった。


 ……な、なんだ、なにが……なんだっけ……?


「気を付けて帰るんじゃよ」


「──あ、はい、失礼します」


「し、失礼します」


「さようなら、総長先生」


 なにがなにやらわからないが、挨拶された以上、挨拶を返すのが礼儀と言うもの。星華ちゃんと焔もそう思ったらしく、急いで挨拶を返して通り過ぎた。

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