13 その男、梅学最強にて
「……また、お前か……」
登録課の長、矢吹さんがボクを見るなり顔をしかめた。
「そんな顔しないで下さいよ。悪いと思うからこうして間をおいてきてるんじゃないですか」
あの疲れ切った顔を見たらさすがのボクでも罪悪感が生まれてくる。だからそのお詫びとして今日まで待ったのだ。
「んで、今日は"何百"個だ?」
「はい、"七百六十二"個です」
と、引いてきた改造トランクをペンペンと叩いた。
「……お前は、そんなにおれらが憎いのか……?」
矢吹さんだけではなく、他の登録課の方々も殺意を含んだ目でボクを睨んでいた。
「ヤ、ヤダなぁ~。皆様方には感謝と尊敬の念しかありませんよ。これだけあれば一つや二つ見逃してくれるかな~と思ったのに、手を抜いてくれないどころかまったく油断してくれないんだもん、もう降参。だからこうして素直に持ってきてるんじゃないですか」
パソコンの中のソフトからUSBメモリの中身までしっかり調べるし、小分けにして登録した部品が爆弾になることにも見抜いてしまった。しかも、自分ですら忘れていた薬剤がなんであるかまで突き止めてしまったのだ。もう降参するしかないじゃないか……。
「当たり前だ! ここにいる者はここを卒業した者ばかり。ただの事務員だと思うな。それに、規制品を持ち込まれたらこっちの給料に響くんだ、手抜きも油断もできるかっ!」
矢吹さんの叫びに皆様方がうんうんと頷いている。
最初見たときただの事務員ではないなとはわかっていたが、まさかここの卒業生だとは思わなかった。そりゃ騙せないわな……。
「じゃあ、得物を見せろ」
「はい。あ、それと前に言われたバイクの登録証と自賠責保険と任意保険証です」
書類をカウンターの上に。改造トランクは重いので脇から渡した。
「……また、非合法入手品かよ。まったくの、お前は武器商人か? テロリストか?」
改造トランクを開け、中に詰まった五丁の拳銃と数百発の弾丸、そして、煙幕用手榴弾やら特殊閃光弾やらを見て呆れ果てる矢吹さん。それは梅学の上層部に見せて欲しい。なんせ、弾丸一発ごとに登録しなければならないようにしているのだから。
「クックックッ。儲かるならどちらにもなりますぜ、ダンナ」
「このどアホがッ! そんなことになったらお前のかーちゃんに突き出すからなっ!」
「ヤダなぁ~、ちょっとした冗談じゃないですか。本気にしないで下さいよ」
「お前の場合、冗談にならねーんだよ、この腐れ道具使いがッ!」
失礼な。悪党なら甘んじて受け入れるが腐れはないでしょう。腐れってのはうちのババアのことを言うんだぞっ。
「ったく。次回から弾丸は購買部に申請しろ。よほど特殊なものじゃなければ取り寄せられるし、登録申請もいらんから」
改造トランクを閉め、登録調査室へと消えて行くと、矢吹さんに代わって課長補佐の吉永さんがカウンターについた。
「ご機嫌斜めですね、今日の矢吹さんは」
「ふふ。そうでもないわよ。あれは矢吹さん流のやる気の現れなのよ。本来なら登録課は四人でやっていたの。武器をそうコロコロ換える人なんていないからね、閑職よりまだマシなところだったわ。でも、君は多種多様の武器や道具を大量に登録するわ、規制品を持ち込むわで、四人では足りなくなって他の課から応援を呼ぶと言う梅学始まって以来の珍事を引き起こしてくれちゃったわ。はい、申請書ね。でね、封印召喚の術を利用した武器携帯を知った君のお姉さんが君と同じく大量に登録してきて、更にそれを知った武田くんが続いて、更に更にで登録課は現在八名まで増員されたワケよ」
「の、割りには空いてますが?」
登録課にはボクだけである。
「他は一度室棟に行ってから──って、言ってるそばからきちゃったわ。皆、戦闘開始よ」
振り返ると、何十人もの生徒が事務棟に入ってくるのが見えた。
「一番手で悪いけど、あっちで書いてくれる? 受付や書類渡しだけでも一仕事なのよ」
まあ、せめてもの侘びと、言われた通りに端っこに移動した。
登録にきた生徒たちの騒がしさをBGMにしながら申請書に記入していると、申請書に影が掛かった。
なに? と顔を上げると、目の前に槍を持った男が立っていた。
身長は百九十はあろうか、重厚な筋肉といくつもの修羅場を経験したかのような鋭い目が印象的な三年生だった。
……っうか、本当に三年生なのか、二十過ぎでも通用するぞ……。
「……ドーリュR55? それはどこの拳銃だ?」
「ドルトン社製の暴徒鎮圧用拳銃で、特殊ゴム弾を圧縮したガスで発射させるんです。欧州辺りではよく警察が装備してますね」
「道具使いと聞いていたが、銃がメインなのか?」
「いえ、メインではありませんよ。ここにきたとき、兵隊さんが銃を装備していたから有効なんだろうと思ったから選択したまでです。それに、銃の扱いなんてあまりやってなかったからこの機会に本格的に練習しようかなと思いまして」
一般人が銃を所持することが禁止されている国で銃を練習するのはなにかと不便。防音性に優れた施設を造るか山奥で練習するしかない。好きなときに好きなだけ撃てる迷宮で好きなだけ練習しようと考えたワケよ。
「なるほど。あの愛原が一目置くだけある。おもしろい男だ」
などと豪快に笑い、仲間と思われる集団へと戻って行った──と思ったらこちらへと直ぐに返ってきた。
「ちょっと聞くんだが、優秀な刀鍛冶を知らないか?」
その問いに槍へと目が行く。
刃の幅と笠に甲虫の紋所からして名刀鍛冶師、神島六太郎の作と見た。
「それではダメなんですか?」
「まあ、いいのはいいんだが、地下十階
まで下りるとさすがに刃がこぼれるんだよ」
名人の作をこぼれさすって、どんだけの腕してんだ、この人は?
「それはもう刀鍛冶と言うよりは鋼材屋に行くしかないですね。最新鋭の戦車にも使われているゴルデル合金とか希少金属のニコロクスとか、そーゆー超鋼材製で造ったものならドラゴンでも貫けますよ」
まあ、絶滅危惧種の頂点に立つドラゴンがどこにいるかは知らないけどね。
「そう言うのはどこで調べるといいんだ?」
「ネットで調べられますよ。メタルとか金属加工で検索して行けば辿り着けます。あとは、そこの会社のカタログをもらったり、注文したりして常連になれば特注品を造ってくれるようになります。ボクのオススメはダイダロス・インザート社ですね。前にゴルデルで刀を造ってもらいましたが、星華ちゃんの一撃にも刃こぼれしませんでしたね」
「……なるほど。参考になった。感謝する」
「いえいえ。ボクでわかることならいつでもどうぞ」
三年生を笑顔で見送り、申請書の続きに入ろうとするが、手が震えて書けなかった。
──こえぇーっ! こえぇーよっ! なんだよ、あの人は? バケモノだよ、星華ちゃん以上にバケモンだよ! あの視線と言い、あの闘気と言い、もう立派な凶器だよ! 寿命が三年は縮んだぞっ! チビったぞっ! レベル41ってどんだけなんだよっ! どっかの特殊部隊が束になっても勝てないぞ、あの気迫はよっ!
入ってきたときはまったく感じなかったが、ボクを見つけると同時に闘気を爆発させ、まるで親の仇を見つけたかのように睨んできた。
あれならまだ四方八方から銃を向けられた方がまだ心が安らげる。心臓が弱かったら確実に死んでるぞ。
──クソ! 動けないほどビビったのなんて久しぶりだぜ……。




