12 お泊まり会
長かった始業式が終わり、特殊技能科一年の担任たる嵐先生のあとに続いて教室に戻った。
ちなみに、この学校はエスカレーター式で、外部から入るときは編入扱いになり、入学式は小等科に上がるときしかないそうだ。で、この館は七緒館と言うそうだ。意味は焔も知らないってさ。
教室では自己紹介やら新学年の方針やらが行われ、終わると焔を抜かす女の子たちが立ち上がり、逃げ出すように出て行ってしまった。
「……あんなに急いでどこに行くんだ……?」
一人ゆっくり帰りじたくをしている焔に尋ねた。
「皆さん、いろいろ選択してますから教室移動が大変なんです」
「今日、始業式だけじゃなかったっけ?」
まあ、誰かに聞いた訳じゃないがな。
「ここは、勉強したいと言う者がいるなら休日でも深夜でも授業を開いてもらえるので、始業式の日でも授業を開いてもらえるのです」
ボク、選択科目3つで、今週、なにもないのだが……。
「なんとも勤勉なことで。焔もいろいろ選択しているのか?」
「わたしは一般科目と嵐先生の精霊獣学全般を選択しています」
「じゃあ、今日はなにもなし?」
「はい。寮に帰り勉強するだけです」
なら大丈夫ってことだな。
「あ、嵐先生! 寮の外泊許可って直ぐにとれるもんなんですか?」
教室を出て行こうとする嵐先生に尋ねた。
「保護者の許可と申請書を書けばいつでも外泊できるよ」
ふ~ん。案外ゆるいんだな、この学校の外泊許可って。まあ、なんにせよ助かる。
携帯電話を取り出し、母さんへと電話する。
「母さん、ボクだけど今大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。なに?」
「今直ぐ寮に電話して外泊許可をとってよ」
黒幕に前後の話など無用である。どうせこんなことは想定内のことだろうからな。
「了解。あ、そこに嵐くんいるでしょう。代わって」
そんな予感がしたのか出て行かず待っててくれた嵐先生に携帯電話を渡した。
「じゃあ、焔。そう言うことだから外泊許可をとって職員用の駐車場に集合な」
テカニカル・メッセンジャー・バックから新しく買った予備の携帯電話を焔に渡す。
「え、あ、あの、いったい、これは!?」
訳がわからず混乱する我が妹殿。
「今日は外にお泊まり会。その携帯電話は今日から焔のもの。付属品は途中で買うから。中のデータは志賀倉一族の番号とメールアドレスが入ってるから好きに使ってよし。どんどん国際電話しても気にしない。どうせ払いは黒幕なんだからな。あ、携帯電話の操作は知っているか?」
「い、いえ、わかりません」
ではと、簡単に教えると、さすが飛び級しただけあって一回で覚えてしまった。
「はい、ありがとうね」
なにやら困り果てた嵐先生が携帯電話を返してきた。
「なにかあったんですか?」
「ぼくもそのお泊まり会に出ろって。まったく、こっちの事情なんてお構いなしなんだから、美姫先輩は……」
「すみません。本当にすみません……」
あの腐れババアの息子として誠心誠意の謝罪と、いつか必ず罰を与えると誓います。
「あ、いや、正光くんが謝ることじゃないよ。ぼくが好きで美姫先輩の一派にいるんだからね。それに美姫先輩の"お願い"は信頼の証。結構名誉なことなんだから」
そんな腐れた名誉なんて一生理解したくないが、嵐先生には特別らしく、とても懐かしそうに笑っていた。
「さて。さっさとスケジュール調整しないとね。美姫先輩より遅くなるとお願いが命令になっちゃうからね」
冗談の中に切実さを含ませながら教室を出て行った。
「じゃあ、焔。お泊まりの準備をして職員用の駐車場に集合な。あ、ボクは登録課に行くからちょっと、いや、かなり遅くなるからゆっくりでいいからな」
焔の返事を待たずボクも教室を後にした。




