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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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11 妹はクラスメート

「ここか、特殊技能科は……」


 携帯武器申請やら仮免許登録に時間を取られたので学校案内や教室見学やらがいろいろ省略されたのでここにくるのは今日が初めてなのだ。


 その名の通り特殊な科だとは聞いてはいたが、まさか一般校舎とは別になっており、こんな林の中にあるとは思わなかったよ。


「しかし、洋館って、意味がわからんな」


 建築物に興味も知識もないのでなに風かなに調かは知らないが、煉瓦造りの館で、緋色の屋根からは煙突が伸びていた。周りには花壇が設けられ、色とりどりの花が植えられていたり、なにかオブジェなのか記念碑なのかわからない謎の加工石がぽつらぽつら配置されていた。


「──ここは以前、生徒会本部として使用されていたのですが、二十数年前に新しい生徒会本部棟ができたので特殊技能科棟となったのです」


 と、十二、三くらいの、蜂蜜色の髪を持つ欧州系の女の子が横にいた。


 ……この特殊な気配、精霊獣を宿しているな……。


「生徒会指導による学校とは聞いていたけど、相当強い権限を持っているようだ」


 女の子の登場を平然と受け入れ、平然と返した。


「はい。規則作りから予算編成まで生徒会が執り行います。だから皆さん、生徒会会長の座をとるために必死です」


「なるほど。そんな群雄割拠の世界で天下をとったら一族としてはさぞ鼻が高かろうよ」


 誰が考えたシステムかは知らないが、よくできたシステムを作ったものだ。まあ、関係ない者には迷惑でしかないがな……。


「正光様は生徒会会長を目指さないのですか?」


 様を付けられるほど高尚なモンではないが、話の流れ上、ここはこの子の流れに乗っておくか。


「まったくもって興味なし。そんな面倒なことはやりたい人に任せるよ」


「ふふ。マリの言う通りですね」


 マリ? って、真理まりおばさんのコトか?


 志賀倉の中でもとりわけ優秀な家政師だったが、とある政変で大傷を負うい、三年前に引退……ちょっと待て。蜂蜜色の髪に緑の瞳、そして、欧州系の女の子って言えば真理おばさんが娘にした子の特徴ではないか!


「……君、レミーティア・オン・バルトリア……?」


 ジュール公王の一人娘で、公王の継承権を持つお姫様ではないか。


「いいえ。わたしは志賀倉真理の娘のほむらです」


 悪戯っぽく笑うレミー──じゃなく焔だった。


 ったく。妹となったその日からこの子を守ると誓っておいてこの体たらくはなんだ。もっと兄としての自覚を持てや、バカ正光がっ!


「ん? あれ? でも真理おばさん、フランチェだろう。なんで焔がここにいるんだ?」


 家政師を引退したのち、フランチェの支部長として指揮をしているはず。二月前の報告書はフランチェ宛だったぞ。


「わたしの身を守るためと精霊獣使いとして一人前になるようにとここに入学させてくれました」


「は? なんだそれ! ボクは聞いてないぞ!?」


「す、すみません……」


 ボクの怒気に焔がすまなそうに謝ってきた。


「あ、いや、焔を責めている……ん? なんだ、この狙ったような出会いは?」


 志賀倉の当主ではないとは言え、次期当主だ。志賀倉の事情はばあちゃんや美尋おばさんを通してボクに入る。世界で活躍するおばさんたちのことだってちゃんと教えてくれる。なのになぜ焔のことを……なんて言うほどバカではない。これもあの腐れババアの仕込みだろうよ……。


「焔はいつからここに?」


「三年前からです」


 やっぱりか。にしてもボクをここに縛るためとは言え、なんてことしてんだよ、あの腐れババアは! バルトリア公国の跡目争いはまだ解決してないだろうに。あのバカ将軍も権力をいいように振りかざしているし、転覆を怖れて暗殺者まで放っている。


 まったく、それを聞いたときは目眩がするくらい激怒したものだ。最初の冒険旅行もバルトリア公国と決め、あのバカ将軍を殺してやると決めていたくらいだ。


 まあ、腐れババアのせいで計画が先に延びてしまったが、この怒りはまだ継続中だ。必ずうちの家族を狙ったことを後悔さすてやるからな……!


「……正光様?」


 おっと。いかんいかん。怒りで我を忘れてしまったぜい。


「そんな他人行儀は止めてくれ。お兄ちゃんでも正光でもいいから、家族として呼んで欲しいな」


 腐れの陰謀とは言え、ボクのやるべきことに変化はない。この子の笑顔を守ること。そして、泣かせないことだ。


「で、では、兄様とお呼びしてもいいでしょうか?」


 はっきり言って恥ずかしいから止めてくれと言いたかったが、こんな恥じらいながらお願いされたら否とは言えない。いいよとしか答えられないだろうがよ。


 ……まあ、瑠花るかの我が儘に比べたら可愛いものか……。


「ん? 三年前ってことは寮で暮らしているのか?」


「はい。本当は志賀倉の方のお世話になるはずだったのですが、なにか急な用ができたとかで寮に入ることになりました」


 ……どこまで人の人生を弄べば気が済むんだ、あの腐れババアは……!


「ごめん。本当にごめん。志賀倉を代表して謝る。この不始末はボクが責任をもって償うよ……」


 そして、ここに誓う。必ずあのババアに責任を取らせてやるからな……。


「そ、そんな、謝らないで下さい! とても楽しい三年間でしたし、憧れだった兄様ができたんです、こんな幸せなことはありません!」


 輝かんばかりの笑顔に意識が飛びそうになる。


 志賀倉の者にとって笑顔は宝。生きる喜び。生きる糧。この笑顔のためなら世界すら敵にできる。いや、世界征服だってしてみせるぞ。


 ……あーもーこの笑顔反則! 思いっきり抱き締めてなでなでしたいっ!!


 そんな衝動を必死に堪え、本題へと気持ちを切り替えた。


「あー、えーと、だ。なぜ焔がここに? そのセーラー服って、高等科のものだろう……」


 そんなボクの問いに焔は黙って微笑み、館の中に招き入れた。


 焔のあとに続き中に入ると、なんとも絵に描いたようなホールであった。


 床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、天井には華美なシャンデリア。左右には部屋があり、左は休憩用と思われるサロン。右は娯楽施設だろうかビリヤード台が見えた。奥には二階へと続く階段と食堂に続くと思われる扉があった。まったくもって意味がわからんな……。


「こちらです」


 と、焔が二階へと上がって行く。


 二階は意外と奥行きがあり、部屋数は左右四つずつの計八部屋。ドアの間隔から言って一部屋十五、六畳くらい。手前側の四部屋──三学年の教室と自習室のようだ──が教室で、奥はプレートがないのでわからなかった。


「……随分と優遇されてるんだな、特殊技能科って……」


「そうでもありません。それどころか厳しいところですよ」


 どうぞと一年の教室のドアを開いた。


「………………」


 中の光景に思わず眉をしかめた。


「……ここ、高等科一年の教室だよな……?」


「はい。高等科一年の教室です」


 なんだろう? ボクの目には中等科一年の教室に見えるのだが……これは、ボクだけにしか見えない幻かなんかか……?


「おはようございます」


 焔の挨拶に、教室にいた四人の女の子たち──うち一人はどう見ても十歳くらいにしか見えないんですけど──は、一瞬だけこちらに目を向けたが、なんのリアクションもなくそれぞれの世界にお帰りになった。


「無視ですか」


「すみません。皆さん、とてもしゃいなので、初めての方とはなかなか打ち解けることができないのです。ですが、皆さんとても優秀な方々ばかりなんですよ。年に三回ある昇級試験を全て合格して高等科まで上がったのですから」


「……それはまたスゴいな……」


 と言うか、この国に飛び級制があったことに驚きだヨ。


「皆さん、一級魔術士の称号と院生級の頭脳を持ってるんですから」


 へー! 一級魔術士とはスゴいな。確か、司法試験より難しいって聞いたぞ。


「焔もか?」


「い、いいえ! わたしなんか皆さんの足下にも及びませんよ!」


「でも、こうして高等科にいるんだからそれなりの力があるんだろう?」


 ただでさえこの梅学に入るには並以上の魔力と才能がなければ入れないところなのだから。


「わたしの場合はこの子たちがいてくれたからです」


 と、焔の体から四色の紐が──って、聖龍じゃないかっ!? しかも、土龍に風龍に火龍に水龍だと!? 超S級の絶滅危惧種を四匹も宿しているだけでも心臓が止まりそうなのに、魔体まで持っているなんて……焔、恐ろしい子……。


「……な、なんと言うか、平気なのか……?」


 いや、平然としているから平気んだろうが、自分も炎狼を三匹宿し、苦痛を経験した身としては、平然としていられるのが不思議でたまらないのだ。


「はい。そう言う血筋なのと、この学校のお陰で全然平気です。あ、でも、四匹同時には出せても指示てきるのは一匹だけなんです」


 それでも凄いことには変わりがない。その一匹、魔導師にも勝るのだからな。


 ……まあ、肉体を持った場合だけどな……。


「しかしなんだ。皆、桁外れに天才じゃないか。なんでボクなんかが入れたんだ?」


 ……母さんや姉さんはともかく、嵐先生はなにを見てボクを合格させたんだ……?


「そんな、兄様だって炎狼を三匹も宿し、うち一匹に肉体を与えたではないですか!」


「聖龍や一級魔術士の前では霞む力だよ」


 その差をひっくり返すには、それ相応の準備と限定された場を作らなくれば無理と言うもの。なんにもせずに挑んだら一秒で天に召されるよ。


「それがそうでもないんです。この梅学と言うところは」


「?」


「高等科に上がるまでなら机上の力で進級できますが、ここから上がるには兄様のような力がなければ進級どころか降格させられるのです。"地下"のことはお聞きになりましたか?」


「ああ、残念ながらね……」


 なんでもこの学校の下には巨大地下迷宮があり、そこにはモンスター──ここでは『迷宮獣』と言うそうだが、その迷宮獣が"発生"し、それらを倒してレベルを上げることが生徒の使命であり義務であり、単位でもあるそーだ。


 ……この秘密をしゃべった者は第一級国家反逆罪で、世界最強と言われる日本帝国の秘匿部隊が暗殺にくるって言うんたから泣きたくなるよ……。


「特科の者が二学年に進級するにはレベル6が必要で、三学年に進級するにはレベル13が必要です。そして、卒業するにはレベル25以上でなければなりません。ちなみにわたしも含めてここにいる方々はレベル0です」


「ちなみに、この学校で最強って誰? レベルは?」


「武田組組頭、武田廣鷹先輩で、レベル41です」


 RPGゲームは一度しかやったことないから比べることはできないが、そのゲームで例えるなら終盤に入り、大呪文を覚えたりする頃だ。


「迷宮獣って強いのか?」


「地下一階から地下三階ぐらいまでなら小等科の子でも倒せますが、降りれば降りるほど迷宮獣は強くなり、集団で現れます。ですから一人で入るのは危険です」


「なるほど、そりゃ危険だわな」


 言って机にかじりついている女の子たちに目を向けた。


 いくら才能に恵まれているとは言え、戦いとなればまた話が違ってくる。


 乱世の時代であろうと戦いは人を狂わせ、負が心を蝕む。ましてや平和な世界に生きる者が戦いに身をおくなど廃人になりかねないほどのプレッシャーに襲われるのだ。


 そうならないために、まず戦うと意志を持つこと。そして、徐々に戦いに慣れることだ。ってまあ、理想を言えば、だけどね。


「それな生徒同士の戦いもありますから大変なんです」


「……なんだか帰りたくなってきたよ……」


 赤点追試など、なんぼのもんじゃいだが、この学校、そーゆーイベントをサボると強制労働や奉仕年数が増えると言うのだから涙が枯れ果てて鼻血も出ねーよ……。


「……まったく、リセットボタンが欲しいよ……」

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