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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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10 梅学の勢力

 いい感じで二八通りを進んでいると、同じ学生服を着た梅学の生徒がちらほらと見えてきた。


「通いの人もいるんだね」


 説明会での話では、殆どの人が寮暮らしだと聞いたのだが。


「基本は学校内の寮で暮らしてはいるけど、技術伝承者や秘密訓練で外に泊まることも多いんだ。ちなみにこの辺は中部地方の一族の屋敷街だね」


 ってことは東北地方やら九州地方やらの屋敷街があるってことか。なるほど、世界から神秘の国と言われるだけはある。自国民ですら理解に苦しむよ……。


「梅学の勢力図はどうなってるの?」


「一番は姫子ねえちゃんが率いる姫騎士団。二番は武田たけだ廣鷹ひろたか率いる武田組。三番は篠原しのはら翔子しょうこ率いる紅薔薇団。ちょっと離れて八島やしま貴司たかし率いる八島組が四番手。それが梅学の四大勢力。中堅には伊賀いが甲賀こうが風魔ふうまと言った有名処の忍群に松田まつだ海原かいばら、佐々ささねと言った武家出の会が乱立してて、残りは小集団で占められてるかな」


「団とか組ってなんなの?」


「一つの一族で仕切れず、幾つかの一族で連合を組んでいるのが団。頭首の権力が強いのが組。忍一族で成り立っているのところは一族名で。武家や流派は会や流、またはチームで呼ばれてるよ」


「伊賀や甲賀は単独でも生き残れるから団にも組にも属さないってことか」


「地方の忍は結束が固いし、梅学で名を残すことを重要視してるからね」


「梅学に名を残すとなにか特典があるの?」


「歴史と伝統は一族の誇り。自分の処は優秀だぞって国に知らしめることができて、よりよい仕事を国から得られるんだよ」


「なんともご苦労なことで」


「他人事だね、次期志賀倉の当主さんは」


「他人事だよ。うちは国から仕事もらってないもん」


 国には利用するもの。それができない者に志賀倉の当主は名乗る資格はない。


「……そーゆーところが羨ましいよ……」


 梅学で再会したときと同じように自嘲気味に笑う星華ちゃん。


 柳生家の事情を星華ちゃんが語らないため、現在どうなっているかはわからないが、この様子では芳しくないようだな……。


「そうそう、選択科目はどうしたのさ?」


 まるで情けない自分を叱咤するかのように尋ねてきた。


「嵐先生の精霊獣生態学に精霊獣環境学。あとは、情報科学に情報収集学にしたよ」


「前の二つはわかるけど、あとの二つはなんで?」


「うち、仕事柄どうしても政治家や重要機密を扱う人からの依頼が多いでしょう」


「うん。一度引き受けた依頼はなにがあっても遂行する。例え大国の陰謀からでも巨大犯罪組織からでも依頼者とその家族を守る。それこそ大国や巨大犯罪組織が後悔するくらいの手段で。志賀倉を雇い入れることができたら五十年は安泰である──だもんな。ときの権力者が大枚叩いても引き込みたい気持ちはよくわかるよ」


 確かに権力者からの依頼は多いし、一度引き受けたなら己の人生を捨てても家族を守る精神でいる。とは言え、うちにはそれほどの力はないのが現実だ。


 大国が本気を出せば簡単に潰れるし、巨大犯罪組織の陰険を全て弾き返すなんて不可能だ。そんな優秀な人材が揃っている訳でもなければどんな手段も取れる訳ではない。だってそうでしょう。世間でどう言われてるかは知らないが、うちは基本、家事応援の家政師派遣業社でしかない。学園──私立の家政学校ね───の生徒もほとんどが一般生徒。魔力を持つ者や特殊能力を持った者は一割もいない。誰彼構わず依頼は受けないし、ちゃんと身の丈にあった依頼を受けているのだ。


「そう言う噂を信じて依頼してくるバカが多くて困ってるんだよね。しかも、うちを引き込もうとして学園の子たちにちょっかい出したり家族を脅したり、ほんと、メチャクチャだよ」


 そんなバカはあらゆる伝を頼って黙らすんだが、思った以上にバカが多くてバカなことをするバカがあとをたたないのだ。


「うちもそれなりの情報網は持ってるけど、国家には遠く及ばない。だからこの機会に国家の技術を学ぼうと思ってね。なんでも帝国の情報機関の人が講師に立つって言うからさ」


「帝国の情報機関と言うと、木陰こかげ一族か。あそこは戦闘能力は二十四忍群中、最下位だけど、情報収集や分析は二十四忍群中一番で世界でもトップクラス。世界大戦で負けなかったのは木陰がいたからと言うくらいだからね。確かに習っておいて損はないな」


「木陰、ね。服部と言い伊賀と言い、国の重要機関には必ずと言っていいほど忍が入ってるね。大丈夫か、この国は?」


 この国は帝国とは言っても民主主義国家。選挙で選ばれた者が影だの闇だのを使いこなせるのか? もしかして傀儡政治なねか?


「それを巧く活用しているのが梅学なんだよ」


「?」


「一族の子孫子弟が梅学と言う世界で腕を、技を磨き、お互いの力を肌で感じ、お互いの考えを知る。まあ、相互理解、牽制の場になっているんだよ」


「群雄割拠の間違いじゃないの?」


「まあ、そうとも言いね。でも、だからこそ天下統一の困難さがよくわかる。だったらよりよい地位を、よりよい仕事を受ける立場になろうとするワケさ」


「それっていいように飼われているってことじゃないの?」


 まあ、そんな社会でなければ忍業なんてやってらんないけどさ。


「それで平和が保たれるならいいんじゃないの。事実、この国は富んでるしさ」


 確かに、これと言った資源もない国が列強国と同等に渡り合ってるし、世界第二位の軍事力を持っている。魔導においても英国に並ぶ。そんな奇蹟のような国はここだけであろう。


「よりよい地位を狙う一族にしたら、権力者と繋がりがある志賀倉は魅力の的。しかも、次期当主であり服部の流れを組んでもいる。もう梅学ではそんな話題で持ちきり。いろんな一族がまーちゃんに注目している。噂ではまーちゃんを引き入れようと画策している一族もいるってさ」


 迷惑この上ないな。


「ふふ。道具使いが道具にならないでよ」


 悪戯っぽく笑う星華ちゃんに、ボクは肩を竦めた。


 志賀倉を使うと豪語しながら一年もしないで飲み込まれた者の多いこと。もう始祖の血すら消えてるよ。



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