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ホウキな俺が異世界で勇者やってます、全裸で。  作者: AQ(三田たたみ)
第八章 真実

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エピローグ(前) 旅立ちの朝

「ついにこの街ともお別れですね……名残惜しいです」

 肩口で切り揃えられたボブヘアの髪が、強い風に煽られて舞い上がる。それを華奢な手のひらで抑えながら、スミレは天高くそびえ立つ『塔』を見上げた。

 傍に控えていたスイレンが、さりげなく立ち位置を変える。主の盾になるべく、風の吹く方へ。

 寄り添い合う二人の影が、眩い朝日に照らされて西へと伸びる。その光景は、まるで一枚の絵画のように美しい。

 堅牢な城壁の外から眺めるアレディナの街は、今日も活気に満ち溢れていた。

 城門付近にはすでに入場待ちの行列ができている。彼らはこっちをチラチラと気にしつつ、止まらないおしゃべりに精を出す。

 しかし俺たちのいるこの一画だけは、静謐な空気に包まれていた。

 短くも過酷な旅を思い出しているのだろうか。二人の美少女は切なげに目を細める。今にも零れ落ちそうな涙を堪えるように、唇を噛み締めて。

 そんな二人を見送るのは、アジトのメンバーだ。

 まずは巫女様のボディガードを完璧に務めた、門番のお兄さんズ。

 二人ともチョコの口添えで階級があがった。質素な兵服の胸には、煌びやかな勲章がくっついている。

「給料が溜まったら王都へ遊びに行くからな!」

 しんみりした空気を吹き飛ばすように、ガハハッと笑う陽気なお兄さん。

 偉くなった結果、新たに十人もの弟子ならぬ部下ができたと大喜びで、日々生活をエンジョイしているらしい。増額された給料はすべて弟子との遊興費に回されてしまい、貯金が溜まる気配はなさそうだ。

「くれぐれも無茶なことはなさらないように……」

 胃のあたりを抑えながら切々と訴えるのは、真面目なお兄さん。

 人と接することの少ない早朝番から、中間管理職にランクアップした結果、日々プレッシャーが増しているらしい。

 俺は激励の意味も込めて、お手製の『紫の乙女と赤髪の女剣士』人形をプレゼントしてみた。ソレを見れば、多少の激務も乗り越えられるだろう。「あの二人に振りまわされるよりはマシ」という意味で……。

「まあ、この街にもまた遊びに来てください。来年の女神生誕祭でお待ちしてますよ!」

 日に焼けた顔をしわくちゃにして笑い、一本の竹箒を掲げてみせたのが、シューマさんだ。

 その竹箒は、まさしく俺と見紛うほどの逸品。

 無事シャバに戻ったシューマさんは、スリ師を廃業し、新たに『竹箒店』を始めた。

 手先の器用さと、ホンモノの箒である俺の指導を受けたその出来は素晴らしく、今や神殿の女神印ブランドを抑えて町一番の人気店だ。奥さんも「本当に皆様のおかげです」と涙ながらに喜んでくれた。

 二人は辺境伯邸の住み込み管理人にもなった。きっとこれからあの豪邸で、第二の新婚生活を満喫するのだろう。

「ではお気をつけて行ってらっしゃいませ、チョコ様、皆様」

 雇い主であるチョコを中心に、丁寧なお辞儀をするシューマさん夫婦。チョコは力強く頷いて、紅いローブを翻した。

「じゃあ行くわよ、スミレ、スイレン!」

「はいッ!」

「おお!」

『オー! ……って、なんで俺のこと呼んでくんねーの?』

 充電満タン、華麗に箒化した俺は、チョコの右手に握りしめられたまま、情けないテレパ声を漏らした。

 チョコと俺は、スミレたちと共に王都へ行くことになった。

 もちろん護衛として小旅行するってわけじゃない。向こうにしっかり腰を落ち着けるつもりだ。

 というのも、記憶を失った人たちの魂に、『ヨシキオニイチャン』なる人物への畏怖が刻み込まれてしまったせいで……。

 ニンゲン姿の俺が街を歩くだけで怯えて逃げられて、中には「お布施」とか言って財布を差し出す奴もいて……普通に暮らしていけない。

 魔女の家に戻るという選択肢もあったけれど、辺境の地だけにやはり情報の遅さがネックだ。本気で魔界を目指すなら、例の『儀式』を使わずに空を飛ぶ方法を探さなければならない。

 するとタイミング良く、チョコが卒業した魔術学校から講師の依頼が舞い込んだため、チョコは一年の契約を結んだ。ついでに立派な一軒家も提供してくれるというので、俺もハウスキーパーとして付いて行くことになった。

 それにしても、チョコが本当に『先生』をやるなんて、想像がつかない。

 きっと生徒たちは、日々グングニルに追われることになるのだろう。ご愁傷様……。

 と、他人事のように傍観できない事態になってしまった。

「どうせならヨシキも通いなさいよ。そうすれば魔術の基礎が身につくし、突然箒から人間に戻ったりしなくてすむようになるでしょ? もちろん私も、思う存分鍛えてやれるしね!」

 ってことで、俺は来月から季節外れの転校生になるのだ!

 ……正直、全く先が視えない。

 王都の魔術学校は、世界にも名だたる名門校。しかもチョコが指導するのは、貴族の子弟をメインとする特別クラスらしい。

 素行の悪さには定評のあるこの俺が、金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんと肩を並べて仲良くお勉強だなんて、考えただけでぶるってしまうけど、まあそれはさておき。

 チョコがこの地を離れるとなると、問題は防衛面だ。

 魔獣軍を撃退したとはいえ、隣国アゼリアの脅威は去っていない。本物の人間による軍隊がいつ攻めてくるとも限らない……。

 そんなことを考えながら、東の方角を見やると。

「ウォ――ン……」

 遥か遠く、魔女の森あたりから狼の遠吠えが聴こえた。

 仲間たちはもちろん、入場待ちの一般市民も、その声に震えあがったりはしない。あれは俺たちの旅路を激励する一吠えだと気づいているから。

「本当に不思議なものですわね。まさか魔獣がこの街を護ってくださるなんて」

 感慨深げに呟いたスミレに、その場にいる全員が頷いた。

 チョコが抜けた穴をどうするか――そこに登場した救世主が、カッコイイ狼王だ。

 賢者の箒が仲介した結果、チョコとの交渉はあっさり成立。彼らは魔女の家から東側エリアを居住区として渡された。

 あそこは元々辺境伯領でありながら、アゼリアと隣接するという理由から人間は住めない危険なエリアだった。そこに頼もしい狼一族と、狼の手下についた魔獣たちが住んでくれれば、一石二鳥。見事アゼリア軍を撃退した暁には、村人からステーキが振る舞われるというボーナス契約付き。

 ちなみに白髭の村長は「ワシには狼の言うことがなんとなく分かる。彼らは魔獣ではなく〝聖獣〟と呼ぶべき存在じゃ」とか言って、村人たちを安心させていた。

 もしかしたらあの村長は、本物の〝賢者〟なのかもしれない。初めてロボと対峙したときも、まったく動じてなかったし……。

『まあ、彼らに任せればひとまず安心だな』

「でも彼らに頼るのは最後の手段よ。私たちの街は、私たち人間が護らなきゃ」

 俺のテレパ声に反応したわけじゃなく、自分に言い聞かせるように呟いたチョコに、やはり全員が頷く。

 今回の事件をきっかけに、街の人々の意識も変わった。

 何かあったら『チョコ様に頼ればいい』とか『女神様に縋ればいい』という日和見さが薄れ、剣や魔術の鍛錬に精を出すようになった。小さな子どもたちの間にすら、竹箒を使ったチャンバラごっこが流行している。

「そうですわね。今度の〝辺境伯代理〟はとても良さそうな方でしたし、きっとこの街を正しい方向に導いてくださるでしょう」

「そうね。その点は同意するわ」

 スミレの発言に対し、チョコは吹っ切れたような笑みを返した。

 もう一つ、頭の痛い問題だった街の運営についても無事解決した。

 俺が美味い手料理を持って地下牢に通い詰め、「シャバはいいですよー」と囁き続けた結果、〝ネズミの主〟こと枢機卿が引き受けてくれることになったのだ。

 ただし、亡くなったお兄さんが本物の〝枢機卿〟であるという嘘を貫くことと、自分はあくまで裏方に回ること――表の顔を立てるという条件で。

 新たな辺境伯代理は、彼の鋭い目で『嘘をつかない』誠実な人物が選ばれた。

 それがなんと、俺の知っている商人のおじさんだった。初めてこの町に来た際、原始人スタイルの俺に優しくしてくれた人だ。

 この二人のタッグなら、きっと善政を敷いてくれることだろう。

 もう全裸ごときで無実の人間が逮捕されることはないはず……と思いつつ、俺が触手をくねくねさせていると。

『ねー、はやくーはやくー。ぼくもう走っていいよね? っていうか走っちゃう!』

 不意に届いたテレパ声。人間耳には「キャンキャン!」という可愛らしい犬の鳴き声に聴こえているに違いない。

『ちょっと待て、ロボ、伏せ!』

『うう……ヨシキ兄ちゃんのいじわる……』

 拗ねたように尻尾を丸めて座り込んだのは、俺の弟分ことロボ。

 俺たちが王都に行くと聞き、いてもたってもいられなくなったロボがまた脱走したという知らせを受け、お説教に行ったのがつい先日のことだ。その際「ぼくのこと置いてかないでよぅ……」とあまりにも悲しげな声で泣くので、ついほだされてしまった。

 ひとまず俺の魔力を与えてイメージ力を鍛えた結果、ちょっと大きなシベリアンハスキーに変化する方法をマスター。どうせなら犬ぞりとして活躍してもらうことになった。

 ちなみに狼王からは、ロボが雌であることをこっそり聞かされ……俺はゴマ太郎以来のショックを受けた。

「何なら嫁に貰ってくれてもいいぞ、賢者殿?」

 とか言われたけれど、そろそろ俺もキャパオーバーなので勘弁して欲しい。

 ……ということで。

 ロボの引く荷車に乗り込み、見送りの四人に手を振り、城門の脇にドーンと設置された『竹箒の銅像』から目を背けつつ……俺たちは王都へと出発した。

※次回で最終話となります。

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