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ホウキな俺が異世界で勇者やってます、全裸で。  作者: AQ(三田たたみ)
第八章 真実

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その2 魔王降臨

「やっと呼んでくれた……会いたかったよ、ヨシキお兄ちゃん!」

 闇に包まれる『空中』で、光のリングを背にしたルゥがにっこりと微笑んだ。もみじのごとき小さな手を無邪気に振りながら、こっちへ近寄ってくる。

 俺は呆然としたまま、愛らしいその姿を見つめることしかできない。

 あのワンピースは、病院で出会った日に着ていた服だ。ツインテールも、髪を結ぶ黒いレースのリボンも、俺が一番可愛いと思っていたもの。

 人間界へ落とされたときから、毎日のように胸に思い描いていた、本物のルゥの姿だった。

 だけどルゥは、空なんて飛べなかった。

 たぶん俺が居なくなってから、必死で修行を重ねたんだろう……甘えを捨てて、強くなることだけを目指して。そう思うと自然と胸が熱くなる。

 俺の血で汚れた祭壇の上へ、二人は音も無く降り立った。

「ヨシキお兄ちゃん!」

 ルゥはセバスチャンの手を振りほどくや、さも当たり前のように俺の胸へ飛び込んできた。

 ……腹が裂けて血まみれのボディに。

 激突のショックで一瞬魂が抜けかけたものの、その後は強制的な『癒やしタイム』へ突入。

 肉体的な痛みを麻痺させるほど、ルゥの魔力は心地良かった。小さな身体からとめどなく溢れ出す、〝魔力の原液〟とも呼べるほど濃厚な魔力に包まれて、呼吸が一気に楽になる。

 と同時に、ようやく頭がまわり始める。

「ルゥ、お前、どうしてここに……?」

「ごめんね、ヨシキお兄ちゃん。ホントは全部分かってたの。るぅ、お城からずっと見てたんだよ。ヨシキお兄ちゃんが〝汚らわしい人間〟のせいでひどい目にあうところ、全部だよ」

 そう言ってルゥは、スッとその双眸を細めた。ツインテールに結わえた黒髪が、風も無いのにゆらりと揺れて宙へ浮かびあがる。

 コレはいわゆる『怒髪天』ってヤツだろうか……可愛いけど、ちょっと怖い。

「待ってね、今すぐ助けてあげる!」

 そう言ってルゥはふわりと飛び、俺を縛りつけていた十字の丸太に指先を触れ――

 気づけば俺は、地面の上にいた。

 俺を支えていた丸太も、両手に打ちつけられていた極太の杭も、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。

 残されたのは、生きているのが不思議なくらいのニンゲンだ。穴の開いた両手に、脱臼した両肩、そして中身が飛び出そうな腹。

 非情にホラーなビジュアルだが、どうやら命に別条は無いらしい。ルゥの魔力に触れたおかげか、自力で立つこともできるし、血が流れだすのも止まっている。

 少しだけ余裕ができた俺は、軽く周囲を見渡してみた。

 俺を殺す気満々だったサディスト野郎は――儀式の贄となったようだ。虫けらのように地面へ転がるその身体からは、すでに魂が消え失せていた。

 奴を裏で操っていた〝蛇〟は、地面にへたり込み、茫然自失状態で二人を見つめている。顔に張りつけた笑みを消し去り、だらしなく涎を垂らして。

 他の奴らは全員、氷の彫像と化していた。

 彼らは本能的に理解しているのだろう。泣いたり叫んだり逃げ出そうとしたりして、二人の注目を浴びれば、目が合った瞬間に恐怖のあまり魂が潰えると。

 いや、ルゥの視線にはまだ〝人間らしさ〟が残っている。

 問題は、悪魔女ことセバスチャン。

 とはいえ、今のところニンゲンに何かするつもりはなさそうだ。直立不動の無表情といういつものスタンスで、ルゥの行動を見守っている。

 この場にいる数千という生命の中で、自由に動いているのはルゥだけだ。

 ルゥは再び俺の胸に飛び込むや、上目遣いでちょっと拗ねたように呟く。

「ホントのホントはね、何回もヨシキお兄ちゃんのところに行こうとしたの。でも、セバスお姉ちゃんがダメだって。『ヨシキお兄ちゃんは自分で何とかするだろうから、信じてあげなさい』って。今は虫さんくらい弱いけど、少しずつ強くなって、ルゥを守れる〝ナイト〟になってくれるからって」

「……ルゥ様、その件は口になさらないでくださいとお願いしたはずですが」

 初めて口を開いたセバスチャンが、こめかみに手を当ててはぁっとため息をついた。ルゥに影響されたのか、しばらく見ないうちに感情が表に出やすくなっている気がする。

 っていうか、まさか。

「アンタも、俺のこと、信じてくれてたのか……?」

 ヤバい、想定外過ぎて素直に喜んでいいのか分かんねぇ!

 ツンデレか? これがツンデレってヤツなのかッ?

「――調子に乗るんじゃない、箒」

「うぐッ……」

 生温い人間界に浸りきっていたせいか、一睨みされるだけで魂が抜けそうになった。

 やっぱりこの女は全世界最強だ。

 つーか良く言い返せてたな、昔の俺……。

 やっぱり魔界にいるときの俺はそこそこ強かったのかもしれない。こうして脅されても、謎の水で対抗できてたもんな……。

 そんな俺の思考を読んだのか、ルゥが黒曜石の瞳をうるうると潤ませて、可愛らしいおねだりを一つ。

「ねぇ、ヨシキお兄ちゃん。いっしょにお城戻ろう?」

「ルゥ……」

「だって、〝汚らわしい人間〟なんかと一緒にいたら、またひどい目にあわされるよ。それより、るぅと一緒にいた方が楽しいよ?」

 グラリ、と心が揺れた。

 でもそれは仕方ないことだろう。

 俺は〝女神〟を信じられなくなった。そして女神以上に、ニンゲンが信じられなかった。頑張ったのに裏切られたと思った。

 チラリとセバスチャンを見やると、「好きにしなさい、箒」という顔をしている。

 どうやら俺の奮闘は、悪魔女をもデレさせたらしい。それなら頑張ったかいがあったというものだ。

「ヨシキお兄ちゃん?」

「ああ、うん、考えてる。ちゃんと考えてるよ」

 魔界に行けば俺は最強の『ハウスキーパー』だ。濃厚な魔力は常にフル充填。それなりに楽しく、安定した暮らしができる。

 対する人間界は、苦しいことばっかりだ。強敵と戦って、人間の〝汚らわしい〟部分を見せつけられて。

 だからこそ、修業先としては相応しいのかもしれない。

 何よりこの世界には、先の見えないワクワク感があって、キラキラした綺麗な心に触れたときの喜びがあって……。

 でもルゥは、俺にとって唯一の家族だ。人間界でどんな事件に巻き込まれても、あの約束は――ルゥとともに地球へ戻るという目標は、俺の確かな支えだった。

 そして今、ルゥは『命の恩人』にもなった。もらった恩は倍返しってのが俺のポリシーだ。

 思い悩んだ末、俺が一つの結論を告げようとしたとき。

「――アンタら邪魔! さっさと退かないと殺すわよ!」

「――女神の名において命じます、速やかにここを通しなさい!」

 聴き覚えのある二つの声が、広場に響き渡った。

 陰鬱な魔力に満ちていた空間に、微かな光が差し込む。目にしただけで身体の痛みが和らぐ、春の陽だまりのように優しい光だ。

 二つの光は凍りつく人々を蹴散らし、俺の前へと躍り出た。

「ヨシキ!」

「勇者様!」

 はぁはぁと荒い息をつきながら祭壇へと上ってきたのは、女神に予言された二人の乙女だった。

※一部描写を修正しました。

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