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ホウキな俺が異世界で勇者やってます、全裸で。  作者: AQ(三田たたみ)
第六章 集結

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その1 狼少年と箒

 人間をやめた俺は、ある意味最強だった。

 なんと言っても、チャームポイントはしなやかでスリムなこの身体!

 暖炉の中ではちょっと突っかかったものの、細い地下通路もするりとすり抜ける。

 その先は、ペットボトルロケットのごとく音速ジャンプ!

 下から見ても鳥としか思われない程度の高さに来たら、今度は東へダッシュ!

 ……という感じで。

 馬車で進むより百倍早く、わずか十分程度で〝魔女の館〟へ到着してしまった。それでもスミレの癒やしパワーを受けたおかげか、竹筒の中にはたっぷり魔力が残っている。

 玄関の鍵を触手の先でちょちょいのちょいと開けながら、俺はついさっきの出来事を思い出す。

『……しかし、スミレには悪いことしちまったなぁ。いきなり箒化して逃げるなんて』

 もちろん、スミレのことを嫌いなわけじゃない。治療のためとはいえあんなことをしてもらったわけだし、大事な命の恩人だと思ってる。

 でも今はそれどころじゃないし、それに……。

 チョコ。

 俺の大事な雇い主。大事な師匠。大事な相棒。

 チョコを見失っている今、俺のメンタルは自覚している以上に不安定だ。スミレも不吉な予言に怯えていて、自分を守ってくれる『勇者』に寄りかかろうとしているように見える。

 だから一旦、この件は棚上げさせてもらう。

 先のことを考えるのは、目の前の問題が全部クリアになってからだ……。

 触手をブルッと振って気合いを入れ直し、俺は魔女の館の家探しを開始した。

 毎日掃除しまくった場所だ。異変があればすぐ分かるし、逆に異変が無ければそれも分かる。

 小一時間かけて地下ダンジョンの隅々まで調べたものの、チョコの痕跡は見つけられなかった。

 たぶん俺が連れ去られてから、チョコはこの家に戻っていない。逃げた刺客を追って、着の身着のままで飛び出したのだろう。

『しょうがねぇ、村に行ってみっか……でも真っ昼間に箒姿で村の探索はできないよな。かといって人間に戻ってあの機動力を失うのも惜しいし。そもそも人間に戻るなら魔力空っぽにしなきゃだし』

 テレパ声でぶつぶつ独りごちつつ、俺は地下のペット魔獣たちに餌を与える。

 箒を手にした俺が通るとギャンギャン吠えていた一番生意気な銀色狼ですら、今日は「ぎゃうーん……」と情けない声をあげて、鉄格子に鼻づらを押しつけてくる。数日飯を抜かれたのが相当応えたのだろう。

 彼らの世話はいつもチョコがやっていて、何を食わせたらいいか分からなかったので、とりあえず氷温倉庫にあった肉やら野菜やら、以前仕込んでおいたレトルト食品やらをありったけ与えた。

 ……しかし、これからどうするべきか。

 この先俺は、チョコを探して西へ旅立つことになる。となると毎日ここに来るのは無理だし、かといって誰かに世話を任せるわけにもいかないし。

 ペットを飼うってことは責任を伴うものだと、あらためて実感する。

『まあ出発前にもう一回来て、食材たんまり置いていくか……お前らも早くチョコに戻ってきて欲しいよな? だったら良い子にしてるんだぞ?』

 そう言って、伸ばした触手で銀色狼の頭をなでなでしてやる。

 触手じゃもふもふ感は伝わらないものの、小山のように巨大な狼が気持ちよさげに目を細めている姿を見るだけで充分癒やされる。

『なんだよ、お前急に可愛くなりやがって。俺が餌やったからか?』

『うん!』

『そうかそうか、だったらチョコにも懐いてやってくれよ』

『ヤダ。だってアイツ、ぼくのキライなご飯ばっかり出すんだもん。キライってゆったのに聞いてくんないし……』

『好き嫌いすると、でっかくなれねーぞ?』

『うー……』

 という会話をナチュラルにかわした後、俺は小首を傾げる感じで竹筒を傾けた。

 ――なんで俺、狼と喋れてるんだ? テレパ声のせい?

 素朴な疑問はさておき、俺は貴重な人材ならぬ獣材ってことでリサーチしてみた。どう見ても〝ぼく〟の一人称が全く似合わない、鋭い爪と牙を持つ巨大な狼少年に。

『なあ、お前チョコの匂いとか分かんねぇ? どこにいるか探したいんだけど』

『うん、分かるよ!』

『え、マジで? それ追っかけられるか?』

『追っかける! だから外出して!』

『出した途端、俺のこと食ったりしねーだろうな』

『兄ちゃん不味そうだから要らないよ。ニンゲンもそんなに美味しくない。ぼくは牛か豚か鳥がいいな! できれば軽く火であぶったの! さっきもらった牛のお肉も、もうちょっと焼き加減弱めにして、甘酸っぱい果実のソースをかけたらすごく美味しくなるよ!』

 そう言って、だらだらと涎を垂らした狼少年。俺はそのレシピを今晩さっそく実践してみようと思った。


 ◆


『うわぁぁぁぁーーーーいッ!』

 という無邪気な叫び声が、森の中にこだまする。

 たぶん人間耳で聴いたら「グギャルルルルルルァ!」とかいう凶暴な鳴き声になるのだろう。

 その鳴き声にビビったのか、森に暮らす無垢な獣たちが一斉に逃げて行く。中には気を失って仮死状態になるヤツもいる。

 いたいけな小動物たちには眼もくれず、狼少年は森の小道を駆け抜ける。木々をバキバキとなぎ倒し、小道を〝大道〟に変えながら。

 チョコに捕まってから二ヶ月ぶりのシャバに出られた狼少年――俺が〝ロボ〟と名づけた彼は、とにかくはしゃぎまくっていた。

 ダッシュのスピードは箒の俺をも凌駕する。背中の毛に触手を四十本ほど絡めていなければ、あっという間に振り落とされてしまいそうなほどだ。

 結果、人の足だと急いでも十五分はかかる国境の村まで、瞬きする間に到着。

『ヨシキ兄ちゃん、ついたよ!』

『いや、村に寄れとは言ってないぞ。チョコのいるところに直接連れてけって……』

『うん、だからここにいるよ! ほら、あそこ!』

 人間耳では「グギャルルウウウウ!」という感じで、にこやかに返事をしてくれたロボ。

 しかし俺は……顔面蒼白になった。

 確かにチョコは、そこにいた。村の入口からすぐの、普段なら露天商たちで賑わうはずのメインストリートの真ん中に。

 村人は、一人もいなかった。

 道端には放っぽり出されたままの商売道具が残り、逃げ遅れた乗合馬車の馬が膝を折ってぶるぶると震えている。

 閑散とした街並みを背景に、チョコがゆっくりと歩いてくる。

 トレードマークの深紅のローブに、宝石のついた杖。太陽よりも眩い黄金の髪に、宝石よりも美しいエメラルドの瞳。そして自信に満ち溢れた不敵な笑み。

 堂々たるその姿は、まさにこの世界の王者であり、捕食者だった。

 はしゃいでいたロボも『なんか怒ってるっぽいよ……』と囁き、丸太のように太い尻尾を股の間にしまう。俺も久々に謎の水が漏れそうだ。

『よ、よし、ひとまず話しかけてみよう……姿形が違えども、愛弟子の気配くらいは察してくれるはず……おーい、チョコー!』

『美味しくないご飯くれるチョコお姉さーん!』

 ……。

 ……。

 おかしい、チョコの歩みが全く止まらない。

 それどころか、高く掲げた杖の先には――グングニル!

『ロボ、右へ飛べッ!』

『うん!』

 魔獣ならではの俊敏な動きで、滑るように飛び退くロボ。

 グングニルが突き刺さった場所を見やれば、地面がボコボコと煮立っていた。コンマ一秒でも遅ければ、俺は竹炭に、ロボは焼肉になっているところだった……。

 なんて、ホッとしてる場合じゃない!

 俺はロボに『右!』『左!』『後ろ!』と次々指示を出しつつも、頭の中はパニック状態だった。

 行方不明のはずのチョコが、むちゃくちゃ元気な姿でここにいる。それが嬉しいはずなのにちっとも喜べない。

 今はまだいいけれど、そのうちロボも動きが鈍る。

 対してチョコは、グングニル百発以上が内臓された人間兵器なのだ。どう考えても分が悪い。

 ちょこまかと逃げ回りつつも、俺たちは必死でテレパ声を飛ばした。

『チョコ! 俺だ! ヨシキだ! 箒じゃなくてヨシキ!』

『ぼく、ロボ! ヨシキ兄ちゃんに名前つけてもらったの!』

 するとチョコは、ようやく口をきいてくれたのだが。

「フン、ちょこまかと小賢しい……この動き、誰かさんを彷彿とさせるわね。っていうかアンタ檻からどうやって抜け出したのかしら? まあ脱走するような悪い子は……殺すわ」

 ――ノオォォォォォッ!

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