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ホウキな俺が異世界で勇者やってます、全裸で。  作者: AQ(三田たたみ)
第五章 予言

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その4 スミレの決意

 神託。

 その言葉を耳にしても平然としているのは、ある程度予想していたシューマさんと俺のみ。他のメンバーは唖然として息を呑む。

 どうやら側近であるスイレンにも目的が秘されていたらしい。それほどまでに、神託というのは重いものなのだろう。

 だけど、俺にはいまいちピンと来なかった。

「悪い、俺まだこの世界……いや、この国のことあんまし知らなくてさ。その神託って何なんだ? そこまで大事なモノなのか?」

 心に浮かんだ素朴な疑問をスミレにぶつけてみると、スミレはこくんと小首を傾げて。

「そうですね。神託とは、わたくしの生きる意味と言っても過言ではありません」

「はぁ……」

 アホ丸出しで生返事する俺に、スミレは丁寧に解説してくれる。

「神託というものを言葉で表すなら、“光の柱”でしょうか。雨上がりに虹がかかるように、ふと気付いたとき巫女へと降り注ぐ光です。そしてその光は、世界を照らす光でもあります」

 ……やべぇ、さっぱり分かんねぇ!

 チラリと周囲を見渡すと、全員がうんうんと頷いている。俺はひとまずその流れに乗って、訳知り顔で頷いてみた。

 するとスミレは、クスッと笑みを漏らして。

「もう少し分かりやすい例え話をしますと……もしわたくしたち巫女が『箒』だとしたら、神託は『チリトリ』でしょうか。ゴミは気づけばいつのまにか部屋に溜まるもの。そのゴミを、箒とチリトリで掃き出すことが、わたくしたちの仕事なのです」

 ――おお、ようやく分かったぞ!

 今度こそ本気でうんうんと頷くと、周囲はちょっと引いていた。スイレンは、それこそゴミを見るような目で俺を睨んでくる。

 俺はその視線をさらりとスルー。

「つまり、巫女様たちは『神託』って道具を使って、この世界を大掃除してるってことか」

「はい、その通りです」

 にっこりと微笑むスミレに、俺もニヤリと笑い返す。同じ掃除業者として、なんとなくシンパシーを感じつつ。

 しかしスミレは、その笑顔をスッと曇らせて。

「……王都の神殿には、『大巫女様』と呼ばれる七十過ぎの偉大な巫女様がいらっしゃいます。その他の巫女たちは、大巫女様の取りこぼした小さな光を拾う程度。むしろ『癒やしの手』で病人の治癒をすることがほとんどでした」

 しだいに暗く沈んでいくスミレの声。俺はちょっとだけ同情してしまった。

 地球で例えるなら、七人組のアイドルグループだろうか。センターの子だけがマイクを持って歌って、スミレは端っこでダンス踊ってるだけ、みたいな……。

「巫女の中でも一番若く未熟なわたくしに届く光はわずかです。大巫女様から伝えられる神託も解釈が難しく、わたくしは巫女としての自信を失いかけておりました。しかし、このたびの神託は――光の柱は、大巫女様ではなくわたくしに降りたのです。わたくしの胸の中だけに」

 童顔な面立ちにそぐわぬ豊かな胸の前で手を組み、スミレは長い睫毛を震わせた。

 その姿は誰もが息を呑むほどに清廉で美しく……仰々しい巫女服を着ていなくても、確かに聖職者だった。

 いや、俺にとっては、突然センターに抜擢されたトップアイドルだ。

 キラキラして眩しくて仕方ねぇ……。

 なんて、のんきなことを考えていられたのは、そこまでだった。

「今から皆様に、その神託をお伝えいたします」

 自然と全員が背筋を伸ばし、居住まいを正していた。

 可憐な唇から紡がれる祝詞のような言葉が、全員の胸に染み込んでいく。


『東の塔に、悪魔が降りる。

 悪魔の怒り、嵐のごとく。

 地上の宝、奪い去らん。

 宝を地上に、とどめる者は。

 金と紫、二人の乙女』


 俺たちは何となく顔を見合わせる。字面を追うだけで背筋が寒くなるほど、不気味なポエムだった。

 皆が抱いた不安を裏付けるかのように、素に戻ったスミレが淡々と告げる。

「未熟なわたくしなりの解釈ですが……まず『東の塔』とは、この街の神殿の塔を指します。そして『悪魔』とは魔物のことでしょう。『嵐のごとく』ということは、相当な数が現れるに違いありません」

 その瞬間、俺の頭に一つのイメージが湧き上がった。

 千年前、この世界と魔界を結びつけていたという〝穴〟と、そこから続々と現れる醜悪な魔物たち……。

「悪魔が奪おうとする『地上の宝』とは、人々の命かと思われます。女神にとって命こそが最も尊いものですから」

「まさか、そんな……!」

 最も繊細なシューマさんの奥さんが、くらりと倒れそうになった。その肩をシューマさんが力強く支える。

 門番のお兄さんたちも固く唇を引き結び、精悍な兵士の顔に戻る。当然スイレンもだ。

 もちろん、俺自身も。

「ただし、救いは残されています。宝を守る『金の乙女』とは、チョコ様しかありえません」

 なるほど、そういうことか……。

 だからスミレは『この場所』をアジトに選んだのか。少しでもチョコの手掛かりを求めて。

「スミレ様、その……もう一人の乙女、とは……」

 おずおずと口を開いたのは、俺の対面に座った赤髪の少女だ。クッキリとしたアーモンド形の瞳が、なぜか涙で潤んでいる。

 それを見たスミレは、ちょっと遠慮がちに微笑んで。

「もう一人、『紫の乙女』がわたくしと断言することはできませんが……」

「――スミレ様に決まっております! この街を魔物から救うべく女神に選ばれた貴女を、このスイレン、全力でお守りします!」

 使命感に燃えるスイレンが、赤髪を振り乱しながら力説する。

 スミレは軽く苦笑した後、一人一人の顔を見つめながら話を締めくくった。

「魔力を持たないわたくしが、悪意に対して無防備であり、危うい立場だということは理解しております。ただ、女神はチョコ様を求められているのです。皆様には一刻も早くチョコ様を見つけていただき、この街へお連れして欲しい。それがわたくしの願いです」

「分かった、任せろ!」

 俺の叫びと一秒のズレも無く、全員がしっかりと頷き合った。互いが『戦友』になったような気分で。

 使命感に高揚するメンバーに対し、スミレは肩の荷が下りたという感じでホッと息をつき、可愛らしい女の子の顔に戻って。

「皆様、ありがとうございます。わたくしも微力ながらお手伝いをしたいのですが、この姿で街を出歩くとなればどうしても目立ってしまいます。ですから……スイレン、剣を」

「スミレ様、しかし」

「時間が惜しいのです、早く出しなさい」

 おっとりした口調から一変。スミレの声は抗いがたい迫力を以って、スイレンを打ちのめした。

 力無く肩を落としたスイレンが、先程俺に突きつけてきた短剣を差し出すと。

「ではこれより、わたくしは巫女ではなくなります。皆さまも、遠慮なく『スミレ』とお呼びくださいね?」

 全員が唖然として見守る中、スミレは短剣を高く掲げ――自らの首筋へ振り下ろした!

 ザクリ。

 と、切れたのは当然スミレの首じゃない。長く美しい紫色の髪だ。

 スイレンは、瞳をうるうるさせながら御髪を受け取る。一方スミレは「あー、すっきり!」といった明るい顔をしている。

 対称的な二人の美少女を見つめながら、俺はチョコに教わった〝社会常識・魔術師編〟を思い出していた。

 チョコを含め、この世界の女性は皆髪を伸ばしている。

 髪には魔力が宿るとされていて、長い程にパワーが増すからだ。そのため女性には強い魔術師が多い。

 しかし、男性はさほど髪に魔力を左右されない。そもそも女性に比べて抱え込める魔力の絶対量が少ないし、生身の身体を鍛える方が強くなれるため、剣士になる者が多い。

 つまり冒険者のパーティは、剣士の男と魔術師の女という組み合わせがテンプレなのだ。

 もし長い髪の男が街を歩いていたら、相当強力な魔術師と思われるだろう。

 そして短い髪の女は……。

「これでわたくしも、立派な『女剣士』になれましたわ。ではさっそく剣と鎧を買いに行きましょう」

「ううッ、こうなっては仕方がありません。スミレ様を最高に美しく魅せる品をお選びしなければ!」

 と、盛り上がる二人にツッコミを入れたのは、このメンバーで一番長い人生を歩んでいるシューマさんだった。

「あのー、巫女様、いやスミレ様。ちなみに剣の腕前の方はいかほどで……」

「今髪を切ったのが初めてです」

「へっ?」

「意外と上手に切れましたでしょう? わたくしには、剣の才があるのかもしれませんわ」

 うふふ、と微笑まれてシューマさん夫妻は絶句。

 門番の真面目なお兄さんは胃の辺りを擦っている。たぶんこれから彼は、スミレに剣の指導をする羽目になる。怪我をさせないよう慎重に。ついでに武器選びと街歩きの常識も教えつつ、ボディーガード業もしつつ。

 陽気なお兄さんは、ガハハッと大笑いした後「さて、俺は仕事行ってくるかな」と素早く立ち上がった。

 となると、俺の役割は……。

「今からチョコん家に行ってくるわ。何か俺へのメッセージが残ってるかもしれないし。その後は国境の村にも寄って、戻れるのは三日後くらいかな。では皆、健闘を祈る!」

 ――ニセ勇者は、めんどうな仕事から逃げ出した!

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