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STAGE 3-33 戦場の修行場

7月9日 14:21



 成り行きで連れてきた男と共に、三人の道士が住処である異空間へやってきた。

 彼らは仙人。基本的には己の力を高め、超人としてさらなる高みを目指す者たちである。弟子を取ることもあるが、実質的には雑用がほとんどだ。

 だが、元が為政者であり、相手の欲を見抜く太子様――豊聡耳 神子は、関わった相手に素質があると判断した場合、『見込みがある』と勧誘することがあった。才覚のある人間の才能を伸ばしたい……後継者を持たず仙人と化した彼女は、しかし他者を鍛えたいとの欲は捨てきれなかった。気まぐれで妖怪から人を助けることなども、そんな彼女の気質からなのかもしれない。

 今回屠自古が救援を求めたのは、特に魔術や妖怪退治屋としての素養を持った弟子のいる空間だった。彼らには学び舎替わりの異空間を提供し、そこで修行と称して、本人の適正に応じた神秘を教えていた。言い方は悪いが実際に弟子になれた人間がいれば、見込みのない……小間使いにしている弟子たちにも面目が立つ。趣味と実益を兼ねた場所であったが、普段の光景はなく、戦場の形相を呈していた。


「た、太子様!」

「神子様だ! 助かるぞ!」

「みんな! 神子様が来てくださった! 怪我した人を優先して下げるんだ!! 前衛はもう少しだけ粘ってくれ!」


 弾幕戦を学ばせている弟子もいたおかげか、酷くやられているものの、壊滅は避けることが出来ている。布都が「よくぞ粘った! それでこそ我らの弟子であるぞ!」と声をかければ、感極まった様子で「勿体無きお言葉……!」と何度も頷く弟子たち。胸の内で布都に同意しつつ、神子は未だ戦火の内にある広場を見据える。

 渦巻く破壊の中心に、怨嗟を訴え吐き出し続ける欲望の一塊を見据えた神子は、屠自古に目くばせした直後、敵目がけて飛び出していく。置いて行かれた真次が声を上げた。


「お、おい! 一人でやるつもりか!?」


 仙人たちにはいつものことだ。弟子たちも困惑する中、厳かな面持ちで霊体の彼女が告げる。


「神子様のご意思を伝える。真次とやらは弟子たちの手当てを、布都は撤収を優先させよ。屠自古はこの言葉を伝えたのち、我に続けとのことだ! 布都!!」

「心得た! 我に任せるがよい! 往け!!」


以心伝心とはこのことか、迷いなく布都と屠自古が行動に移る。燃え盛る屋敷に布都が、神子と同じ方向には屠自古が飛んでいく。真次はやや遅れたものの、彼もまた声を発しながら己のすべきことを始めた。


「俺は医者だ! 怪我人とあいつらから弾幕を喰らったヤツは来てくれ! 処置する!」


 見知らぬ男の声であっても、屠自古の指示を受けた人々は素直に真次に従ってくれる。パッと見、重症患者が少なく見えるのは、弟子たちの中に治療系の神秘を学んでいた者がいたからだろう。外来の医者が手当てをしてると、彼らは自発的に真次を手伝ってくれた。

 外傷を負った人を治療しながら、怨霊に呪われてしまった人の解呪も忘れない。傷口についた黒い影を切り離し、悪意を切り離していく……


「布都様! どうですか!?」


 一通り処置が終わったところに、飛び出していた布都が戻ってきた。険しい表情を覗かせていた布都は、声をかけられた途端に繕った。


「うむ、もう生きている者はおらなんだ。……動けるか?」

「全員の手当ては済んだ。みんな、後は逃げてくれ」


 ……生きていた弟子もいたのだろうが、もう手遅れだった人もいた。察した真次は深くは聞かず、静かに歯を食いしばる。


「ですが、あなた方は?」

「太子様をお助けする」

「で、でしたら我々も――」

「愚か者! むざむざ命を棄てるでない!」


 太子様無しで甚大な被害を被っているのだ。残念ながら、彼らがいては足手まといになりかねない。真次も怨霊たちに対して強く出れるとはいえ、油断は決してできない相手なのだ。弟子たちに気を配りながら戦闘は不可能だろう。


「申し訳……ございません……! 我々は――」

「それ以上申すな、先ほども言ったであろう? 粘っただけでも十分とな。さぁ、早く!」


 無言のまま頭を下げ、修行場を弟子たちが去っていく。真次と布都の二人は一つ息を吐き出して、憂いが消えた事を見届けると、神子と屠自古が相対する敵へ意識を向けた。



7月9日 14:44

次回は戦闘パートでござい! 

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