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STAGE 3-30 黒い炎の病

まーた土曜更新失敗orz たるんでおります、すいません。

 7月9日 13:33



 もめ事に集まっている人影は、遠目からでも背の低い人々の集まりで、高めの声色からして、子供同士でのことだと察しがついた。

 ただ、端々に聞こえる声には、多分に悪意が含まれているように感じられた。一人の子供に対し、寄ってたかって浴びせかけられている言葉を、人里の門番も見ているだけで止めようとしない。


「何だろな?」

「さぁ……? どうします?」

「ちょっと俺は事情を訊いてみる。ウドンゲは先に人里回ってくれ」

「また首を突っ込むんですか」


 まただよ、と肩を竦めるウドンゲ。悪いとは思いつつ、真次としては見過ごすのはためらわれた。彼女も内心引っかかりを覚えているのだろうが、人里に配置してある置き薬を調べ、集金と薬の補充をする仕事がある。ここで余計な道草を食っている場合ではないのだ。


「異変に関係あるかもしれないだろ?」

「ないと思います。真次先生なら、異変でなくとも行くでしょう?」

「バレてるか……さすがは相棒だぜ」

「私より師匠の方が、お似合いだと思いますよ」


 軽口もそこそこに二人は別れ、ウドンゲは人里へ入り、真次は子供たちの所へ歩いて近寄った。彼らの言葉が明瞭になるにつれ、内容も耳に入ってくる。


「出ていけ~人里から出ていけ~! 黒い炎の病がうつるぞ~!」


“黒い炎の病”

 真次には心当たりがある。以前人里に来た際に、酒場で絡んできた退治屋が、突然黒い火に包まれて消えてしまった出来事だ。今回の異変を象徴する現象に、人里の人間が不安を感じているのだろうが……この仕打ちは目に余る。無言のまま、音頭を取っている子供の肩に手を置きながら話しかける。


「……何やってるんだ、お前ら」

「おぉっ、なんだお前!? 布都の仲間か!?」


 見知らぬ名前を吐きながら、いかにも大人をナメた態度で子供たちはこちらを見ている。囲まれていた一人の子供だけが、不審な目で彼らを眺めていた。


「布都? 誰だそいつ? 俺は永遠亭に来た医者だ。文々。新聞読んでないのか?」

「えー? しらなーい」


 幻想郷に来てから既にある程度時間が経っている。古い新聞の記事なぞ、よほどのことがなければ気にならないのだろう。ましてやクソガキじみた彼らには、派手な記事以外は流してしまって当然だ。苛立ちを見せぬようにしながら、じっと彼らの様子を観察していると、茶化すように別の子供が真次に突っかかる。


「お医者様なのぉ? だったらこの病気治せよ! なーおーせ! なーおーせ!」

「………………」


 怒髪天を顕わにし、このガキどもにお灸を据えたい本心を必死に抑えながら、紳士スマイルで彼らに問う。


「……お前らさ、これ病気だと思ってるんだよな?」

「そうだよ! もう何人も人里じゃ、人が黒い炎に巻かれて消えていってる。こいつの親父が持ち込んだんだ! 妖怪退治屋の親父が酒場で暴れて……それから人里に広がっていったんだ!」

「そ、それは……! 父さんだって好きで持ち込んだんじゃ……!」

「うるさい! お前の親父のせいだ! だから、ずっとそばにいるお前にも移っているんだ……っ! 大人たちもそう言ってる!!」


 ……どうやら、疎外されている子供は、以前の真次が絡まれた退治屋の息子らしい。そして、きっかけになった男から異変――“黒い炎の病”が広がってしまったと、責められているようだ。だから、門番も見て見ぬふりをしていたのか。ぎろ、と傍観者を一睨みした後、真次は淡々と語って見せる。


「……だったらさ、お前らこんなことしてていいのかよ?」

「えっ!? なんで!? 悪いモノは追い出さないと――」

「違う違う、移るんだったらさ……そんな風に積極的に絡んでたら、次に“黒い炎の病”にかかるの、お前らなんじゃねぇの?」

「うっ……!? え、いや、えーと……」


 思慮の浅い彼らは、その可能性を全く考えついていなかった。

 自分たちの不安をぶつける相手に、今度は自分がなってしまう可能性を。

 沈黙が降りる。恐怖が募る。あえて何も言わず、彼らの心の内から、充分に後悔と反省を引き出せたタイミングで、真次はにかっと笑って、安心させるように話した。


「大丈夫だ、これは伝染病じゃねぇよ。少なくとも、人から人へはうつらない」

「え!?」

「本当!?」

「嘘でしょう!?」

「あー……実は俺も伝染病じゃなくて安心してる。だってこれが伝染病だったら、もう人里は終わりだからな……」


 えーっ!? と子供たちから動揺の声が上がった。人里は人間が密集しており、人から人へと伝染するタイプの症状だった場合、あっと言う間に全員感染してしまってもおかしくない。最も、子供たちに細かく話しても伝わらないだろうから、胸を張って堂々とこう宣言した。


「俺、外来人なんだよ。医療や病気についてなら、向こうはだいぶ進んでる。その俺が言うんだ。間違いないさ」

「じゃあ……じゃあなんで!? なんで父さんは……」

「……異変を起こしている、悪いやつらがいるんだ。ソイツを退治しないといけない。君の親父さんや“黒い炎の病”で消えた人達は、ソイツらのせいで……」


 両肩に手を置き、父を失った子に目線を合わせ、出来る限りの誠意を込めて語り掛ける。どれだけ言葉を尽くしても、この子が失った空白は埋めようがない。ただ、その穴に塩を塗り込むような流れは、ここで止めねばならぬと真次は思った。


「……お前らも不安なのはわかる。だが……それを反撃できない理由で固めて、一方的に誰かにぶつけるのは違うぞ。どんだけ逃げたって恐怖は消えやしないんだ。それに……押し付けたババは、いつか手元に倍になって返ってくるものなんじゃないのか?」


 子供たちが無言のまま、己の行為を省みている。……遠目で見ている人里の門番も同様に。

 異質な出来事、増幅する恐怖に流され、己しか見えなくなっていた。そんな風に言い訳して自分たちがしてきた行為が、どれほど残酷なことだったか……おぼろげにそれを知り、子供たちは傷つけた相手に頭を下げ、ばつが悪そうにその場を去る。流石に言葉で謝ることは、彼らのささやかなプライドが許せなかったのだろう。

 それでも、真次の行動は十分に効果があった。しばらくはこの子も、落ち着いて暮らせるだろう。


「う、うむ? 我がおらぬのに童たちが去った……? そなた、何をしたのだ?」

「……布都様」


 新たに現れた人影、その名を呼ぶ退治屋の子供の目線は、ひどく冷たく鋭かった。



 7月9日 13:41

今回責められていた子供は、以前アリスに絡み、真次を殴った後、黒い炎を出しながら消えてしまった退治屋の息子です。彼は一切悪くないですし、むしろ父親を失った被害者でもあるんですが……その後異変で同様の現象が起こったせいで、人里では“黒い炎の病”との噂が広がり、発端である人間の子供に矛先が向いた形です。詳しく書く機会がないので話しますと、彼の母親も肩身の狭い思いをしております。

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