STAGE 3-28 最終目標
10分遅刻しました……お願いユルシテ!
7月8日 14:18
真次が去った後の病室で、藍と永琳が向かい合っている。
口実を設けて二人きり。月の頭脳の目つきは鋭く、八雲の式もまた真剣な様子だった。
「憶測で構わないと言ったな?」
「ええ」
「これから話すことは……本当に確証はどこにもない。状況だけでの……下手をすれば妄言と笑われかねないのだが……」
「前置きはいいわ。あなたは何に気がついたの?」
よほど重いのか、煮え切らない藍に説明を促す。真次を追い出した口実は、長く話し込むのには向いていない。不審に思われる前に聞き出しておく必要があった。
それでも、八雲の式は慎重そのもので……一度深呼吸した後、ゆっくりと口を開いた。
「……異変を起こしている連中の、最終目標」
「! ……それは一体?」
「八意 永琳――どうか、真剣に考察してもらいたい。これが真実なら、八雲だ月の民だといがみ合っている場合ではなくなる……」
既に浮かび上がっている要素を元に、九尾の狐が声を潜めて語りだした。
内容は、確かに馬鹿げているように思える。決定的な証拠もなかった。が、しかし……大声ではとても話せない。真次にも伝える訳にもいかない。それどころかこれは、迂闊に表に出せないとびきりの『爆弾』だ。
「どうだろう? さすがに突飛に過ぎるだろうか?」
「いいえ」
語り終え一息ついた藍とは裏腹に、月の頭脳はその頭脳故に、確信してしまった。
「いいえ、あなたの推測で間違いないわ」
「っ!」
両者の顔が青くなった。ちょうど 八雲 紫 が 博麗 霊夢 に依頼を断られた時と同じように。それほどまでに重い事実と、迫りくる危機を悟ってしまったから。藍の言う通り対立してる場合ではない。今回の異変、正しく対処しなければ『幻想郷が終わる』
「ここでの治療が終わった後。紫に連絡は取れる?」
「微妙だ。紫様は紫様なりに必死なのだろう。私に構っている暇があるかどうか……」
「なら、あなたは独自に動いた方が早いわね」
「そうだな……各勢力に根回ししておこう。決戦の時に備えて」
二人は頷き合い、今後の方針を固めていく。その中で藍は、真次の事にも言及し始めた。
「ところで、真次君の能力だが……今までは隠す方針だったようだが、あえて隠さない事を提案したい」
「……なんですって?」
「先程の推察通りなら、呪いの事は主目的ではなく、攪乱狙いのはず」
「そうね。けど火が出る前に消されるのは、面白くないと思わない?」
二人の間に、いささか不穏な気配が漂い始める。敵対とまではいかないが、落ち着いているとは言えない。
「確かに目につくだろうが……相手の反応を見る意味もある。適当な対応ならば、私達の予測が決定的になるし、私の活動から目を逸らす効果も大きい」
「本腰を入れずとも、あいつらが強気に出たら真次一人始末するのなんて訳ないわ」
「その時は仕方ない」
「あなたね……!」
かっとなって一歩前に出た永琳を、冷やかに藍が見つめていた。
「彼の能力は使える。人柄も良い。なれども、幻想郷を守るためには必要なことだ。10のために1を切り捨てる選択。彼の能力を隠す理由も、同じ論理だったはずだが?」
静かに突きつけられ、永琳はうろたえていた。藍の言葉の内容ではない。今こうして、自分が真次にリスクを負わせる選択を、ためらった自分自身にである。
八雲の式が語った論理は、以前真次と言い争った原因と似ている。なのにひどく納得がいかないのだ。冷静に考えれば、藍の選択が妥当だと判断できるはずなのに……
「……どうした? 私より永く生きたあなたが、何を躊躇っている?」
そう、永琳は極めて永い時を生きてきた。彼らのような存在は、長く生きれば生きるほど、人と関わった時に生じる情感を失っていく。
出会いと別れも、人の身では不可能な数を繰り返せば、失う痛みに慣れてしまう。
なのに今永琳は、西本 真次 を失うことを恐れたのか……?
「……これからあなたを治療する相手に、その言い様はないんじゃない?」
無自覚だった脆い部分を隠すように、皮肉を以て切り返す。
しばしの無言。真意を測るような目線が刺さった。が、藍が永琳の感情に気がつく前に……真次が二人を呼びに来たのだろう。廊下から足音が近づいてくる。時間切れを理解し、最後に藍が呟いた。
「そうだな……言葉が過ぎたかもしれない。だが、考えておいてくれ」
互いに釈然としないまま、秘密の対話は打ち切られた。
何も知らない真次が話しかけ、二人は何事もない様に振る舞う。
……永琳は自分がいつも通りか、あまり自信がなかった。
自信がない自分が、嫌になった。
7月8日 14:26
う、動きガガガ……ただ実際、今公開されてる状況で異変の首謀者の『最終目標』を推測すること自体は、出来なくはないと思います。読者様の中に月の頭脳はいらっしゃいませんか!?(無茶苦茶)