STAGE 3-24 重ならない意見
イカン、イカン。ギリギリ投稿のクセがついとる……今回は間に合ってるから許して!
7月7日 20:02
食事を終え、永遠亭の一同が集まっている中で、真次は外を渡り歩いた際に知った情報を公開した。
一つ。アリス亭へ移動した際、幻想入りするのが考えにくい『メンデル』の怨霊と戦闘を行ったこと。
二つ。紅魔館が襲撃されたが、名乗った相手……つまり『西本 真也』は真次を擬態したり、カモフラージュではなく本人の可能性が高いこと。
三つ。真次の能力を使えば、妖怪であれ人間であれ、今回異変で生じる『呪い』を確実に払い落とせること。
そして最後……博麗の巫女は異変解決へ動きそうにないこと。その四つの事実を永琳、輝夜、ウドンゲ、そしててゐに、要点をかいつまんで話した。
彼が話を終えると……しばらくの間誰も言葉を発しなかった。真次の能力が有効なことは朗報だったが、それ以上に悪い知らせがあったから。
「霊夢が動かないって……どういうことよ?」
重苦しい空気のまま、輝夜が強い困惑の表情でつぶやいた。
彼女の言葉は、永遠亭の住人たちの総意と呼んで差し支えないだろう。永琳も、ウドンゲも、そしてお調子者のてゐでさえ……表情は険しい。
「本人曰く『勘』らしい。一応弾幕戦も挑んだがズタボロだったぜ……」
「当たり前でしょ!? あいっわらず無茶するわね」
「それより『勘』って……確か博麗の巫女が、異変解決の時は大体『勘』に頼っていると聞きましたが……」
「どうもその『勘』に従うと、博麗神社から動かないのが正解……なんだとさ」
「わけがわからないウサ」
まさしくお手上げと、てゐは大げさに両手を広げて首を振った。
「だが、悪いことばかりじゃない。俺の能力はショボイと思っていたが……こと今回の異変に対しては強く出れる」
「ですよね。実質呪いを無効にして、さらにその治療まで出来るのは頼もしいです」
メンデルとの戦闘時に真次は被弾したが「悪意を切り離す程度の能力」のおかげで、呪われずに済んだ。さらにその後、呪われてしまった霧雨魔理沙と、妖怪たち四人の治療も完遂できている。純粋な医学のみでは対処できない筈だったが、彼ならば確実に治せると言うことだ。
暗澹たる空気が、少しだけ緩んだその場で……しかし永琳だけは表情を硬くしたままだた。
「真次先生、そのことですが……」
「……なんだ?」
初めての永琳の発言に、真次は不穏な響きを感じたのだろう。彼もどことなく緊張しているように見受けられた。
そして……一同が彼女の発言に凍り付く。
「……先生、あなたはもう動き回らない方がいいと考えます。そして、その能力による治療も控えた方がよろしいかと」
淡々として放たれた言葉に、輝夜とてゐは不安げに、薬品の手伝いをしているからか、ウドンゲもほんの少し怒気を見せ――真次は立ち上がって、永琳に迫った。
「な――! 何を言い出すんだ!? 治せるのに無視しろってのか!?」
「『治せるから』危険なんです」
「はぁ!?」
今にも胸倉に掴みそうな勢いで真次はずずっ、と、八意 永琳の前へ躍り出た。対象的に、彼女は表情を消して続ける。
「異変を起こしている側に立って考えても見て下さい。あなたは『ばら撒いている呪いが効かず、さらには治療までできる男』なんです。派手に動けば、間違いなく狙われます」
「それはそうかもしれねぇ……だが今のところ撃退できてるだろ!?」
「相手があなたを始末することに、本気を出していないからです。先生自身も話していたでしょう? 紅魔館の戦力の総出で、ようやく拮抗できるほどの敵がいるのです。博麗の巫女ほどの実力があれば倒せるかもしれませんが……真次先生。あなたは残念ながら、そこまでの戦闘能力はない」
「くっ……」
理詰めで諭され、青年は言葉に詰まった。月の頭脳と称される彼女の考察は、確かに的を射ている。
真次の能力と技能は、異変の首謀者にしてみれば迷惑極まりない。せっかく撒いた混乱の種が、軒並み刈り取られてしまうのだから。そのくせ、真次本人にも呪いは効かないとなれば――『抹殺』に動く可能性はあり得る。
そして、本気で真次を潰しにかかられたら、恐らく彼単独ではしのぎ切ることはできない。先ほど永琳が名前を出した博麗の巫女に、西本 真次は惨敗を喫しているのだから。
「でも師匠……苦しんでいる患者さんを放置するのは……!」
真次の心情を代弁するかのように、ウドンゲが声を上げた。けれども永琳は冷たくあしらうように、睨みながら言い返す。
「甘いわ、ウドンゲ『西本真次』の手札は伏せるべき。最悪の場合、永遠亭に攻め込んでくるかも知れないのよ?」
「だったら、師匠や姫様の総出で撃退すればいいでしょう!?」
「馬鹿なことを言わないの! 確かに追い払えるかもしれないわ。永遠亭や……無関係の患者たちに、甚大な被害を出した上でなら……」
「……っ」
苦汁を舐めるように、ウドンゲがうなだれた。真次も頭をガシガシと掻きながら「くそっ!」と悪態をつく。
対立する真次と永琳の意見。未だに永琳を睨んでいる真次は、彼女の意見に納得していない。永琳もまた鋭い目つきで、譲るつもりはないが……その実内心では、真次の心情を理解してはいた。
患者を救う技能と能力があるのなら、その全力をもって治療すべきだとの真次の方針は、医者として決して間違ったものではない。
だが、永琳の判断も間違いではないのだ。目障りに思った怨霊たちが永遠亭に攻め込んでくるリスクもあるし、『特効薬』に近い能力を持った西本 真次の存在は、伏せておければ後々の異変解決に動く時、切り札として行使できるかもしれない――
二人の意見は、異変に対して前向きなのに
対立を招き、この場の空気をただただ重くしている。
「納得いかねぇっ!」
「!? え!? ちょ、真次!!」
やがて彼はそう言って、席を立って大きな足音を立てながらその場を去った。
彼の後を追いかけたのは輝夜。真次に同情的だったウドンゲはその場に残り、永琳に無言のまま赤い眼差しを向けていた。
当然永琳も気が付いている。しかしあえて彼女は弟子の顔は見なかった。
……ただ無言のまま、輝夜と真次が去っていった廊下を眺めつづけていた。
7月7日 20:34
真次君の意見=医者なんだから苦しんでる相手ほっとけるか!
永琳の意見=今回の異変の相手に目をつけられたら、それどころじゃなくなるでしょう?
ってな感じです。厄介なことに、お互いに間違ってないのがねー……




