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STAGE 3-22 巫女の逆鱗

タイトルのアイテムは小数点以下の確率で剥ぎとれます(このネタわかるかなぁ?)

7月7日 15:33



 スペルカードを含む真次の攻撃は、悉く霊夢に見切られていた。

『トラクタービーム』はビームに捕まらないのは勿論のこと、持ち上げる物体とビームが繋がっているため、そこから物体の軌道を予測され、真次から視線を外さぬままあっさりと攻略されてしまった。

『花火玉』は弾幕密度が足りず、『クリスタルビット』に至ってはビットの攻撃を誘導され、同士討ちさせられる始末。先ほど放った『フレアニンバス』も掠めもしない。

 対して真次は何度も被弾していた。

 霊夢は二種類の弾幕を巧みに使い分けてくる相手で、高速で飛んでくる針弾と、低速でしつこく追尾してくる誘導弾の二種が、青年を苦しめた。

 迂闊に霊夢から目を離せば高速弾に被弾してしまう。かといって誘導弾を無視するわけにもいかない。対抗策で誘導弾を撃ち落とそうとしたところ、弾そのものが攻撃を避けたのには言葉を失った。

 針弾で逃げ道を塞いで誘導弾を当てたり、その逆の技を駆使して真次を責め立てる霊夢に畏敬の念を抱かずにはいられない。経験の差、センスの差、能力の差……ありとあらゆる彼我の力量差を、外来人の彼は胸の内で認めた。

 それでも


「せめて一回は、スペルカードを使わせねぇとな……!」


 真次は四回ほど宣言しているが、霊夢は一度も使用していない。完全にナメられているのだが、彼もなんだかんだで日本男児である。やられっぱなしで終わりたくないのだ。


「いいね! いいね!! よく言った! それでこそ男だよ!!」

「萃香アンタ……勝手に上がりこんで酒盛りして……挙句の果てには余所者の応援なんていい身分ね!?」

「ハッハッハ! 鬼は強いヤツも大好きだけど、勇敢な人間も好きなのさ! それも、ちょっと無謀なぐらいのバカがいい!」

「さりげなく俺をバカ扱いすんじゃねぇ!」


 全く鬼を見ないままの抗議は、強引にそこで打ち切りとなった。霊夢の攻撃にさらされ、回避せざるを得なくなったからだ。観戦者の鬼がやんやと騒ぎ、二人の間で弾幕の応酬が再開する。当然のように真次は押され、気がついた時には弾幕に包囲されていた。


「いい加減諦めなさい!」



 巫女の叫びを号令にして、弾幕で出来た壁が迫る。隙間なんぞほとんど見えないそれを睨みつけた青年が、覚悟を決めて起こした行動に、霊夢と萃香は度肝を抜かれた。

 なんと、手にしていた銃の片方を投げつけたのだ。真次にとっての生命線であるソレを。唐突な奇策に驚いたのもつかの間、しかし弾丸に比べればはるかに遅い。首を軽く倒して避けながらも、霊夢は彼から注意を逸らさなかった。


「転弾『ワープ&シュート』!」


 スペルカードの宣言と同時に……真次の姿か消えた。

 あっけにとられる萃香とは別に、悪寒を感じた霊夢が反転と同時に回避行動をとる。

 弾丸が、衣服を掠めた。直撃こそならなかったが、ようやくの至近弾に、両手で銃を構えている真次がニヤリと笑う。

 紫の話を聞いていた彼が、思いつきでスペカを作ったのだ。投げつけた銃器の位置に『瞬間移動』する技を。弾幕を用いた包囲からの攻撃も、これなら避けつつ反攻も可能だと考えて。

 霊夢の目が据わり、弾幕の圧が増した。幾分か抑えていた力を放出したのだ。

 再び彼が銃器を投げる。無数の霊弾から彼が離脱した。少なくてもこれを繰り返していれば、しばらくは互角に戦えると、青年は踏んでいたのだが……やはり楽園の素敵な巫女の実力は伊達ではなかった。

 二度目の転移を行った真次の眼前に、お祓い棒が猛然と迫る。ぽかんとする青年は身動きできず、ちょうど鼻にぶつかって悲鳴を漏らした。


「おぅう!?」


 真次の移動先へ、あらかじめ博麗の巫女が投げつけていたのだ。彼が移動してくる場所とタイミングを読み切って。怯んで足を止めた真次だが、それが致命的な失態となった。

 抜け出した包囲網の弾幕の誘導弾が、再度彼へと向かっていく。足止めを喰らった青年は、そのまま連続で弾幕を浴びて、地面へ叩き落とされた。


「アタタ……ま、まだ……」


 立ち上がろうとして、彼がすっ転んだ。霊夢は呆れながらも、若干気まずそうに告げる。


「もう決着にしましょ? 今の攻撃、アンタには重かったでしょう?」

「ハッハー! 霊夢、ちょっとだけ本気出したね? でもおニイさんには荷が重かったようだ。ま、見てる分には面白かったよ」

「ぐぬぬ……」


 真次は、悔しげに五体を地面に放り出して転がった。己の至らなさを認め、今回の敗戦を受け入れたのである。


「くっそー! 次は勝ってやる!! 覚えてろよ!?」

「異変が終わった後なら、付き合ってあげるわ」

「変わりといっちゃアレだけどさ、わたしと一戦どう?」

「え!? 勘弁してくれよ! これ以上は無理だぜ……」


 上半身を起こしながら、真次は鬼へと向き合った。額にべっとりと汗をかいたせいで、髪の毛がうっとうしく纏わりついている。満身創痍ではないが、疲労困憊と言ったところだ。


「なんだいもう息切れ? 霊夢を見習いなよ、まだまだ戦えるでしょ?」

「い、いやー……これでも現代人の中じゃ、体力も精神力もある方だと思うが……」


 真次の言い分に嘘はない。長い手術を行う外科医は長く集中力を持たせなければならない。それに心臓や脳などの施術は、僅かなミスで患者が命を落としてしまうこともある。短期と長期の集中力の両立に加え、それを維持するには体力も必須だ。

 加えて、真次は田舎の病院に勤めていたのもあり、デスクワーク中心の現代人と比較すれば、平均以上の体力はあるが……


「ええ……? まさか外来人って軟弱?」

「あー……それはあるかもなぁ……」


 便利な現代の道具がなく、人間を襲う妖怪という脅威がそばにいるからか、幻想郷の人間は野性的なのだ。日頃から生活のために身体を動かすのが当たり前の人々と、利便性の高い器具に慣れて運動を怠った現代人を比べれば、幻想郷の住人に『軟弱』扱いされるのも仕方あるまい。苦笑いする彼をよそに、霊夢が半眼で萃香を見ていた。


「萃香アンタね……これ以上迷惑かけるようなら退治するわよ?」

「おっと、鬼より怖い巫女様は――」

「……今何っつった?」


 ぞわりと、突風に煽られたような錯覚に真次は顔を歪めた。

 本当に真次との戦闘はお遊びだったらしい。眼前にいる博麗の巫女が放つ殺気に当てられ、彼は身の危険を感じた。何がNGワードなのかは知らないが、巻き添えは避けねばならない。生存本能が一時的に真次の疲労を取り除き、ここから脱出するだけの気力を与えたのか、彼は即座に立ち上がって空へ飛び立った。


「お、俺はこれで失礼する! じゃーな!!」

「え!? 加勢してくれないの!? ちょっ! わたしでも本気の霊夢は無理だって!!」

「俺が戦っても足引っ張るだけだろ!? がんばれ! 応援はしとく!!」

「投げやりじゃない!? ちょっと牽制するだけでもいいから……って逃げてる!?」

「……萃香」

「ヒエッ」


 直後、激しい戦闘の気配と誰かの断末魔が聞こえた気がしたが、真次は聞こえないフリをしてとっとと永遠亭を目指した。

 こんなやりとりが幻想郷にとっての日常なのだと理解できるようになるのは、彼らが異変を終わらせた後の話である。



 7月7日 15:59

やはり真次君には荷が重かった。そして霊夢のNGワードは『鬼』が絡んでいる単語を霊夢を比喩して使うとアウト。萃香はあの後……

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