STAGE 3-20 難航する交渉
全くどうでもいい偶然ですが、作品内の日と投稿日の現実の日にちが同一ですね。
二時間前 7月7日 13:00
「ここが博麗神社か……」
リグルが用意した蟲の先導で、紅魔館を出た真次はそこにやってきた。
何段とある階段に、人里から離れた僻地……周りは森に包まれ、風がそよげば木々がざわめく。さほど魔術に疎い真次にも、ここが神聖な領域であると感じさせる場所だ。もし、現代にあれば良いパワースポットになっていたかもしれない。ただ、交通の便は悪く、特別な用事がなければ、幻想郷の住人であっても参拝に来そうになかった。
「……あっちい」
強い日差しが白衣の男を責める。七月の昼間は、太陽が激しく主張する時間帯だ。真次はここに来るまで、モロに直射日光を浴びていて、肌が汗で濡れていた。空を飛ぶのは移動手段としては優れているものの、日陰は雲の気まぐれでしか出現しない。今日は具合が悪いのか、空飛ぶわたあめは、どこにも見当たらなかった。
「本日は洗濯日和。ただし空を飛んで移動する方は、熱中症に注意。ってとこだな……」
ニュースキャスターよろしく愚痴ってみるも、語尾に覇気がない。早いところ日陰で休みたいのが、偽らざる本音だった。
神社内部は掃除が行き届いており、ちりゴミ一つ落ちてはいなかった。雑草は丁寧に取り除かれ、地面そのものも均してある。灯篭も拭きとられ、清浄な光沢を放っていた。
「マメな巫女さんっぽいな。人来てねぇっぽいのによくやるぜ……」
賽銭箱の隣に腰かけながら、一息ついてそう言った。
何せ、神社全体が綺麗なままなのだ。足跡のような人が来た痕跡が少なすぎる。それどころか今も、誰かの気配をほとんど感じない。聖域の印象もあるが、同時に整然としすぎてむしろ不気味な気さえした。
「……留守なのか?」
「いるわよ失礼ね」
ぬっ、と真次をのぞき込むように、巫女姿の少女が顔を出した。
「おわぁ!?」と大の男が情けない悲鳴を上げ、炎天下の神社に転がり……熱された石に運悪く触れてしまった彼は、一度目よりも悲痛な叫びを漏らした。
「アチチチチ! あっちい!?」
「あら、不運ね」
「巫女さんが急に顔出したせいだろうが!」
手のひらに息を吹きかけて冷ます彼は、抗議しながらも安堵していた。日陰とはいえ、こんな天候で長時間待ちぼうけは御免こうむる。目当ての相手かどうかはわからないが、とりあえず交渉を始めた。
「ここが博麗神社だよな? 霊夢って巫女さんに用があるんだが」
「それはわたしね。何?」
「今回の異変についてだ」
つっけんとんな霊夢だが、外来人の言葉を聞いて、ぎろ、と目が細くなる。
「アンタも、異変解決に動けって?」
「……ダメなのか? 場合によっては妖怪退治って依頼の形でもいいが」
「……ふーん。でも無理ね、あなたに用意できる報酬じゃないもの」
真摯に話しているつもりなのだが、彼女は明らかな拒絶の姿勢だった。霊夢を知っている人物なら驚いただろう。参拝客の少ない博麗神社に住む霊夢は、報酬や賽銭を要求することが多い。その彼女がこうもきっぱり拒絶することはまずないのだ。
「……いや、違うな。お前さんは何が何でも、異変解決に動く気がねぇんだ」
門前払いの気配を察し、あえて真次は霊夢の心情を口に出してみる。挑発とも取れるその言葉は、少々不愉快だったようで、即座に彼女が食ってかかった。
「異変解決をしたくない訳じゃないの。でもね、わたしは今回の異変で、ここから動いちゃいけないのよ」
「何……? なんだそりゃ、理由があるのか?」
「勘よ」
全くの躊躇なく、でたらめな答えが返ってきた。けれども、横着しているようには見えない。真次本人も自分の勘……あるいは感性に助けられている部分もあるからか、霊夢を馬鹿にしたりはしなかった。
力押しはできそうにないが、かといって諦める訳にもいかない。
しばし無言のまま、青年は交渉材料になりそうな情報を、こちらに来てからの記憶に求めた。
7月7日 13:24
空飛ぶってことは、同時に日陰の無い場所を移動することになります。夏日だととても辛そう。ゆかりんやゆうかりんが日傘差してるのはこのための可能性が微レ存……?




