STAGE 3-19 最強の巫女
や、やる気が起きなくて辛かった……ここ最近暑すぎる……
7月7日 15:11
戦況は芳しくない。
肩を上下させ、呼吸は荒く、対して霊夢は悠然と宙に浮いていた。
「まだ続ける?」
「はっ! 当たり前だろっ……!」
会話の間も、真次は手を休めずに両手の銃器を乱打している。火薬の爆ぜる音を拍子にして、巫女は舞うように弾丸をくぐり抜けた。
霊夢が放つ反撃の弾幕は、全力には程遠い。けれども外来人である彼には十分に過ぎる量だ。医者の証だと身に着けている白衣は、所どころ被弾で煤けてしまっている。
「おーおー! よくやるね! まだ幻想入りして間もないんだろう? おニイさんはさ! ほらほら! 今のも危ないよ~?」
「こちとら必死なんだ! 肴にすんのはやめてくれ!」
「いやぁ、ヤジ飛ばして飲む酒は最高だね!」
「鬼かお前は!?」
「その通り! しかも四天王だよ、わたしは!!」
ぐいと瓢箪を持ちあげて、少女は美味そうに酒を煽る。見た目未成年な彼女だが、本人も認めたように妖怪だ。いつの間にか来ていたようだが、生憎真次には彼女のことを考える余裕はない。
トリガーを引いて撃ちまくるも、まるで当たる様子がない。銃口を向けた時点で相手は回避動作に入っているためだ。紅魔館で強化された魔法銃も微弱な誘導弾なら撃てるが……あっさりと全弾回避されてしまった。
「くそっ! 動くと当たらないだろ!」
「動かないと当たるでしょ!? いい加減諦めたらどう!?」
「うるせぇ! やられっぱなしで終われるか!!」
直後真次が『フレアニンバス』の発動を宣言。リボルバーから放たれた弾丸が、大型の爆発を空中でいくつも引き起こす。オートマチックハンドガンからも弾幕を発射した。今までとは違い――魔法銃化のおかげで若干誘導する弾丸になっている。ヤジを飛ばしていた少女の言う通り、真次が幻想郷で過ごした期間に対しての成長度合いは、確かに目を見張るものがあった。
しかし相手が悪すぎる。幾度となく異変を解決してきた博麗の巫女は、数多の修羅場を潜ってきている人物だ。炸裂弾の間が最も大きい場所へ最短で接近すると、ギリギリまで誘導弾を引きつけて……最小の所作で回避してしまう。シューティング・ゲームで言うところの『ちょん避け』と呼ばれる技術だが、現実世界で実行するには度胸が必要だ。三次元機動しつつ、背面を確認できない条件下でなど、真次には出来る気がしない。
「あー! もうハラ立つ! なんで当たらねぇ!?」
「根性だけは認めてあげる。けどもうスペカ一枚ぐらいが限界でしょう? ぶっ倒れる前に降参すれば?」
「クソぅ……余裕たっぷりかよ……!」
無傷で眼前にいる霊夢に、青年はただ歯ぎしりするしかなかった。
二人が戦うきっかけは、おおよそ二時間前にさかのぼる――
加減してもらってても、真次君には霊夢を相手にするのは無理でございます。




