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STAGE 3-17 その刀は『笑えない』

考察回が続きますね……そろそろアクションが欲しいところ。

7月7日 9:41



「アンタ、アタイの友達に手を出そうとしたんだって!?」

「だから違う! なんでお前が踊らされてるんだ!?」


 氷精の少女に問い詰められ、真次は大声で言い返していた。

 刀使いに切り付けられたその少女は、真次の治療を受けるまで呪いの効果で笑い続けていた。パチュリーやアリスの診断では、妖刀の類であるようだが、真次の能力『悪意を切り離す程度の能力』によって効果が消失。元々妖精と言う種族は死んでも生き返るのが容易らしく、翌日には元気いっぱいに恩人である彼に突っかかれるようになっていた。


「ここの妖精たちが『ルーミアの部屋から真次がルーミアと一緒に出てきた』って言ってた! でもルーミアに振られたって!!」

「何がどうなりゃそういう噂になるんだよ!?」


 実際、確かに今朝ルーミアと真次は同じ部屋から出てきたが、出たのは真次にあてがわれた部屋であり、手を出さなかったことにルーミアから文句を言われたはずなのだが……噂が錯綜するうちに事実が湾曲してしまっている。

 しかもこの少女は妖精のため、人間である真次より、妖精たちの噂を信じてしまっているらしい。


「まぁまぁ、へんなことはしていないみたいだから、それぐらいにしなよチルノ」

「うー……納得いかない! リグルはいいの!?」

「だってまぁ……悪い人じゃないと思うから」


 力なく笑うのは、蟲を操る程度の能力の持ち主である リグル・ナイトバグだ。今回被害を受けた中では彼女が最も重症であった。そのため、意識が戻った今でも本調子ではない。

 魔女たちの見立てでは、彼女を切った妖刀の性質が『妖怪に対して打撃を与える』効果ではないかとのことだ。近い性質を持つ武具として「童子切り」あるいは「鬼切」と呼称される『鬼を切る』刀があるようで、妖怪に対して呪いを発揮する刀があったとしても、別段不思議ではないらしい。


「あんまり喋らんほうがいいぞリグル。お前さんを切った刀、どうも妖怪を呪う刀だったみたいだからな」

「知ってる。アレは相当な妖刀だよ……切られた瞬間、体中に『お前を殺す』って悪意が流れ込んて来たもん……」


 その瞬間を思い出したのか、緑髪の少女は恐怖で身を竦める。


「……しかし、幻想郷に入り込むぐらいな品物なら、そんな上等なモノじゃねぇと思うが」

「忘れ去られた伝説の一振りとかかも?」

「アタイを切ったのは変な妖刀たっだけどね。笑いが止まらなくなるなんて、それこと笑い話ね!」


 チルノは自慢げに高笑いしていたが、真次は厳つい表情を作る。


「いや、相当エグい効果だぞ、それ」

「え? 別に笑うだけなんて大したことないじゃん。なに言ってるの? 馬鹿なの?」

「そりゃ、チルノが復活しやすい妖精だからの話さ。笑うってのは腹の筋肉を使ってるし、身体中に笑い声が響くんだ。もし深く刀傷が出来たところで笑い出したら、笑うことで傷を広げちまう……誰が考えて作ったのか知らねぇが、そいつは性格もシュミも悪い野郎だろうな」


 大けがをした人間への鉄則は「下手に動かさないこと」である。

 素人が余計に動かしたせいで状況が悪化し、死亡してしまうケースもままある。そして怪我をした本人へは「あまり喋らせないこと」も重要だ。発音するにも腹部の筋肉の力を使い、また全身に音波が響くことで悪化してしまうこともある。『斬った相手を笑わせる』効果は、この視点からすれば極悪な呪いと言えた。例えば腹部にこの刀で傷を負わせれば、傷を効果で重症化できるし、痛みと痙攣で戦闘どころではなくなってしまうだろう。


「ミスティアとルーミアを切った刀の効果はわかりやすかったよね」

「アタイでもわかるよ!『斬られるとものすごい痛い刀』と『斬られたら眠る』刀! わかりやすくツヨイ!!」

「スゴクツヨイ」


 チルノの子供っぽい言い回しにあわせつつ、真次は相手について考察する。

 この妖刀使いが、異変を起こしている怨霊の仲間であることは疑いようがない。使い手も怨霊で、真次がメンデルと対決した際に聞いた『王』についての話もあった。ただ、それとは別に、この怨霊は要注意人物だと真次は思う。

 今までは呪いこそすれ、他の怨霊は人間に直接は被害を出していない。だがリグルを切った妖刀以外は、人間にも効果を発揮しうるはずだ。特に、相手を笑わせる妖刀は対人間用としか考えられない。チルノのような存在には効果がいまひとつでも、人間相手なら極めて危険である。幸い真次は呪いを無力化できるため、どの妖刀に斬られても刀傷ができるだけだが、だとしても急所を斬られれば死んでしまうだろう。


「凄腕の妖怪退治屋……霊夢だったか? 彼女に依頼した方がいいかもしれん。この妖刀使いはやべぇぞ」

「アタイたち四人倒すぐらいだもんね! 霊夢に手柄を譲ってあげるわ!」

「そうだね、霊夢なら大丈夫なはず。でも、最近様子がおかしいんだよね。いつもなら異変が起きたらすぐ解決してくれるんだけど……」

「今回はなぜか、神社から動いてない……って話だったな」


 幻想郷最強の退治屋と評判の博麗 霊夢は、異変が起これば瞬く間に解決してしまう人物らしい。今回のことも異変、異常事態のはずだが……何故か全く活動が見られないそうだ。


「俺は今日、昼頃ここを出て永遠亭に戻るつもりだったが……寄り道して霊夢のトコに直談判してみよう。話を耳にしていないだけかもしれないからな」

「大丈夫? 危ないよ?」

「今のリグルたちよりは、元気なつもりだぜ?」


 太々しくにっ、と真次が笑って見せると、蟲を操ることが出来る少女は、申し訳なさそうに笑った。


「場所はわかる?」

「いや、行ったことがない」

「それなら、案内役の蟲を呼んでおくよ」


 リグルの提案は、外来人である彼にとってありがたいものだ。笑みを崩さず、真次は頷く。


「助かる、ただ……オオスズメバチみたいな危ねー奴はやめてくれよ?」

「ダメなの? そっちの方が何かに襲われた時安心だと思うけど」

「味方ってわかっても、オオスズメバチは怖ぇじゃん……サイズとか、羽音とか、面構えも凶暴だしよ……」

「気も荒いからね……わかった。手の空いてるニホンミツバチの子に手伝ってもらうよ」

「ハチなのは変わらんのか」

「この子たちは道案内に慣れてるし、ニホンミツバチはおとなしいから大丈夫だよ」


 刺されるかもと不安になったが、ここは彼女を信頼することにする。案内役は空が飛べる方がいいし、リグルが危害を加えないよう言い聞かせてくれれば安心だろう。


「よし、そうと決まれば早めに出る準備すっかな」

「そうだね、私も都合のつく子を探しておくよ」

「えー? もうちょっとアタイたちと何かしない?」

「私としても少々時間をいただきたいのですが。よろしいでしょうか? 真次様」

「「「おおぅ!?」」」


 突然三人の中心に、銀髪のメイド服が割り込んで発言する。動揺は隠せないが、少しは慣れたらしく青年は言葉を返せた。


「何か用があるのか? 俺に?」

「はい、妹様があなたと話をしたいと。要件は、あなた方兄弟についてと伺っておりますが……」

「詳しくは聞いてないのか」

「メイドはただ仕えるのみですから」


 十六夜 咲夜は優雅に一礼すると、無言で彼の返事を待った。真次は顎の下に手を当てて思案する。

 参真とここの住人とは仲が良い。直接訊ねたわけではないが、交わす言葉は親しげで表情も明るい。兄として気になるところでもあり、食事の席ではあまり話せなかった部分もある。しばし悩んだ末『妹様』の要求を呑むことにした。

 チルノとリグルと離れ、メイド長の案内で妹様こと、フランドール・スカーレットの部屋に通される。部屋の目前、彼女はこんなことを耳打ちしていった。


「手は出されぬようお願いします。あなたを八つ裂きにするのは少々ためらわれますわ」

「例の噂、真に受けてるのか……?」


 もううんざりだと天を仰ぐ彼。だが、彼女がクスリと笑みを浮かべたのを目の当たりにして……瀟洒な彼女なりのジョークだったことに気がついた。


「なんだよ。俺、真面目だと思ってたんだがな! 咲夜さんは!」

「いえいえ、これもメイドの務め。妹様は会話の望んでおられるのですから、あらかじめ肩の力を抜いていただこうかと」

「ちぃっ、全部手のひらの上かよ。ったく……」


 彼の言葉は拗ねてるが、おかげで緊張が抜けたのも確かだ。

 ふてくされている彼をしり目に、咲夜は扉を叩き「妹様」と告げる。

 程なくして金髪の少女が真次を招き、

 そして、彼の予想よりずっと長い、二人の会話が始まった。



7月7日 10:04

全く小説とは関係ない話なのですが、作者は今年オオスズメバチと二回ほど遭遇してるんですよね……二回目は網戸越しだったんですが、至近距離でした。サイズも羽音も顔も威圧的でホントコワイ……刺されないか心配ッス……

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