STAGE 0-7 漆黒の悪魔
今回、かなり残酷な描写があります。苦手な人はさらっと流し読みして下さいね
6月20日 3:17
その日の夜――藤原 妹紅は異様な気配に気がつき、飛び起きた。
普段に比べ、やたらと外が騒がしい。確かに、この迷いの竹林には妖怪が多数いるし、夜は妖怪の時間だから、うるさいことはたまにある。だが、今回は諍いの気配に加え――
(血の臭いと……何この殺気……!)
松明代わりに手のひらから炎を発し、血の臭いの方へ。異変の原因は、すぐに見つかった。
無数の魑魅魍魎たちの死骸が、そこにはあった。死体はまだ温かいから、犯人は近くにいるだろう。
(こいつらは雑魚だが……それにしたってどういうこと? 弾幕ゴッコじゃない?)
弾幕ゴッコでの戦闘なら、流血沙汰にはならない。人間がこんなザマになるのならまだ分かるが、妖怪がこんなふうに殺されるのはおかしい。人間と違って、多少深手を負ったところで、時間が経てば簡単に回復出来るはず。そもそも、肉体を攻撃されたところで致命傷にならないはずなのだ。
一人、思いふけっているところに――黒い炎のような弾丸が飛んできた。間一髪のところで身を引き、反撃で弾幕を放つ。
攻撃してきたそいつは軽々と回避。続けざまに炎弾を乱射し続けてきた。
「お前が犯人か!?」
何度も身を捻るが、密度が濃すぎる。避けきれず一発被弾すると……そのまま大きくふっとばされた。威力も常識外れ……いや、これは……
(弾幕ゴッコ用の弾幕じゃない!? こいつ……初めから殺す気で……!)
殺傷力の高い攻撃は、スペルカード・ルールに反する。力量差のある人間と妖怪などが対等に戦うための試合方式のはずなのに、この獣は全くそれを無視してきていた。
「だけど、あいにく私は不死身なのよ! そっちがそのつもりなら容赦はしない!! 蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』!!」
弾幕ゴッコ用に調整された出力以上の力で、妹紅は獣に火力をぶつける。多数の弾幕が殺到し、獣のいた位置に爆発を何度も発生させた。
「やったか!?」
一応、妹紅は幻想郷ではそれなりに実力者である。不老不死の肉体もあり、実力もそれなり以上に持っている。彼女の全力を持って、獣を排除しようとしたのだが――
「フム。強力な技は宣言せねば使えないのか。八雲め……このことは全くの想定外ではなかったと見える」
低く、昏、まるで宵闇が意思を持っているかのような声。
そのあまりの声の暗さに、妹紅の背筋は寒くなった。
「試しにやってみるか。神鎖『グレイプニル』」
彼女が硬直している隙に、煙の中から無数の鎖が飛び出して、妹紅を捉える。よく見るとそれは、あの狼の一部に巻きついていた鎖だった。
爆煙が晴れると、獣がいたと思われる場所から、真っ黒い外套を纏った一人の男が現れた。
全くの、無傷で。
「嘘……でしょ……?」
「クク……残念ながらあの程度では私は……いや、我々は殺せん。そこでゆっくりこれから起こることを、指を咥えて見ているがいい」
鎖で縛られた妹紅を尻目に、男は両手を広げ、何か呪文を唱え始める。そして――
「『英知の牧師』、『火刑の聖女』、『稀代の刀鍛冶』、『紅蓮の戦神』……さあ! 生前の無念を、思う存分この幻想郷にぶつけるがいい!!」
男が叫ぶと、四つの影が外套から飛び出て、人の形を作る。やがてそれは幻想郷の各所へと飛んでいった。
「あなた、何をするつもり!? あんまり勝手なことをすると、紫が黙って……!」
「なに、その紫に我々は怨みがあってな。だから、奴の愛しているモノを、根こそぎ壊してやろうと思ってな」
「じょ、冗談でしょ!?」
八雲 紫に、復讐?
あの胡散臭い妖怪賢者が、怨みを買うこと自体は容易に想像ができるが、だからと言って、復讐してやろうと思う妖怪が、一体何人いることやら。そんなことを考えるのはよっぽどの馬鹿か――あるいは、それ相応の実力者か……
「……そうだ、君も幻想郷の一員なのだから、八雲が認めた存在なのだろう? なら早速、お前で怨みを少しばかり晴らさせてもらおうじゃないか……」
男の目が、薄く光った。冷たく、鋭く……妹紅の身体を見つめる。
「何を、する気だ」
「苦痛を贈らせてもらう。まぁ……我々と比べたら、全く大したことがないのだが。故に不死身の貴殿なら、何の問題もないだろう」
そうしてにっこりと微笑むと、男の手刀が、妹紅の心臓目がけて突き出された。胸部の皮膚を貫通し、肋骨をすり抜け、心臓を鷲づかみされる。
「獄炎「ヘイト・フレア」」
「つっ!」
その瞬間、心臓を燃やされた。
そして心臓を通して、血液を媒体に、身体の内側から火が通っていく。
「――!!!!!」
声が、出ない。なぜなら、血の通りやすい唇は炎に包まれているから。
涙も、出ない。体中のあらゆる液体は沸騰し、蒸発していくから。
前が、赤い。体中が、痛い。生きたまま燃やされるのは十分すぎる苦痛だが、内側から燃やされるなど、やられたことがない。
むき出しの神経が直接炙られ、脳にまで火は回り、痛みのあまり地面にのたうちまわるがそれすら分からない。
そして最悪なことに、それでなお、死ねない。死ぬことは絶対にない。故に炎は燃え続ける。妹紅の肉体の媒体にして。
途切れ途切れになる感覚の中で、最後に妹紅が聞いたのは……
「ああそうだ、『星屑の航海者』は解放しよう。彼女は同朋であっても同類ではないからな。幻想郷が滅びる少しまでの間、自由を謳歌するがいい」
ぞっとするような優しい響きで呟く男と、地面に何かが落ちる音だけだった。
そして妹紅は、二時間もの間、肉体を焼かれ続けることとなる……
6月20日 4:09
あらかじめ断っておきますが、妹紅は作者の好きなキャラです。
ただ、この男の相手と描写は、不死身のキャラでないと厳しいので、心苦しいですが彼女に相手してもらうことに。輝夜も候補でしたが、深夜に行動させるのに無理があったんです。
好きな人は本当にごめんなさいですが、これからもこの先、この作品には東方キャラが傷つく描写が多数あります。苦手な人は覚悟してください。