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STAGE 3-13 王たる青年

まーだ真次先生のシーンに繋がらないですよ・・・つ、次でこの辺りは終わるはずですから!

不揃いな足音が、すっかり暗くなった辺境の森に響く。

 鬱蒼と生い茂る木々の中、怨霊の案内で妖怪たちは、開けた空間にたどり着いた。

 そこに一人、月光を浴びて静かに佇んでいる青年がいる。背丈はやや高く、袖を通さずに羽織った整った印象を受ける衣装とは裏腹に、顔つきはどこか幼さを残しているようにも見えた。

 もしこの場に『早苗』という人物がいれば、学ラン一式の一番外だけを、外套代わりにしているだけと感じたかもしれないが、表情が特徴的過ぎて気づけないだろう。

 なぜなら、こちらに向いているはずの視線は――現実のどこにも焦点が合っていないような……遥か遠い場所を見続けているような眼差しだったから。


「「王よ、客人の方々がお見えです」」


 そんな彼を気に留めることなく『生贄』は恭しく首を垂れて一礼し、『銀杭』は身体を微かにも動かさずに告げた。言葉に反応した青年が、顔を二人の配下に向けて淡々と言の葉を紡ぐ。


「誘導ご苦労。そのまま周辺警戒を頼めるかな? 無いとは思うが、妨害される恐れもあるのでね」

「この者たちの監視は?」

「『不和』と『無銘』が引き継ぐよ。ほら」


 王と呼ばれた男の背後から、二人の影がするりとやってくる。片方はいかにも「平民」あるいは「農民」の恰好だった。

 薄く汚れたオンボロ服に、鍬を肩にかけながら出てきた彼は、空いていた手を軽く上げて気さくに挨拶した。妖怪たちの中にはつられている者もいて、この場に居なければ怨霊だとは到底思えないだろう。

 もう一人の影は全く対象的で、古臭くも威厳を放つ鎧に身を包み、僅かに見えた肌には無数の傷と、並々ならぬ鍛錬の跡が見て取れた。歴戦の騎士を思わせるいで立ちだが、しかし得物は持っていない。こちらも礼儀正しく一礼をしたが、精錬された動作は「油断はしていないぞ」とも受け止められる。一方で生真面目な印象を受けた妖怪もいたようだ。


「色んな怨霊がおる……纏めんの大変やろあんさん……」

「ば……馬鹿っ!」


 うっかり零れた訛りのある言葉に、妖怪たち全員が凍り付く。迂闊な一言を発した妖怪に、王と呼ばれたその男の視線が刺さった。冷や汗を流しながらも、下手に動けば殺される――緊迫した妖怪たちが見た瞳の色は……純黒。

 もし夜空に星も月も、雲さえもなく――たた宇宙の暗黒が広がっているだけなら、こんな色をしているのではなかろうか? 怨霊であり、間違いなく妖怪でもある青年は、どこか透徹とした眼差しをしていた。


「君は向いていなさそうだな?」


 沈黙を破ったのは、意外にも王である彼だった。からかうような声色に、真実を乗せて続ける。


「その大変さを愉しむことが出来なければ……集団の長は長続きしない。周りが優秀なら多少は持つが、無理に続けた先には反旗と混乱、そして破滅が待ち構えているであろうな」

「あー……ワイには無理そうや。小市民の一妖怪として我慢するわ……」

「おまっ! 死にてぇのかよ!? つーか下手したら俺たちまで巻き込まれるんだぞ!? それぐらいわかれ!」

 

 過ぎた言動を、他の妖怪が咎めた。自分の失態で死ぬのならまだしも、巻き添えで死にたくはない。切迫しているその姿を、青年は目を細めて眺めていた。


「そう慌てるな、客人諸君。警戒するのはわかるが、こうも緊迫したままでは、気晴らしの話題をした甲斐がない」

「ああ……ホンマおおきに」

「オメーはもう黙ってろ!」


 訛りのある妖怪には、緊張をほぐす効果があったようだが……他の妖怪たちはむしろ、寿命が縮んだ気さえした。一人のんきなそいつを後ろへ追いやり、今回の計画を主導した……何度か強気で発言してい妖怪が前に出る。


「わりぃな。躾がなってなくてよ」

「仕方あるまい。妖怪とはそういう種族であろう? それに別段咎める気もない。あの者からは悪意を感じなかったからな。さてそろそろ……『諸君、選定に異議はあるかね?』」


 唐突な呼びかけに、妖怪たちが顔をしかめる。これから主題を話そうというのに、それを遮るようだった。けれども青年は気にしていない。全く意味の分からないその言葉に、王たる彼は大げさに頷いて――


「了承した。では許可を出す。我々の権利を行使せよ」


 鋭く冷たい言葉の後に、無数の影が踊りだして……妖怪たちにとっての、地獄が始まった。

大雑把な怨霊紹介その2


『不和』……鍬を持ち、いかにも『農民』の恰好をした怨霊。性格は怨霊とは思えないほどの気さくさだが……

『無銘』……騎士の姿をしている怨霊。鎧を身に着けてこそいるが、しかし武器になりそうな物が見当たらない


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