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STAGE 3-12 揺らめく不和

寄り道はあと一、二話ぐらいを予定しています。真次先生の活躍はもう少しお待ちください。

辺境の森を、妖怪たちが進んでいく。神父の怨霊に先導されながら。

斜陽に染まる森を、蝉の鳴き声がかき混ぜていったが、それを愉しむ余裕は誰も持ち合わせていなかった。

 これから始まる彼らのボスとの交渉は、自分たちの明暗を分けることは明らかで――下手を打てば何人か殺されるかもしれない。また妖怪たちの周りを、狼の姿をした怨霊が警戒しているのも、空気を重くしている要員だろう。


「あら珍しい。お客様を連れて来たの?『銀杭』」

「……『生贄』か」


 進路に現れたのは、神父とは別の怨霊だ。老女と言うほどではないが、若干老けているようにも見えた。衣服こそ『博麗 霊夢』に近い巫女服だが、どことなく胡散臭い気配は『八雲 紫』を連想せずにはいられない。彼女たちとの明確な違いは、瞳の奥にある危うい剣呑さ……腐熟し燻る憎悪を、怨霊として全身から醸していることだろう。


「我らの王と面会を求める者たちだ。予測通りでつまらん」

「『吸血鬼』を殺し損ねてから機嫌悪いわね、あなた」


 ぴくり、と神父の全身に静電気が流れたようだった。その後、露骨に不愉快だと沈黙したまま『生贄』と呼ばれた女性をにらみつけている。彼女は彼女で不適な笑みを張り付けたまま、どこか嘲るような声で続けた。


「王が見逃すと決めた以上、そうするしかないわ。例えあなたの恨みの……根源になった種族だとしてもね」

「……理解している。黙れ」

「納得が出来てないから、話してるのよ?」


 身内のいざこざだろうか? ただ、立場としては神父の……『銀杭』と呼ばれた男の方が低いように思えた。叩きつけられた言葉を、無理やり飲み込もうとしている光景に見える。そこで妖怪たちは初めて気が付いた。神父の装い、銀色の銃、握りしめた十字架、呼ばれた二つ名『銀杭』――彼はきっと、吸血鬼(ヴァンパイヤ)ハンターだったのだろうと。


(……なぁ、ホンマこいつら利用してもええんか?)

(こんなんで同情してんじゃねぇよバァーカ。使える道具は使わねぇとなぁ? おめぇものっぺらの奴と同列か?)


 感情が揺らいだ妖怪を、強気で率いている別の妖怪が一喝した。訛りで話していた妖怪は、目の前で不満げに意思を飲み込む『銀杭』に近い表情をしている。


(はは、名指しで非難されてやがんのお前……ん? なんだよのっぺらぼう?)


 遠目で見ていた別の妖怪が、のっぺらぼうに茶々を入れた。しかし、表情の無いその顔面が蒼白なのを見て語調を変えるも


(“こいつら……全部演技か? 生の表情が乗ってない……?”)

(意味わかんねぇこと言ってんじゃねーよ。ほら、前いくぞ)


 理解不能の言葉に呆れ、いつの間にか歩き始めていた怨霊に続く妖怪たち。仲間に蹴られて、仕方なくのっぺらぼうも後を追う。いつしか蝉が静かになり、歩く先からただならぬ気配が誰にも感じられるようになった時、二人の怨霊が妖怪たちの方へ向き直った。


「……もうすぐ着くぞ。下手な真似はしないことだ」

「言葉遣いぐらいなら気に留めないでしょうけど、過ぎたことをすれば私たちも黙っていないわよ?」


 冷やかな二人の視線に、妖怪たちも身を引き締めた。ここから先は失敗できない。そんな思いと共に背筋を伸ばす。

 嗚呼、だからこそ――彼らのほとんどは気が付かなかったのだ。

 既に自分たちは、致命的な過ちを犯してしまっていたことに。

簡単に名前持ちの怨霊の紹介を


『銀杭』――彫りと皺の深い顔をした、神父服の怨霊。十字架と銀色の銃を保持し、会話の内容や名前、いで立ちから吸血鬼ハンターの可能性大。辺境の森に訪れた妖怪たちと最初に接触した。


『生贄』――妙齢の巫女服を着た女性の怨霊。巫女服は博麗でも、守屋でも異なるデザインで、恐らく幻想郷とは関係が薄いあるいは、全くない神社の巫女服だろう。直接的な物言いにも関わらず、どこか 八雲 紫 と同類のにおいがするが、しかし瞳の奥底にある憎悪が、紫とは違うと強く主張している。

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