STAGE 3-10 幻想に至る先駆者
大分前に十二分に書けてはいたんですが、区切りつけるのに悩んでたら遅くなりました……結局区切りつかなかったんで長めで投稿しまーす。
7月6日 16:57
真次と文が紅魔館の大図書館に戻ると、テーブルの上には、三つに分けられた本の塔があった。
周りの椅子には、パチュリーを除く先ほどの面々が座っている。ルーミアとミスティアは意外なことに医学書を読み、魔理沙とアリスは紅茶を飲みながら別々の回復魔法の本を。小悪魔はやや疲れた様子で、宇宙工学系の本を流し読みしているようだ。こちらの気配を察した小悪魔は、一旦本から目を離して真次と話す。
「真次さん、まとめた本を種別に分けておきましたよ~」
「おお、悪いな。宇宙工学から探したかったし助かる。ちょうど小悪魔も読んでるようだが、行ける口なのか?」
「えーっと……ぼんやり?」
首を傾げながら、彼女は答えた。幻想郷が神秘を肯定している世界なのを考えると、ぼんやりとわかるだけでも珍しい。つい文が口をはさんだ。
「それで楽しいのでしょうか……?」
「楽しいですよ? わかりようの無いものでも、字を読んでなんとなくですけど、わかった気分で本を読むのも」
「えぇ……」
なかなかいい加減な話だが、本人がそれで楽しめてるのだからそれでいいだろう。しかし、これでは細かい質問をしても答えられそうにない。
「とりあえず、探すのは探査機関連だ。本人が土星に接近したって言ってる」
「と言われましても……関わりのありそうなの渡して真次さんに選定してもらうしか……」
「そうなっちまうが、一人でやるよりはずっと楽できるし頼むぜ」
そうして、文と真次は区分けされた本から適当に選ぶ。二人とも活字を読むのに慣れているからか、次々と読み解いていった。
しばらく同じことを続けていくと、文の手が止まった。
「真次さん、これじゃないですか?」
彼女が指さした先には「外惑星探査機の偉大な記録――パイオニア計画とボイジャー計画」とあった。刊行されたのは1990年のようで、既に20年以上前の資料だ。宇宙工学の話としては、十分に古い。
男が本を受け取り、ページをめくっていく。どの探査機が何をいつ観測したのかを事細かに書かれていて、中には木星、土星のことも書かれていた。しかし、これだけで決定するにはまだ早い。この計画以降も探査機は宇宙に飛んでいるのだ。
「どうですか?」
「近いとこまで来てるだろうが……この探査機は初期ってだけだ。他に特徴でもあれば断定できるんだがな……」
渋面を作る真次だったが、話をしている最中に、その特徴的な物を発見する。
『地球外生命体へのメッセージ』
金属板に描かれたそれは、人の姿やいくつもの図形があった。そのイラストに真次は見覚えがある。ニアが使用しスペルカード『アースプレート』で飛んできた弾幕そっくりだ。
彼女との会話でも……最初ここがどこかを尋ねた時に「知的生命体」とか「別の惑星」と、何を壮大な話をしているんだと思ったものだが……「地球のことを伝えるメッセンジャー」の役目を担っていたと考えれば納得がいく。
「あったぞ特徴。これで大分絞れた。本体は多分『パイオニア』か『ボイジャー』のどっちかだろう」
文に名前を告げると、何故か納得していない。あるいは、思索を巡らせているように見えた。
「……文? どうした?」
「ああ、すいません……ふと思ったんですけど、その二択なら『ボイジャー』は違うのでは?」
「正体を絞れる要素あったか?」
「名前の響きですよ。彼女は『ニア』って名乗りました。ボイジャーでは響きがまるで無関係ですが……パイオニアだとパイオ『ニア』じゃないですか」
最後の『ニア』を強調して文は主張した。彼にはまったく持ち合わせていない視点だったが、説明されればすんなり受け入れられた。
「なら、決まりじゃないか」
外部惑星を調査するために立ち上げられた「パイオニア計画」
無数に宇宙に飛び立った探査機たちの中で、木星と土星を観測したのはたったの1機だ。
「あの子の正体は『パイオニア11号』ってことになる」
「浮かない顔ですね?」
「ニアは言ってたんだよ『自分は役目を果たせなかった』って。そのことをわかっちまったのか、にとりのとこで話そうとしたら泣き出しちまったからな……んでもって、それはある種真実だったわけだ。伝えていいものかは、悩むだろ?」
「なら、隠し通すんですか?」
少しだけ考えて、しかしもう逃げ道がないことに医者が気づく。
「あ、そりゃ無理だわ。もうお前に知られてるわ」
「バラす前に私のせいにされてる!?」
「大方、参真の記事かこの話の記事か、どっちを一面記事にするか悩んでたんじゃね~の?」
「ソソソ、ソンナコトナイデスヨ?」
明らかに嘘だと白状しているような白々しさで、そっぽを向いて文は言った。だが真次はあえて追求せずに、逆に煽る形をとる。
「だよな! 鳥頭だからすぐ忘れるよな!!」
「は? 鴉の頭舐めないでくれます!? ばっちり覚えてますし、覚えてなくても大体メモ帳に書き残してありますから!!」
「おお、そりゃすごい。ついでに綺麗な自白になったな!」
「誘導尋問!? 汚いさすが人間汚い……!」
「はっはっは、何を言っているのかね文くん! 俺の服装はいつでも真っ白だぜ?」
両手を広げて、男は潔白を主張した。その動作がおかしくて、途中から気にしていたらしい魔理沙と、アリスの方からクスリと笑いが漏れた。真次が注意を他の面々へ向けると、小悪魔は本で顔を隠しながら肩を揺らし、ミスティアとルーミアは、にやけながら慌てて目線をそらした。
「真次さん、今のウケてるみたいですよ?」
「ただの事実なんだがな……」
がっくりと肩を落とす真次。それを見て周りの面々は再び笑いをこらえる羽目に。
「これじゃ収集つかないんで、ちゃっちゃとニアさんへの情報の処遇を決めましょう。私が長居してると、館の主に何言われるかわかりませんし」
「ニアに伝わる形ならなんでもいいぞ? あとできるだけ早く頼む」
「へ?」
男があっさりと情報の全投げを決め込むその言葉に、文を含めた図書館にいる全員が色めきだった。普通に考えれば、彼女にめちゃくちゃな脚色されるのは目に見えている。
「あの、真次さん? それ私ってわかって言ってるんですよね?」
もちろん、射命丸 文 自身にも自覚はあり、交渉は必須とも思っていたのだ。文を知らない人物ならわかるが、真次は一度、文の記事に書かれている。彼の言動は、文本人にも腑に落ちない。
「もちろんだ。これもニアのためだろうし。あの子は一人きりで幻想郷に来たんだ。尾びれのついた記事で話題になって、こっちになじんだ方がいいと思ってな! なんかトラブルあっても、にとりって保護者がいるし大丈夫だろ」
「そこまで考えますか! 真次さん、あなたなかなか策士ですね?」
「天狗様のお褒めに預かり恐悦至極」
彼が恭しく礼をして、文が、魔理沙が、ミスティアが――この場にいた皆が笑い出す。
胸の内で真次は、遥か遠くから幻想郷に来た彼女が、いつか同じように笑える日が来ることを願った。
7月6日 18:42
余談ですが、この子より前に飛び立ったパイオニアの何機かは、まだ稼働しているようです。かがくのちからってすげー!!




