STAGE 3-6 悪意を切り離す程度の能力
ちょっと長くなっちゃいました。興が乗るとこれだから困る。
7月6日 12:40
「さてと、どうしましょう」
自分たちが保管している魔導書など多数を、「死ぬまで借りてく」といって持ち出している少女、霧雨魔理沙。それがこうして目の前でグルグル巻きにされて気絶し、拘束されているんだから、何か意趣返しでもしてやろうかと、パチュリーは考えている。
「……過激なことは控えたら? 今はびっくりするぐらいの善人がいるし」
「? それって?」
「真次のことよ。私が襲われている時だって、躊躇せず間に割って入ってきたくらいだし。妖怪退治屋に絡まれた時も、すぐ助けてくれたしね」
やれやれと首を振りながら、アリスが回答する。
「ふーん。珍しいじゃない? 気に入ってるの?」
「そうね、好意があるのは否定しない」
……パチュリーは目を丸くした。
基本的にドライなアリスが、こういった発言をするとは思わなかったからである。あるいは、それがまだ魔女になってから日の浅い彼女と、自分との違いなのかもしれないとも思った。
「……パチュリー! アリス!! ちょいと知恵を借りたい!! いいか!?」
噂をすれば、白衣の青年がやってきたではないか。ひどく慌てている様子の彼は、せっぱつまっているようにも見える。
「どうしたのかしら? 医学は専門外よ?」
「ああ、それは関係ない……のか? そのあたりの判断はできねぇんだが……」
あわてながらも、彼は早口で話し始めた。
ところどころ噛んだりしていたが、要約すると、彼だけに見える、「黒い炎」について聞きたいらしい。
「魔術、魔法の素養は?」
「ないわ。私の家で確認済みよ」
「……今のところ見えたのは、魔理沙、消えた退治屋、氷の羽の生えた子、八雲 藍……ああ! あとウドンゲも認識できてたが、妹紅もか。その五人だ。共通項目は不明。だた……それはひどく不吉なもんだ。間違いない」
何故か彼は断言する。根拠もないのによく言えたものだが――真次は勘が鋭いらしい。そして、それを肯定することにも躊躇がない。霊夢にどことなく似ているふしが見受けられた。
「今の魔理沙には見えるの?」
「見える。背中に憑いているいるように黒い炎があるな」
……当然だが、そんなものはパチュリー、アリス、小悪魔には認識できない。
「触れるかしら? 感触とかも教えて欲しいわね」
青年が頷き、背中をさするような動作を魔理沙の後ろでした。
「……温度とかは感じないな。もともと炎ってのもあるんだろうが……触れない」
――ますますわけがわからない。ただの幻か、あるいは彼が正気を失って幻覚でもいているのかとも考えた。しかし、ここで小悪魔が重要なことを口にする。
「……もしかして何かを見ることができる能力だったり? 幽霊が見える程度の能力とか――」
「……! それよ! あなた、何か能力持ってたりしないの?」
そうだ、もし彼が能力持ちならば説明がつく。彼固有の能力ならば、その能力で見えているということは十分あり得ることだ。フランドール・スカーレットがその能力故に狂気の世界にいたように。
「能力? あるっちゃあるが――『悪意を切り離す程度の能力』だが……これは呪いを受け付けない体質にして他者から悪意を持って接触されないとか、そういう能力だって永琳に聞いたんだが……」
「「……」」
二人の魔女は黙り込み、思考を巡らせる。青年と小悪魔は困惑したままだ。
しばしたたずんだあと、情報をまとめ終わったパチュリーが語る。
「――ねぇ真次……もう一度聞くけど……『悪意を』『切り離せる』のよね?」
「? そういう能力だって聞いたが。あくまで精神的なもので――」
「違う、あなたの能力の真価はそこじゃないわ」
真次の言葉を、パチュリーが遮る。
「どういうことだ?」
「最初の質問の結論から言うわ。あなたが見ている『黒い炎』……その正体は『悪意』よ」
真次は混乱する。いきなり何を言い出すのかと。
「『悪意』? そんなもんが見えるだけじゃなんも――」
「いえ、見えるのはあくまで副次的なものよ。真次の本当の能力の使い方はそうじゃない」
「アリス? お前まで何を言い出すんだ?」
どうやらアリスも、パチュリーと同じ結論に達したらしい。
「あなたはそれを、『切り離せる』多分刃物じゃないとダメだけどね」
「それが何だっていうんだ。ただそんなもん切り離すだけじゃ――」
「真次、自分でも言ってたじゃない。あなたは悪意を受け付けない。結果として――呪いも受け付けなかったじゃない」
そこまで言われて、真次も気が付いた。
「……つまり、俺は――『呪い』を『切り離せる』? そしてこの黒い炎は『悪意』……『呪い』と解釈してもいいんだな?」
呪いとは即ち念である。
基本的にプラスの効果のものは祝福と呼ばれ、マイナスのものは呪いと呼ばれる。
祝福は祈りであり、呪いとは邪念である。
ならば――呪いとは即ち、悪意でもあるのだ。
「――そういうことだったのか」
これで、すべてのことの辻褄が合う。
藤原妹紅が再生不可だったのは強すぎる呪いのせいで、真次がそれをメスで「切り離した」から治療できた。
宵闇の妖怪たちが物理的に治療できないのは呪われているせいで、おそらく傷口の奥深くに呪いの中核があり、それを彼が切り離せば治療できる。
魔理沙と退治屋も、何らかの呪いを受けてしまっているのだろう。切り離しておくに越したことはない。
「……藍の傷口にもあったんだよな。黒い炎。切り離してやりゃあよかった」
そういいながら懐から刃物――医療用のメスだ――を取り出し、魔理沙近づく。
すっと、刃物を通して、魔理沙の背中の空間を分断した。
彼女たちには何も感じられなかったが、真次だけは宙を見上げている。
「どう?」
「……切り離せた。そして黒い炎は宙へと消えていったな……あの四人も、同じように治療すればいいんだな?」
「ええ、多分傷口の奥深くにあるはずよ。それを切り離して傷口をふさげば、晴れて治療完了ね」
「わかった。助言感謝する!」
そうして真次は、再び駆け抜ける。
四人への処置を無事終えたという報告は、その約一時間半後に、青年本人から語られたのであった。
7月6日 12:52
彼の能力は、悪意を切り離す程度の能力ですが、呪いに対して効果があることがわかりました。独自解釈の一つですね。
呪いを解除するのは医者の役目ではないと書きましたが、彼ができないとは言ってませんよ?




