STAGE 2-18 西本 真也
遅くなってごめんね! そしてまさかの――
7月5日 22:23
「何よ……何なのよこいつ――!?」
そのスペルカードは、一枚目とは別の意味で規格外のスペルカードであった。
これだけの兵器を同時に管制し、統率し、制御する技量をもっているなど、それだけでも規格外にもほどがある。『レジェンダリーアーセナル』も、十分規格外だというのに。
「こんなの……私の能力で――!?」
「フラン!? ダメよ! 矯正中でしょ!?」
「何これ……一つじゃないの!? これじゃ壊してもキリがない!!」
「! フラン危ないっ!!」
レミリアが妹を抱きかかえるようにして飛んだ。すれすれの所を砲弾の一発が通り過ぎる。だが、その時だった。ピーッと低い音がしたかと思うと、何にも触れてないはずのその砲弾が炸裂したのだ。
スカーレット姉妹が爆風で煽られ、その場に転がる。幸い、さほど大きな怪我ではなさそうだが、精神の方の衝撃の方が大きい。一体何が起こったのか。
「あれってもしかして……資料で読んだVT信管!?」
「小悪魔、知ってるの!?」
「暇つぶしに読んだ外の兵器の資料にありました。確か、目標に近づいただけで爆発する砲弾です! 大きく距離をとってかわしてください!!」
「冗談でしょ!?」
だが、泣き言は言ってられない。炸裂するのは下の砲塔から発射された砲弾だ。幸い、連射が効かないのか、この弾幕密度自体は薄い。飛行機がチマチマと撃ってくる弾幕は小型弾でうっとおしいが、直撃しなければどうとでもなる。
「近づいたら爆発……それなら!」
復帰した咲夜が時間を操作し――砲弾の近くに現れいてた。そして、爆発前に離脱、それを繰り返し、砲弾をレミリアたちに届かせない。
「お嬢様! 今の内に空へ!!」
「いい働きよ。咲夜」
咲夜が引きつけている隙に、レミリアたちは下部砲塔の射角の外へ。要塞正面に立った彼女たちは、航空機を相手にしながら要塞との距離を詰める。と、要塞から数発の砲弾が発射された。また近づくと爆発する弾だろうかと思い、地上で未だ弾幕を引きつけている咲夜を除く全員が散開。
それは結果として正しい判断だった。弾丸は小型弾を大量にばら撒き、空域に砲弾の雨を降らせた。とてもじゃないが、あの小型弾の隙間をくぐるのは不可能だ。これも、弾の軌道を読んで大きく避けるしかない。あるいは――小型弾をばら撒く前に、撃ち落としてしまうかだ。
「レミィ、見た所あれも連射が効かないわ。一気に距離を詰めて!」
「パチェは!?」
「咲夜や美鈴に弾が届かないように、防壁を張っておくわ! ……来るわよ!」
要塞が第二派の弾幕を展開。と同時に、レミリアは要塞との距離を狭める。砲弾が迫りくる中、その真横をすり抜ける。
直後、炸裂。
爆発ではなく、小型弾をばら撒く性質だからこそ、この方法はとれた。あとは、弾幕を撃てない砲台を料理するだけだが……そんな細々しい作業は彼女の趣味ではない。
「紅符『不夜城レッド』!」
真紅のエネルギーが、要塞を貫く。中央にぽっかりと穴をあけた要塞はバランスを崩し、そのまま空中で爆散した。同時に、空を飛んでいた飛行機が煙のように消えていく。
外で操作していたらしく、男は飄々と言った。
「所詮は第二次世界大戦前後の、しかもその残骸を無理矢理繋ぎ合わせた旧式兵器か。要塞にするなら、もう少し大規模にすべきかね?」
「余裕かましてるんじゃないわよっ!」
「おっと……全知『ソウル・ライブラリィ』 六番、魔術防壁展開」
レミリアの突撃を、男は展開した防壁で受け止める。そしてー
「三番、七番、迎撃魔術式展開。一番は詠唱開始、二番は強化、残りの八番術式まで一番の詠唱補助!」
大量の魔法陣が展開され、本職のパチュリーも真っ青な大規模魔術が展開される。
これだけの大規模魔術を同時展開するなど、いかなる才能があっても不可能だ。仮にできたとしても、魔力をあっという間に吸われて干からびて死にかねない。
「これぐらいなら、咲夜さんのナイフの方が恐いです!」
美鈴が余裕を見せるが、パチュリーにとってはそれどころではない。術式を見る限り、今発動している魔術は迎撃と防壁だけなのであって、残りの大規模魔術式は、『何か』の詠唱中とその補助なのだ。
だが、男の防壁は全方位に張られ、強度も一級品。全方位に張られている故咲夜でも侵入不可能で、破壊には時間がかかる、そうしている間に――
「我が魔力に導かれ、怨嗟と怒りとともに降り注げ――星よ堕ちろ! 大規模魔術――流星群!」
複数の魔法陣が消えると同時に、遥か上空に紅い星たちが浮かび上がった。
――隕石だ。しかも、一つや二つではない、無数の隕石群がこちら向かってくる。
「……化物め!」
「お前が言うか? 吸血鬼」
この量を撃ち落とすのは無理だ。恐らく、いくつかは着弾してしまうだろう……誰もが俯いて諦めていく中、一人だけぼんやりと宙を見上げている人物がいた。
「……懐かしいわね、お姉さま。前にも似たようなこと、あったよね?」
「フラン……!? やめなさい! また元に戻るわよ!?」
「……みんなを失うぐらいなら――そんなの、もう恐くない――『きゅっとして、どかーん』」
少女が星々に手をかざしその手のひらを握るたびに、一つ、星が砕けた。
それをくり返して、少女は一つ残らず星を砕いていく――
やがて、最後の星が砕けると同時に、男は驚嘆して「ほぅ!」と声を上げた。
「フラン! フラン!! しっかりしなさい!!」
「あはは……久しぶりだから、少し疲れちゃった」
精神的にぐったりとした様子で、宙を見つめるフラン。その彼女を、姉であるレミリアが支える。
「やれやれ、羨ましい光景だ。私は次男とは喧嘩ばかり、三男とは――そうだな、一度だけ世界を共有したことがあったか。――ここは結界の起点ではないようだし、その美しい姉妹愛に免じて立ち去るとしよう……本当はそこのメイドを呪っておきたかったのだがなぁ」
余裕綽々悠々自適に、その場を去る男。
誰も、追撃する気力が起きなかった。それほどまでに恐ろしい相手だったから。
あれだけ規格外の攻撃の連発していて、なおかつ余裕があるなどどうかしている。
「さらばだ、紅き館の住人よ。もう会うこともないだろうが、一応名乗っておこう『私』は『西本 真也』幻想郷を滅ぼす者の名の一つだ。覚えておくといい」
「西っ……!? 待ちなさい! あなた、参真と関係が――!」
レミリアが問うも、既に男の姿はかき消えていた。
かくして招かざる客は消え、今夜の騒乱は終わりを告げた。
7月6日 00:04
はい! 途中で多くの方が予想された通り、今作のラスボスポジションは西本家長男、西本 真也です!! 彼についての情報は後々明らかになっていくので、ワクテカしながら待っててくれると嬉しいな。




