STAGE 2-15 情報整理
遅くなりました! そして長いよ!!
追記:ミス発見したので修正しときます
7月5日 13:23
「真次……あの男は、誰だったの?」
呆然と立ち尽くす真次に、アリスが尋ねた。
てっきり魔女だろうから知ってるかもと思ったのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「メンデル……本名までは覚えちゃいねぇんだが、大体はそう言えば向こうの世界では通じる。それぐらいの有名人だ」
俯いたまま、彼は淡々と語る。
「生物学……遺伝学の基礎の法則を発見した人で、生物学かじったことある奴なら絶対に一度は聞いたことがあるはずだ。ネット上でもアーカイブされてる。要は……」
「『まだ忘れ去られてない人物』?」
「ああ」
八雲 紫は幻想郷を、「忘れられたモノたちの最後の楽園」と称した。
ならば――忘れ去られていないはずの彼は、どうして幻想郷に?
「……色々と話したいことがあるわ。私の家で情報整理しない?」
「そうだな……俺も、いくつか気になる単語があったし」
帰ろうと立ち上がった彼女だが、所どころ怪我をしているのか、足元がおぼつかない。見かねた真次が肩を貸して、ゆっくりと二人はアリス邸へと向かった。
人形が周辺を見はる家へと到着し、彼女が鍵を開ける。
見た目通り洋風の内装で、所どころ本棚があったり、人形が動いたりしていた。
「どういう仕組みだこりゃ?」
「……多分、説明しても理解できないわ」
「まぁ、そうだろうな」
ゆっくりとアリスをソファーに横たわらせる。人形たちが清潔なタオルケットを持ってきてくれたので、真次はありがたく、それを使わせてもらうことにする。
傷口をそれで丁寧に拭き、手持ちの包帯があったのでそれを巻く。真次は出かけるときにカバンを持ちあるいているのだが、それの中身はほとんど医療キットだ。あまり役立たないほうがいいのだが、真次の直感もあって、ないと困ることの方が多い。現に、今も役に立った。
「……手慣れてるわね」
「本職が外科医なもんでな。白衣着てるからわかりやすいだろう?」
「ああ……それでだったの」
一通り処置を終えると、ちょうど人形が「シャンハーイ」と言いながら紅茶を持ってきた。もちろん二人分である。
「……身体を動かしたくない時は便利だな、自動で動く人形ってのは」
「ま、私が指示を出したり操作しないと動かないんだけどね。完全自立型の人形はできてないわ」
「ふむ……アリスの目標はそこなのか。外の世界で言う『AI』に通じるところがあるかもな。その話はあとでするとして……先にあいつらのことについての情報をまとめようぜ」
真次は愛用のメモ帳を開き、情報を書きとめる準備をした。
「あれの種族は、『怨霊』ね。呼んで字の如くよ」
「ああ、どんな種族かは永遠亭で勉強したから覚えてる。周りいた狼たちも含め間違いないか?」
「知識がある人が見たら、100人中100人がそうだと答えるでしょうね」
「……怨霊の出現地帯は地底だと聞いたんだが」
真次の疑問を、アリスは肯定する。
「その通りよ。地底か、それに近い場所か、地底に関係している施設ぐらいにしか出没しないはず」
「だが、あいつの仲間と思わしき奴らは、迷いの竹林やここ魔法の森、さらには命蓮寺襲撃までやってのけてる。脱走したのか?」
「格の高い怨霊なら、紫たちも警戒もしているはず。それはあまり考えられないわ」
そこで、アリス側が疑問を真次に投げかけた。
「……どうして霊夢や、紫が動いてないのかしら?」
「霊夢は最強の退治屋、紫は幻想郷の管理者だったな」
「ええ、異変が起こったら、真っ先に動くのは霊夢。あまりにもひどい暴れようだったら、紫も黙ってないはずよ」
……病院には、まだ藍がいるから今度紫について聞いてみるのもいいかもしれない。流石に、今起こっている情報までは話してはくれないだろうが……それでも、無駄にはならないはずだ。
「今回の異変は、いつもと違うかもと山の神様も言ってたが、実際そうなのかもしれん。だから、霊夢や紫が『動けない』可能性はある」
「それ、かなり悪い事態よ。最悪とまでは言わないけど、苦しい状況ね」
あまり考えたくはない、とアリスは付け加えた。
「他にもやっかいな特性があるぜ、『強烈な負の念による妖怪の再生阻害』だ。その山の神様が教えてくれたことだ。奴らは、妖怪の再生力を発揮させなくするらしい」
「……おかしいと思ったのよ。下手な弾幕より重い感じがしたけど、そういうことだったのね」
現在進行形で、この能力は発動している。アリスの傷はこれによってつけられたものなので、回復していない。
「幸い、回復魔法や外科的処置は通じるようだ。でも、それでも妖怪にとっちゃ十分脅威だ」
「そうね……強烈な負の念と言ったわね。呪いとは違うの?」
「何らかの呪いだそうだが、それに込められた念が強すぎて妖怪にも別の効果が出てるとのことだ」
「……」
アリスは、思案げに指を唇にあてながら話す。
「ねぇ真次、確かあの……メンデルだったかしら? そいつがあなたに対して、『呪いが通じない』と言ってたわよね。それのことじゃないかしら?」
「!」
そうだ、戦いの最中、真次は呪いに耐性があると相手に話した覚えがある。ならば呪いの本来の対象は――
「アリスと俺の違い……いや、妖怪たちと俺との違いはって言うと……」
「やっぱり種族――この呪いの本来の対象は『人間』なんじゃないかしら」
「そうかもな。どんな呪いかまではわからないが……」
「碌でもないものなのは間違いないでしょうね。こんだけ強い念が込められているんだから」
「そして、あいつらは一体じゃない」
「ええ。あの狼たちも同じ呪い持ちでしょ? 脆いけど早いからやっかいね」
「あ~……そっか、アリスはそこまで情報持ってるわけじゃねぇもんな」
アリスは狼と「メンデル」しか知らないから、そう言ったのだろう。ここは真次からも、ある程度情報を開示した方がいいと判断、アリスに説明することにした。
「同じ呪い持ちが、命蓮寺を襲撃した。そいつは、『西洋の甲冑を着た女』だったらしい。そしてもう一人、俺そっくりに擬態できる奴が一体……少なくても指揮官クラスがあと二人はいる」
「……冗談でしょ? それ以外にもメンデルの口ぶりからして……何人かの『同朋』と、それを束ねているであろう『王』までいるのよ? それで霊夢、紫が動いてないって……下手したら幻想郷が崩壊しかねないわよ!?」
ここにきて、初めてアリスが焦りを見せた。比較的冷静そうに見えた彼女だが、この事態は看過できないらしい。
「あるいは、それが奴らの目的……か?」
「幻想郷への反逆ってこと?」
「どう思う?」
「十分あり得ると思う。メンデルも『復讐の動機がある』って言ってたような気もするわ……」
二人は、黙り込んだ。こうして情報を整理したはいいが、状況は悪いようである。相手の正体が多少なりともわかればいいのだが……
でも、いくつかわかったこともある。この情報をもとに――別口から情報を集めておくのもいいだろう。それに、これからも襲撃が起こる可能性は高い。後手に回ってしまうが、被害者が生きていれば、そこから証言を得るのもいいかもしれない。
「……もう考えても、仕方のないことしか残ってないんじゃない?」
「だな……ってやべ、本来の目的忘れてた」
メモをめくっている最中に、ここに来た理由が書きとめられていて、それを見た彼は思わず呟いた。
「本来の目的? ああ、私に用があるって言ってたわね。何だったのかしら?」
「回復魔法教えてほしくて来たんだ。あーでも、この状況じゃなぁ……」
「ちなみに、魔法の教養はあるの?」
「そんなものは、ない」
大真面目に堂々という真次に、アリスは吹き出した。
「……なぁ、こっちの住民は教えを請うと笑いだすのか?」
「だってあなた、普通の反応じゃないんだもの……じゃあ、まず魔法の基礎からね。助けてくれたお礼に、出来る範囲で教えてあげる。英語読めるかしら?」
「大丈夫だ、問題ない」
アリスが人形を操作し、一冊本を持ってこさせた。
「いい? 魔法は一種の学問によ。それを踏まえた上で、よく読んで頂戴。わからない所があったら、質問して。流石に、回復魔法の実験台になるのは恐いから、私は自前で傷を治すわ」
「わかった」
本を手にとり、真次は読み始める。
アリスが瞠目するのは、これからおよそ二時間先のことであった。
7月5日 14:52
今回の異変についての、現時点での情報ですね。これからも増えていくので、ちょくちょく情報整理回はあるかもです。わかりやすいって大事なんや