STAGE 2-13 帰還
ふふふ……調子がいいぞ! このまま行きます!!
7月4日 15:02
無事ぬえの抜糸を終えた真次は、今度こそ永遠亭へと帰る準備をする。
もう妖怪たちは活力を取り戻しつつある。聖もいるし、大丈夫だろう。もし緊急のことがあれば、また使いを寄こしてくれと言ってある。
「じゃあ、俺はこれで。また何かあったら言ってくれ。医療費は落ち着いてからでいいからな?」
「助かります。真次さん」
「またいつでも遊びにきていいからね! というか、私も永遠亭に行っちゃおうかな~?」
「病院は遊ぶ場所じゃないぞ。ま、あそこにはしょっちゅう遊んでる奴もいなくはないが……」
相変わらず積極的な村紗を冷やかな目で見つつ、真次はその場を後にしようとする。
「……待って!」
去ろうとする真次を、誰かが呼びとめた。ぬえの声だ。
「ぬえ! お前まだ寝てろ! 一応体力消耗してるんだぞ!!」
つい真次は怒鳴った。彼女はまだ動くのは辛いはずである。ここ最近布団での生活もあるので、こうして送り迎えに出てくるのは無茶である。
だが、ぬえは真っ直ぐ真次の目を見て言った。
「だって……まだお礼言ってなかったから。みんなと私を治してくれて、ありがとう」
らしくない言動に、真次は目を見開きながらも――やがて彼の表情は笑顔に変わった。
「どういたしまして。ちゃんと礼言えるなんて偉いぞ~」
「わっ……ちょ! やめろ……!!」
わしゃわしゃと、ぬえの頭の撫でてやる。慣れてないのか、ぬえは恥ずかしがって抵抗した。当然、真次は遠慮なく続ける。
「しっかし、どういう心変わりだ? 俺のこと嫌ってたんじゃないのか?」
「だからって、恩知らずにはなりたくないよ」
「そうかい。なんだかんだでええ子じゃのう……」
「変に老人ぶるんじゃない! というか、いつまでやる気だ!?」
「俺が飽きるまで」
そのまま撫でつづけていると……村紗が「私も! 私もー!!」と言ってきたので、「しゃあないなぁ」と言って村紗も撫でてやる。ぬえとは違い、彼女は素直に喜んでいた。
やがてゆっくりと彼は手を離し、見送りに来た皆に背を向ける。寄り道せずに、彼は永遠亭へと帰還した。
「お帰りなさい。先生」
「ただいま、永琳先生」
久しぶりに永琳と言葉を交わし、命蓮寺のその後を報告した。ぬえもほぼ治ったと告げると、永琳は懸念そうな顔をして……真次が「ヒント、聖」と教えてやると納得がいっていた。
「真次さん! よかったぁ……妖怪に食べられちゃったんじゃないかと心配したんですよ!? あそこは妖怪寺ですから……」
「みんないい奴ばっかだったぜ? あいつらが襲いかかってくるなんて、考えられねぇな」
ウドンゲは真次のことを心配していたようである。真次としては「ライバル」とか言われたことがあるので、この反応は新鮮だった。
「ああ、無事だったウサか。師匠もウドンゲも姫様も、どことなく落ち着きがなくて大変だったウサよ?」
「へぇ……」
相変わらずてゐはそっけない。だが、ウドンゲはともかく、永琳まで落ち着きがなかったとは……輝夜に関しては、なんとなく予想がついていた。
「真次! 久しぶりにゲーム付き合いなさい?」
「はいはい。道具片づけてからなー」
表面上は輝夜もそっけなかったが、顔の端がつり上がっていたのを真次は見逃さなかった。実際の所、輝夜も心配していたのである。だから、無事な真次を見て嬉しかったのだ。
永遠亭の皆が自分のことを想ってくれているのを感じ、真次はしみじみと語る。
「なんつーか……帰ってくる場所があって、そこにちゃんとした人がいるっていいな」
「何よ急に?」
「いや、一人暮らしが多かったし、ちょっと俺の育った環境は特殊でな……」
「まーいるのは妖怪と元月の住人だけだけどね」
「こまけぇことはいいんだよ!」
輝夜と真次の、笑い声が響く。
この時真次は、幻想郷での自分が戻ってくる場所は、ここなのだと強く意識したのであった。
7月4日 17:44
無事に真次君が、永遠亭に帰還しました。
本当はもう少し命蓮寺での話を書きたかったのですが、まだ響子と一輪の会話がありませんでしたし。でも無理に組み込んで話数を伸ばすより、話を進めた方がいいと考え、今の文章に落ち着きましたとさ。響子と一輪ファンの方ごめんね!




