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STAGE 2-12 誤解

おかしい……こんな予定じゃなかったんだけどなぁ……?

7月3日 9:24



 翌日、聖の様子が露骨におかしくなった。

 真次と話すときもしどろもどろ、視線は合わせないし、時折合うと顔を赤くしてあたふたしてしまうのである。周りの皆どころか、真次でもはっきりわかるくらい、態度を変貌させた聖に、真次は渋面を作りながら言った。


「聖、昨日俺が言ったこと覚えているか?」

「えっ……」


 何をどう勘違いしたのか知らないが、顔をますます赤くさせて俯く聖。だめだこりゃ……と内心思いながらも、真次は続ける。


「いいか聖。昨日言った通り、俺は誰かと付き合うつもりはない」

「へっ?……ああ、そうでしたね……私ったら、何を考えて……」


 後半は聞きとれなかったが、ちゃんと意味は伝わったようで一安心である。


「とにかく、そういうことだからあんまりドキマキしてるんじゃない。周りも心配するぞ?」

「い、いえそういうわけではっ……!」

「顔を真っ赤にしていっても説得力無いぞ?」

「だ、だって……可愛いなんて言われたの、久しぶりで……」

「俺の目を見て言え、目を」

「は、恥ずかしくて無理ですぅ!」


 実際首をブンブン振って、恥じらう様子は可憐な乙女のそれなのだが、真次は客観的に可愛いと思うだけで、彼女のことも恋愛対象としては見ていない。いつまでもこんな茶番を続けるわけにもいかない真次は、話題を変えることにした。


「ところで、ぬえの様子は?」


 今日も回復魔法を彼女に当てていて、ついさっきぬえのいた部屋から聖は出てきたところだ。本当は一緒にぬえの様子を見たかったのだが、聖がこのざまなので別々に診ることにしたのだ。


「だいぶ良くなったと思います。もう歩けるかと……包帯もとって大丈夫でしょう」

「本当、魔法ってすげぇな……」

「ただ、気をつけた方がいいかもしれません。ぬえさん、ここ最近機嫌が悪くて……どうも、私をその、真次さんにとられるんじゃないかと思っているらしくて……」

「……ああ、一緒に居る時機嫌悪そうだったのはそういうことか。聖は聖でモテモテじゃないか」

「あはは……とにかく、気を付けてくださいね」

「あいよ~」


 聖の忠告を受け、真次は気を引き締めながらぬえの部屋に入った。

 入るや否や、「なんだお前か」と、低いトーンで彼女がぼそりと言った。


「悪かったな俺で。怪我の様子を診に来たぞ」

「……フン。もうほぼ治ったよ」

「いや、だからこそ診とかなきゃいかん場所がある。下着はそのままでいいから、上脱いでくれ」

「は、はぁ!? なんでさ!?」


 聖がいた時は、さほど抵抗する様子がなかったのだが、真次一人の時は嫌がる素振りを見せるぬえ。男に柔肌を見られるのが嫌なのだろう。だが、真次はこの手のやり取りも慣れている。


「縫った場所を診とかなきゃいかん。身体の内側は魔法の糸使ったから大丈夫だが、外側はこんだけ回復が早いとなると、抜糸を考えないといけないんだよ」

「ばっし?」

「手術で使った糸を抜くことだ。いいか? 俺のした処置は大雑把に言うと、切れちまった体の部分を針と糸で縫い合わせて止めてあるんだ。で、そのまましばらくすると、身体の再生力でバラバラになった組織が再びくっつくんだが、そうなると止めてある糸が邪魔になっちまう。モノフィラメントだから雑菌は少ないとは思うが、早めに抜糸できるならそれに越したことはない。てか、お前傷口自分で見てないのか?」


 頭上に疑問符を浮かべながらも、真次の質問にぬえが頷く。


「……はっきり言って、酷い傷だった。聖が魔法で回復させてくれなかったら、間違いなく跡が残っちまっただろうな。あとでちゃんと礼言っとけよ?」

「言われなくてもわかってるよ……それぐらい。見るんでしょ? 早く済ませてよね」


 しぶしぶと言った様子で、衣服を上に持ち上げるぬえ。傷と包帯の巻かれた箇所が露わになる。……血は滲んでいなかった。真次はその部分を軽く押す。


「痛みは?」

「もう大丈夫」

「違和感はあるだろ?」

「まぁ、ちょっとは……でも大したことない」

「ふむ……明日ぐらいに抜糸済ませてもいいかもな。肩は?」

「そっちは最初から平気」

「わかった。もう下ろしていいぞ」


 ぬえの診察を終え、真次は外に出ようとする。ぬえは自分のことを気に入っていないみたいだし、長居するのも気に障りそうだと思ったからだ。しかし、そんな真次の考えを裏切るように――ぬえがきりだした。


「なぁ。お前、聖のことどう思ってる?」


 やはりというか、気にしているらしい。だが隠すようなことはないので、真次は話してしまうことにした。そちらの方が遺恨が残らない。


「どうって言われてもな……回復魔法がすごいってのは思うが、あの人自体は純粋なところがあって、いい人ってことぐらいにしか思ってないぞ?」

「……好きになったりとかしてないよな?」

「俺はなってない」


 それだけ聞くと、ほっとした様子でぬえは息を吐いた。……やはり気になっていたらしい。


「聖を泣かせたりしたら、ぶっとばすから覚悟しておきなよ?」

「村紗、南無……」

「……なんだって?」


 面白そうなので、昨日の出来事をぬえに教えてやることにする。だが彼は一つ失敗した。


「聖に可愛いって言ったら、顔赤くして気絶しちまいやがってさ……」

「か、可愛い!? 聖にそう言ったの!?」

「……あっ」


 本当は隠そうと思っていたのだが、つい口が滑った。これはまずいと感じたが……もう遅い。


「ついに本性を出したわね……私たちの聖は渡さないわよ!」

「俺はそのつもりはない。誰ともそういう関係になるつもりはないからな」

「なら、なんで可愛いなんて言ったのよ!?」

「『可愛い』と『惚れた』は別だろうに。ぬえはそこんとこ勘違いしてないか?」


 冷静に切り返すも、ぬえは納得していないようだ。


「それに信じらんない! 聖だけじゃなくて、村紗まで毒牙にかけようとするなんて!!」

「……どうしてそうなる」


 それに関しては、向こうから勝手にくっついてきただけである。真次は悪くない。


「ぬえ……安心しろ。俺はお前から大事な友人や人をとっていくつもりはない」

「信用できるか!」

「だよなぁ……」


 思わず苦笑いがこぼれた。どうもぬえとは仲良く出来そうにないらしい。これ以上話しても仕方ないと、真次は今度こそ部屋を後にする。


「じゃあな。お大事に」


 ぬえはプイッと顔を背けただけであった。返答を得られないまま、真次もその場を去る。

 誤解は解けぬまま、事態はあらぬ方向へと走り出したことを、真次はまだ知らない。



7月3日 10:10


という訳で、予定になかったひじりんにフラグが建っちゃいました。真次ぇ……

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