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STAGE 2-11 命蓮寺の縁側で

今回長いよ! あと、ギリギリ投稿でごめんね!

7月2日 21:38



 その日の食事の後片付けを終え、真次、聖、星、ナズーリン、村紗の五人は、縁側でくつろいでいた。真次は端で、隣は村紗である。中央に聖、その隣に星、反対側の端がナズーリンとなっていた。

 ……先ほどからべたべたと、村紗は腕を真次の組んですり寄っている。妖怪の力では振り払えないと悟った真次は、仕方なくそのままにしていた。


「あらあら、いつの間に仲良くなったのですか?」

「村紗から一方的にやってるだけだ。特に好きな訳ではない」

「でも嫌いでもないんでしょ?」

「……はぁ。なぁ聖、ここ寺だろ? 色恋沙汰は戒律で禁止なんじゃ?」


 仏教は基本禁欲であったはずである。こうして男女がべたつくのはよろしくないと思うのだが、それに関してはどうなのだろうか?


「私個人は、人と妖怪が仲良くするのはいいことだと思うので、妖怪と人となら特に禁止してませんよ」

「そうかい……」


 真次が絞り出したような声を出した。聖が止めてくれることを期待したのだが、残念ながら無理そうだ。


「私のどこがダメなのさ~? 炊事洗濯家事全般できて、弾幕戦もそれなりに、今なら水難事故を引き起こす程度の能力もついて来てお得だと思うよ?」

「何だそのお買い得セットみたいなノリは!? 最後のやつ使い道がわからんぞ!?」


 村紗と真次以外の三人から笑いが洩れる。真次はますます疲れたと言わんばかりにため息を吐いた。


「とにかく、俺はその気は全くないからな! これは村紗だけじゃなくて、聖や星、ナズーリンに対してもだ!」

「まさか、真次って男を……」

「どうしてそうなる!? 今のところ俺は恋愛対象に見た人物はいねぇ!」

「……それはそれで、寂しくないのかい?」

「わ、悪かったな! どうせ俺は医者馬鹿で恋愛しない寂しいやつですよ~だ!」


ぷいっと、真次は拗ねてみる。デジャヴを感じたが、似た会話は現世でしたことがあるからだろう。しかし、これもまた事実でもある。だから、拗ねるしかできないというのもあった。そっぽを向く真次に、聖が話しかける。


「真次さん、前々から声をかけようと思ったのですが……入門しませんか?」

「……どうしてまた? こんだけ弟子がいるなら、人数には困ってないだろうに」


 聖の誘いに、真次は疑問に思った。これだけ妖怪に慕われているのだから、今さら人間一人を誘う理由がわからなかった。彼が不思議に思っているところを、星が補足する。


「実は、妖怪の弟子は多いのですが、人は少なくて……なんだかんだで、妖怪を怖がってしまうようです。その点、真次さんは人と妖怪で差別しない上、そもそもあまり妖怪を怖がっていないようですから……寺の皆も、あなたを気に入っているようですし」


 だから、どうです? と問う星に、真次は考えた。が、あっさりと答えは出てしまう。


「すまんが、それは難しいな……」

「どうして?」

「一つの宗教に入るってことは、他の宗教とは対立する形になるよな? そうなると……対立してるからって理由で、誰かを助けられないなんてことがあるかもしれない」

「幻想郷では、そこまで深い対立は起こってませんよ? 睨みあいぐらいはしているのかもしれませんが……」

「こっちがそのつもりでも、相手が別の宗教だからって理由で断る可能性もあるだろう。それは俺の本意ではない。せっかく向こうの世界のしがらみを抜け出せたのに、またここで似たようなのに捕まるのは御免だ」


 真次は現世にて、そのしがらみのせいで、理想を果たせなかった。

 だから、似たような目に遭いそうな組織に入るのはゴメンである。

 しばらく空白の時間が過ぎて……ぽつりと、真次はまた喋り出す。


「……聖が宗教家でなかったら、弟子入りも考えたんだがな」

「弟子って……何の?」

「魔法のだよ。特に、回復魔法。ぬえの時もやったが、同時に二か所重症の部分を治せるのは大きい。それだけじゃない、色々と併用したり研究したりすれば、魔法だけじゃ治せなかったり、俺の世界の医術だけじゃ治せない患者にも、効果があるかもしれないからな」


 真次の言葉に、彼以外の全員が目をぱちくりさせた。


「……なんかおかしなこと言ったか?」

「いえ……その発想はありませんでした」

「そんなこと思いつくのは、外から来た君ぐらいだと思うよ」

「でも、魔法と医学って両方覚えられるの? 真次は頭良いみたいだけど、それでも限度があるでしょ?」

「……いけるだろうなぁ。俺なら」


 村紗が疑問に思う中、真次は呆れ半分に答えた。彼にはその確信がある。父親から――いや、もっと前から脈々と受け継がれてきた『モノ』だ。そして自身の特性を考えるに――恐らくは、いける。


「どちらにしても……私の魔法は我流なところも少なからずありますから、私から教わるのはやめておいた方がいいと思います。ちゃんとした魔女の方に襲わるのがよろしいかと……」

「紅魔館のパチュリーさんでしたり、魔法の森に住むアリスさんとかですかね? 同じ場所に住んでる魔理沙さんは行動に難がありますし、そもそも、自分のために魔法を研究している節もありますから、おすすめはできません」


 星の言う魔女の中に、聞き覚えのある名前があった。アリスという女性は、この前人里の一件の際に顔見知りにはなっている。一応庇ってはいるし、真次の印象は悪くはないはずだ。


「ふむ……なら今度アリスの所にお邪魔するか。顔は知ってるんだ」

「行くときは厄介な胞子が舞っているらしいから、永遠亭で抑える薬でも貰っておくといい」

「……永琳ってすげぇなぁ」


 しみじみと真次が言うと、村紗がふくれっ面になる。


「私より永琳先生の方がいい訳?」

「そうだなぁ……うん。永琳は俺が今まであった中で一番すごくていい医者だ。尊敬できる。村紗より魅力的だな」

「あ、あんな何歳かもわからない人がいいの……?」


 ……永琳が聞いたら即弓矢が飛んできそうだが、さすがにここから永遠亭にまでは届かない。……それを言ったら、ここにいるメンツのほとんどが、かなり歳を行っているのだが。現に皆苦い顔をしている。


「おいおい、歳のことを言ったら、俺と村紗もだいぶ離れてるだろうに」

「うぐ……それはそうなんだけどさ……」


 村紗は言葉に詰まる。なんとか切り替えそうと必死に考えているところに、横やりが入った。


「村紗、歳の話はこれぐらいにしよう。聖が気にしてる」

「えっ!? ……い、いや、気にしてないですよナズーリン!?」

「そう言えば、この前氷精たちの妖怪一団が遊びに来た時、『おばさん』と言われてかなりへこんでいたような……?」

「……ご主人、それフォローになってないよ」


 わなわなと震えだす聖。どうやら相当ショックだったらしい。……まぁ、女性なら誰でも、若く美しく見られたいと思うのは至って普通だとは思うが。


「まーなんだ。マミゾウさんみたいに精神も落ち着いてくると、おばあちゃんと呼ばれても違和感なくなるんじゃないか? 聖はまだなだけで」

「おばあ……ちゃん……私が……?」

「まだそう言われたくないってことは、そういう精神年齢じゃないってことなんじゃねぇの? 詳しくはわからんが、いいじゃないか。心は若いままで。俺なんか変なとこ達観してるせいで、時折老人っぽいなんて言われるんだぜ?」


 放心状態の聖だが、真次の言葉で幾分か落ち着きを取り戻したように見えた、その時である。村紗がトドメの一言を発したのは。


「でも、最近漬物が美味しいとか、柔らかい食べ物がいいとかいってたよね。昨日の晩御飯もパンが柔らかくなっておいしいとか言ってたし」

「おーよかった。聖もチーズフォンデュ気に入ってくれたのか!」


 空気を読めず喜ぶ真次。聖は俯いて肩を震わせている。星とナズーリンは顔を見合わせこっそりと反対側から逃げ出した。爆発するのは、目に見えている。やがて、小さく一言聖は発した。


「……じゃ、ないもん」

「「?」」

「私は……おばあちゃんじゃ……ないもん……うっく……ひっく……」

「「!?」」


 ぽろぽろと涙を流す聖。真次が慌ててハンカチを当ててやる。あたふたとそこで棒立ちしている村紗に真次は表情だけでサインを送った。『謝れ』と。


「え!? ちょ!? ……ゴメン聖! 私が悪かったわ!! 聖は私たちの大切な人で、この寺で一番綺麗だと思うよ!!」

「ほ……本当……?」

「あー……不謹慎だとなじられるかもしれんが、聖の泣き顔みてちょっとドキッとしちまったよ。可愛いぜ」

「ふぇっ!?」


 動揺もあってか、真次が最後に囁くと、彼女はボンッと湯気を出してひっくりかえった。……こう見えて聖は、純情なのかもしれない。現に、可愛いと言われただけで、顔を真っ赤にして彼女は気絶している。


「……ふぅ。どうにか収まったか」

「ね、ねぇ真次……聖にドキッとしたって本当?」

「……人が泣く時なんて、いくらでも見てきたさ。それでいちいちドキドキしていると思うか?」

「そっか。……私が泣いても、そういう風に思ったりしないよね」

「当たり前だ。さ、寝室に運ぼうぜ」


 そっけない真次の態度に、村紗はため息を吐いた。だが、寝室に運ぶと聞いて、村紗は聞かずにはいられない。


「変なことしないでよ?」

「俺がそういう人間に見えるか?」


 普段通りの真次の態度に、安心しながらも、どこか残念な気分になる村紗。

 後日、星とナズーリンは逃げ出したのがばれて、聖にお説教されてしまったとさ。



7月2日 22:30


という訳で、純情ひじりんのお話。誰だっておばあちゃんとかおじいちゃんなんて呼ばれたかない……と勝手に思ってましたが、うちの祖父、妙なこと言ってたんですよね。

というのも、いずれは『おじいちゃん』じゃなくて『じじい』と呼んでくれと……普通、そんな風に言われたか無いと思うんですが、祖父は心構えが出来てたのかもしれませんね。結局、そんな風に呼ぶ前に死去してしまったのですが。

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