STAGE 2-10 初めてのチーズフォンデュ
食事表現あり! お昼前、夕食前の人は注意!
7月1日 18:22
その日、命蓮寺の境内では、溶けたチーズの入った鍋がいくつも焚き木の上に置かれ、複数の台の上にゆでた野菜や切ったパンなどの食材と、串と皿代わりのお椀が置かれていた。
何が始まるのかは、想像できている人物は少ない。それもそのはず、この料理を知っているのは寺では少数だからだ。ナズーリンも大まかな内容と、料理の名前しか知らない。
……彼女にとって、今の状況は生殺しもいいところであった。これだけ良いチーズの香りが漂っているのだ。我慢するのがやっとである。
怪我人の妖怪たちも多数いる中、それでも境内は活気づいていた。珍しい料理が食べられるというのもあって、皆落ち着きがない。
立ち食いと言う形になるようだが、不満を言うものはいなかった。食は人間でも妖怪でも、活力の源である。レアな料理となれば、期待も膨らむというものだ。
やがて、この料理を提案した外来人が現れ、一言発する。
「はい、みなさん! 注目!! 始めての方も多いだろうし、これからチーズフォンデュの食べ方を説明するぞー」
妖怪たちも話をやめ、彼の言動に見入る。
「まず、串とお椀を持ちます。次に適当な食材を串の先端に付けます」
彼がパンを突き刺し、鍋の方へと移動する。
「そしてぇ……チーズ鍋の中に突っ込んでよく絡めます」
チーズまみれになったパンが、鍋の中から出た時「おおっ」と歓声が上がった。程よく湯気が出ていて、食欲をそそる。
「後は、ほどよい熱さになるまで息を吹きかけて冷まします。この時、チーズが垂れてもいいようにお椀を下に持ってくるように! いい温度になったら、いただきます」
彼がパンを口に運ぶ。ぱっと見固そうなパンだが、楽に咀嚼できているようにも見えた。彼が目を閉じ、よく味わって……最後に一言。
「うまいっ! とまぁこんな感じ。さあさあ皆、好きな食材で食べ始めてくれ!」
その言葉を皮切りに、皆がお椀と串目がけて殺到した。もちろん、ナズーリンも先頭で串とお椀をいただく。
「おーい! 食材も食器もチーズも十分用意してあるから、慌てなくて大丈夫だぞ~?」
そうは言われても、ナズーリンは早く食べたくて仕方がない。内容を聞いた時から唾が止まらなかったのだ。早く食してみたい。
食材はとりあえずニンジンを選択。串に突き刺し、大急ぎで鍋の方へ。
大量のチーズの入った鍋の中に、恐る恐る串を沈める。ゆっくりと回してチーズを絡め、取り出すと――たっぷりとチーズが絡まったニンジンが現れた。
(……ああ、夢のようだ)
どうしてこんな素晴らしい料理を知らなかったのだろうと、心底ナズーリンは思う。そのままぼんやりとチーズまみれのニンジンを見つめ……程よく冷めたところで口へと運んだ。
濃厚なチーズの風味が、口の中を満たす。ニンジンもよくゆであがっており、ほんのり甘い。彼女はゆっくり味わうように咀嚼して、二つの食材の奏でるハーモニーを楽しんだ。
やがて、ゆっくりと食材は喉を落ちていく。温かい溶けたチーズと、細かくなったニンジンが胃に沈んでいくのを感じだ。
「……美味い」
この料理が、まだまだあるのだ。しかも、食材はジャガイモ、ブロッコリー、パンなど、数種類ある。……楽園に来た気分だ。
「これは……あとで個人的に真次君には礼をしないとね」
こっそり酒でもおごろうかな。と、ナズーリンは決めた。
その後、寺の皆でチーズフォンデュを味わい、和気あいあいと時間は進んだ。
聖や星も珍しい料理に舌鼓を打ちながら、充実した時間を過ごす。疲弊した妖怪たちにもいい刺激だったようで、命蓮寺での真次の評判は、ますます良くなったのであった。
ちなみに、一番多く食べたのはナズーリンだったことは、言うまでもない。
7月1日 19:09
最近食べてないんですよね、チーズフォンデュ。というか、まだ一回しか食べてないような……おいしかったなぁ……また食べたいですね。




