STAGE 2-5 急報
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6月29日 12:59
「……! この感じ……!!」
永遠亭内の縁側に腰掛け、いつかの夜のように真次と永琳は話をしていた。
今後のこととか、彼のいた世界のこととか……重要なことから、とりとめのない話まで。
そうして話している時、突然真次か呟いたのである。
「あの、先生、どうかされましたか?」
「永琳、信じがたいかもしれねぇんだがな……今日は忙しくなるぞ。多分大勢だ」
このことも永琳は彼との会話で知っていた。彼は直感が鋭いらしい。しかも外れたことがないというのだから驚きだ。
「わかりました。できるだけ準備しておきましょう」
「頼む。俺も準備しておこう」
真次は医療キット一式が入ったカバンをとりに行ったようだ。永遠亭にもその手の道具はあるのだが、自分のいた世界の物の方がしっくりくるらしい。
永琳は各種鎮痛剤や麻酔、傷口をすぐに塞げる軟膏などを用意して、その時を待った。
しばらくして――やってきたのは一匹の妖怪であった。ネズミを連れている妖怪で、自身もネズミの妖怪だ。
しかし、どこも怪我をしている様子はない。……真次の勘が、外れたのだろうかと思っていた矢先、彼女は衝撃的な事実を口にする
「すまない! 大変だ!! 命蓮寺が襲撃された!! 永琳先生はいるかい!? すごい数の怪我人が出てるんだ!! 聖も治療に当たっているが、とても間に合わない!! 手を貸してもらえるかい!?」
「……!?」
比較的最近できたあの妖怪寺は、今や幻想郷の一勢力だ。
そこに対して襲撃を行うというのも驚きだが、それ以上に……あそこの面々に対して怪我を負わせるなど、並大抵のことではない。
「OK、準備はできてる。行くぞ永琳!」
「え、ええ……」
永琳は動揺を隠せないまま、用意していた薬を手ごろなカバンに詰める。
「君は? 見馴れない顔だが……」
「外来の医者だ。いないよりは役立つだろう。大丈夫だ空も飛べる。足は引っ張らんさ」
いないよりは役立つどころか、怪我人に対しては彼の技術は必要不可欠だ。永琳も処置はできるが、圧倒的に彼の方が早いだろう。
「人数は多い方がいい。君の力も借りるよ」
「ああ、まかせとけ。ウドンゲは留守を頼む!」
「わかりました!」
テキパキと指示を出し、真次は既に出発できる体制のようだ。永琳もそれに続く。
「待たせました。行きましょう」
三人は永遠亭を飛びだし、命蓮寺へと向かう。そこで彼女たちが見たのは――
「これは……ひどい……」
無数の血痕と、荒らされた境内がその戦いの激しさを物語る。
寺の広間に入ると、そこには大量の妖怪の怪我人がいた。こちらを見つけた金髪の妖怪……確か、寅丸 星と呼ばれていた人物が、すぐさま駆け寄る。
「ナズーリン! この人たちが永遠亭の医者ですか!?」
「ご主人! 大急ぎで連れてきたよ! 聖は!?」
「今一輪を治しているところです! お二人とも、皆をお願いします……!」
星が頭を下げる。当然、永琳たちも治療に当たった。
「永琳先生……俺が処置終わった後のフォロー頼む」
「先生? 何をおっしゃって……」
「……リミッター外れるだろうから、処置終わったら適当に寝かせといてくれ」
……真次は、意味のわからないことを永琳に告げて――そして、処置に当たる。
「……!? 先生……あなた……!」
助手も連れずに患者たちと向き合い、彼は重症患者を優先して処置を始めた。……本来、外科の治療……重症なものならものほど、助手は必須と言える存在になる。だが彼は――それをなしでやってのけていた。
それだけではない。一人だと道具の持ちかえなどで余計な時間をとられるはずなのだが、それを差し引いても永琳が外科的処置をするより早い。何も語らず、黙々と高速かつ高精度で妖怪たちを治す様子は、精密機械を思わせた。
「次の方!」
もちろん、永琳も各種薬で怪我人に対応していっている。聖、永琳、真次の三人のおかげで、状況は少しずつ改善されつつあった。
まだまだ怪我人はいるが、もう処置しないと危険な妖怪はいない状況まで持っていけた。後は、軽傷の妖怪たちを処置して仕事は終了と思っていた、その矢先。
「……ゴメン、みんな。かたき、とれなかったよ……」
「ぬえ!」
全身傷だらけで、さらに腹部と左肩に深い傷を負った妖怪が寺に倒れ込む。ここまでたどり着くのもやっとだったのだろう。永琳から見ても、彼女は絶望的状況であった。
山彦妖怪がすがるようにこちらを見たが、永琳は首を横に振った。だが――
「ぬえさん! ぬえさん!! しっかりしてください!!」
寺の僧侶である聖は、諦めきれないのか肩に回復魔法を当てている。だが、既に彼女は何人も治していて疲労はピーク。効果も低くなっており、下手をすれば彼女が倒れかねない。そこに――何も言わずに真次が腹部の処置に入った。
(先生……いくらあなたでも……)
ただでさえかなりの妖怪を処置して真次も限界が近いはずだ。体力、集中力共に持つはずがない。彼が普通の人間ならば。
だが――遠目で眺めていた永琳にはわからなかった。彼が――尋常ならざる速度で傷口をふさいでいるのを。疲労していたとはいえ――聖の魔法より早く傷を塞いでいたことを――!
『魔法使い』
外の世界で彼が最後に得た異名は、魔法じみた速さで傷を塞いでしまうからである。そしてもう一つのあだ名にも、ちゃんとした由来があった。
『精密機械』
それは、精度と早さもさることながら、彼は一言も発さず、すべてを一人で処置できる上、疲労を絶対に見せないところが、この通り名の由来である。
彼は、普通の人間ではない。
医療行為に、何かを治すことに特化した人間。
そのためにすべてを犠牲にしている人間だということに、永琳はしばらくして気がつくことになる。
もっともその時には――彼女も引けない所まで、きてしまった後であったのだが。
「嘘……」
永琳は思わず呟いた。
永琳が間に合わない。そう判断した彼女は、荒く弱々しくながらも確かに呼吸し、危険な傷はすべて塞がっていた。
奇跡だ。奇跡としか言いようがない。魔法と二人掛かりだったとはいえアレを間に合わせるなど、超人などという次元を超えている。
(先生……あなたは一体……)
彼女の処置を終えた真次は、ゆっくりとその場をたち、道具と手術着をしまい終えたあと――唐突に倒れ込んだ。
「先生? ……先生!?」
慌てて永琳と無事な寺の面々が駆け寄る。今にも瞼を閉じてしまいそうな彼は、小さくこう言った。
「一日は、目を……覚まさないな。こりゃ……起きた時に……飯用意しといて……くれ」
最後にそう言い残し、彼は眠りにつく。
残された永琳たちは戸惑いながらも……彼を奥に寝かしつけ、残った患者たちを治して回った。
6月29日 17:47
前も書いたかもしれませんが、真次先生は医療方面ではリアルチートです。魔法より早いってどういうことなの……と感じたかもしれませんが。どこぞの黒服の医者並みかもしれませんね。




